レタスも水菜も育ちます  どうしている? 昭和基地の野菜とごみ

 昭和基地には夏の期間に来た隊員たちが寝起きする「夏期隊員宿舎」のほかに、越冬隊員が生活する「管理棟」「居住棟」がある。雪と氷に閉ざされる季節を過ごすこちらは、まさに基地の中枢部。夏宿舎で過ごしていた記者は、2月4日に昭和基地を離れる前の数日間、居住棟に寝泊まりする機会を得た。中には水耕栽培で野菜を育てる「農協」やバーもある。基地で出るごみ事情も併せて報告する。(気象予報士、共同通信=川村敦) 

昭和基地で行っている水耕栽培について説明する第60次南極観測隊の「農協係長」倉島浩章さん=1月(共同)

▽鮮やか! 緑の野菜

 部屋に足を踏み入れた途端、すがすがしい芳香が鼻腔(びくう)に広がる。発光ダイオード(LED)ライトのまぶしいほどの明かりに照らされているのは、目にも鮮やかな緑の野菜だった。

 昭和基地の電力をまかなう「発電棟」の中に「農協」「グリーンルーム」と呼ばれる一室がある。広さは4畳半ほどだ。昭和基地への食料の補給は年1回、南極観測船「しらせ」が来たときに限られる。越冬中、やがて尽きてしまう生鮮野菜を補うため、ここで野菜を育てている。

 現在、しらせ船上で帰国の途にある第60次越冬隊。「農協係長」を務めた倉島浩章(くらしま・ひろあき)さん(46)によると、育てているのは、キュウリ、レタス、水菜、パクチー、三つ葉、バジル、シソ、クレソン、ミント、モヤシなど10種類以上。24時間光を当て、ポンプで水を循環させている。発電機の熱でけっこう暖かいので、植物もそれなりに育つのだろう。

 「2週間に1回くらいはてんこ盛りのサラダが出た」と倉島さん。キュウリは週に10本くらいの収穫があったという。みずみずしい野菜は、さぞ重宝がられたに違いない。

昭和基地のバーでくつろぐ南極観測隊員=1月(共同)

 ▽バー完備、氷は南極製

 『南極観測隊のしごと』(国立極地研究所南極観測センター編)によると、初代の南極観測船「宗谷」の時代からモヤシやカイワレ大根の水耕栽培はあった。その後「第49次隊で新たに高性能の水耕栽培用の野菜栽培装置を導入し、レタスの栽培に成功した」とある。

 基地での機械設備全般の担当だった倉島さん。「南極にもたいていのものはあるが、緑だけはない。仕事だけで1年間を過ごすので、農協係は気分転換にもなる」と話していた。

 発電棟と渡り廊下でつながる管理棟には隊長室、通信室、食堂、バー、医務室などがそろう。バーはカウンターを備えた本格的なもので、週に2回「営業」している。バーテンダーを務めるのも隊員、お客さんも隊員。開店日には、隊員たちのにぎやかな声が響く。誰かが野外観測で採ってきた氷もあったりして、南極らしい。バーの向かいにはドラムセットやギターなどの楽器のほか、マージャン卓、卓球台などもある。カラオケもあった。

南極の昭和基地に捨ててあった古新聞。「平成7年8月新版国会便覧」とある= 1月、昭和基地(共同)

 ▽ごみは捨てていたが…

 人間が生活すれば必ずごみが出る。かつては埋めていたこともあったが、現在は環境保護の観点から、燃やしたりつぶしたりした上で全て持ち帰っている。

 記者が昭和基地の「焼却炉棟」を訪れると、第61次越冬隊の環境保全担当、佐藤貴一(たかかず)さん(42)が、うずたかく積まれたゴミ袋を黙々と焼却炉に詰めていた。越冬隊員は約30人だが、夏期間の多いときには次の隊の夏隊、越冬隊、しらせの支援要員合わせて100人超が滞在し、1日に数十キロのごみが出る。今回、しらせが持ち帰る約1年分の廃棄物は、計約200トン。例年と同規模という。

 基地や周辺にはしばしば古いごみが落ちている。記者が基地でごみ拾いをした際に見つけた新聞には「平成7年(1995年)8月新版国会便覧」との広告が載っていた。基地から数十キロ離れたパッダ島では「平成5年(93年)9月製」と記された発煙筒が落ちていた。島内の別の場所には、完全にさびていつのものか判別できない空き缶もまとめて捨ててあった。南極の自然は手つかずのようだが、そこに観測機器がある以上、誰かが訪れているわけだ。こうして過去の隊が埋めたごみを持ち帰るための調査も佐藤さんの仕事だ。

 ▽焼却炉、処理機を活用

 現在は捨てることなく徹底して分別している。可燃ごみは焼却炉で、生ごみは処理機で灰や炭にしてドラム缶に詰める。段ボール、アルミ缶、スチール缶などは圧縮。回収業者に売却している。壊れたトラックや雪上車も持ち帰りの対象だ。

 管理棟では、トイレなどの汚水はバクテリアで分解した上でろ過し、海に放流。夏期間のみ使う夏期隊員宿舎で出た汚水は薬剤による処理で固形分を取り除いて流している。管理棟に比べると清浄さは劣るという。

 「100人分のごみを処理するのはなかなかしんどい。からにしても次の日には山盛りになっている」。佐藤さんはこう話す。その様子からは、南極の自然と環境を守る重要な仕事を担っている気持ちが伝わってきた。

南極の昭和基地で出たごみを処理する佐藤貴一さん=1月、昭和基地(共同)

© 一般社団法人共同通信社