ロレックス超えの「雲上ブランド」、パテック・フィリップはなぜ定価で買えない?

「若者の時計離れ」と言われていますが、高級時計の人気は衰えていません。特に高値なのがロレックスに代表されるスポーツウォッチ。でも初心者からは「なぜロレックスみたいなデザインばかり人気なの?」と疑問も。高級時計販売店・GMT(東京・新宿)の運営会社、シュッピンの執行役員で同店営業部長も務める近藤誠さんに理由を聞きました。


スイスの時計メーカーの頂点

現在、GMTは実店舗とWebでの販売・買取を展開しており、主に並行輸入と中古の高級時計を扱っています(一部、正規販売店としての取り扱いも含む)。約2,200アイテム(2月中旬現在)を扱っており、うち新品は4分の3程度で、残りが中古・未使用品になります。ロレックス、オメガといったメジャーで高価格帯の時計を中心に、幅広く販売しています。

近藤さんによると、今の売れ筋はやはりロレックス。例えば、人気モデル「デイトナ」であれば300万円前後くらいから買えます(※モデルによってはさらに高額)。

左手前の時計がロレックス デイトナ Ref.116520

GMTではオメガやタグ・ホイヤーといった、もう少し手ごろの著名ブランドも一定の人気を得ています。ただ、ロレックスに加えて特に高級時計ファンから注目を浴びて高値となるのが、パテック・フィリップ、オーデマピゲ、リシャール ミルといった特定のハイブランドなのだとか。

「一般の人にはロレックスが(高級時計と聞いて思い浮かべる)“共通言語”だと思うが、そういった層からするとちょっと手を出しにくい、さらに高いブランドが注目されている」(近藤さん)。例えば、パテックは時計マニアの間で「雲上ブランド」と言われ、スイスの時計メーカーの中でも頂点の1つとされています。

定価の3倍超の値がつくことも

ただ、近藤さんによると、これらのブランドの中でも全モデルが満遍なく人気という訳ではなく、新品・中古品問わず人気が集中するのが、いわゆる「ラグジュアリースポーツ」というジャンルです。

スポーツウォッチとは言えあくまで機械式時計であり、強度や防水性、タイマー機能などに特化した「本当のスポーツ用」とは別物ですが、これらはオン・オフ両方でも使いやすい点などがフォーマルでクラシックな「ドレスウォッチ」系と差別化されていることもあり、人気です。近藤さんによると、GMTの売れ筋を挙げるとパテックでは「ノーチラス」や「アクアノート」、オーデマピゲなら「ロイヤルオーク」などが代表的とのことです。ロレックスの人気モデル同様、ブレスレット部分も含めステンレス系の素材を使ったモデルが主流なのだそうです。

一般的に高級時計も他のブランド品と同様、並行輸入品(正規店でない店が独自に輸入して販売する新品)や中古・未使用品だと、正規の定価よりは安めに買えるものですが、こうした人気のスポーツモデルはむしろ定価よりかなりプレミアの付いた価格で流通しているケースが多いようです。

近藤さんによると、例えばノーチラスの「5711/1A-010」モデルは、今は中古で700万~800万円程度に落ち着いたものの、ピーク時は定価の3倍超にもなる1,000万円クラスの値が付いていたそうです。

右手前がパテック・フィリップ ノーチラス「7118/1A-001」モデル

ロレックス一強だった1980年代

ただ、長く高級時計の売買に携わってきた近藤さんによると、こうした日本でのスポーツウォッチ人気は意外と最近になってのことだと言います。「ノーチラスやロイヤルオークは1970年代に生まれた時計だが、やはり日本人にはずっとロレックスがポピュラーだった」。

精度や堅牢さなど品質に対する信頼性が群を抜いて高いとされ、リセール(転売)時の価格も安定していて資産としても高価値とみなされてきたロレックスは、日本でも石原裕次郎など愛用する有名人が多いこともあり、長く日本で“一強”の時計でした。

ただ、例えばバブル期にはロレックスの中でもまだ、金無垢などドレスウォッチ寄りのモデルが人気を博していたそうです。既に同ブランドの中ではステンレス系のスポーツウォッチも注目を集めていましたが、同タイプの他ブランド商品に人気が波及するほどではなかった、と近藤さんはみています。

近藤誠さん

「1980~90年代までは日本人の(時計に対する)感性がまだちょっと未熟な傾向があったこともあり、ロレックス一強だったのかもしれない」。

人気は2000年代から

一方、2000年代に入って「ブランド(人気)の多様化が起きた。」(近藤さん)。パテックが30周年を迎えたノーチラスのラインアップをリニューアルするなど、こうしたブランド群が“若返り”を図るようになり、徐々に日本の高級時計ファンがロレックス以外のラグジュアリースポーツウォッチにも飛びつくようになりました。

「元をただせばやはり、ロレックスのスチール(ステンレス)モデル人気があったと思う。それらを愛用していた人たちが、さらに上のステージのブランドを求めた際に、(ノーチラスやロイヤルオークなど)これらのモデルは入り込み易かったのだろう」(近藤さん)。これらのブランド側も、もともと持っていたステンレス系のモデルを、ロレックスでスポーツウォッチに目覚めたユーザー向けにモダンに洗練させていった、と近藤さんはみています。

ロレックス GMTマスターII Ref.116710BLNR

富裕層はロレックスより上を買う

加えて、近藤さんは、米国同様、日本も中間所得層が減り、富の二極化が進んでいることが背景にあると指摘します。「お金を持っている人は持っていて、(ロレックスよりさらに高い)パテックやリシャール ミルを買っているようだ」。

ちなみに、新興ブランドであるリシャール ミルはGMTでも1,000万円~数千万円級で売買されるモデルを数多く擁しています。これまでメーカーが発表した中には億クラスも存在する、ロレックス以上に庶民にとっての “高嶺の花”です……。

「時計離れ」とされる世の流れとは裏腹に、意外にも好みのすそ野が広がっているようにも見える日本人の高級時計人気。ただ、近藤さんは「今は(買い手が)資産価値を求めて、ロレックスに人気がむしろ収束してきた気もする」と指摘します。

「このブランドに価値があるのは事実だが、(時計の)個性を出すには他にも楽しいブランドの選択肢がある。コンプリケーション(多機能時計)やビンテージなど、いろんな良い時計に目を向けて、自分の好きな物を買ってみては」。

ただ、定価でロレックスの人気ブランドを買うためたくさんの店舗を訪ねて回る「ロレックスマラソン」という言葉があるほど、投資対象にすらなり得るこうしたブランドの価格動向に注目が集中するのも事実です。後編では、「高級時計の時計はどんな時に変動するのか」について、近藤さんに聞きます。

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