臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(217)

©Nikkey Shimbun

 ルビーニョが外に出るなり、ドアを荒っぽく閉め、なかから鍵をかけた。ところが、彼の赤いコートがドアに挟まってしまった。懸命に引っぱったが抜けない。
「ぼくのドレス、ぼくのドレス」と叫びながら、ドアを開けてくれと懇願した。
「はっ、はっ、はっ。おまえは女の子のドレスをきるのか? コートという言葉もちゃんと言えないくせに」とドアも開けないで友だちをますます苛立たせた。ルビーニョはわめきつづける。何が起っているのか… ネナはレンジから離れてやってきた。そして、ドアを開けてルビーニョを放してやった。彼は一目散に走った。ジュンジは、「ぼくのドレス、ぼくのドレス」といいながら走って後からついていった。

 倹約や工夫は多少効果があったものの、経済状況は少しもよくならなかった。いや、むしろ悪くなったといった方がいい。洗濯業からの収入では家計を賄うこともできなかった。正輝がアララクァーラで貯めた少しばかりの金は底をついてしまった。家賃を払えば、家族が食べていけないという状態だった。
 稲嶺盛一じいさんは正輝の相談にいつも気軽にのってくれた。叔父夫婦の樽、ウシがサンパウロ州の北部に移ったとき、まだ若かった正輝をタバチンガのパウケイマド農場に引き取ってくれたのが盛一だったではないか? 最近では、これから先、生活の安定を求めるには農村ではなく、都市に移るべきだと提案してくれたのも盛一だ。
 そして、彼の次男、ジョン・セイミツが正輝にいい取引だと保証して、自分の洗濯屋を正輝に売ってくれ、仕事を教えてくれた。引っ越してから1年目、借家の契約がおわるころ正輝はもっと安い家に移る決心をした。今回も稲嶺盛一が手をさしのべてくれた。彼はコロネル・フランシスコ・アマーロ街近くのサントアンドレ街270番地のりっぱな家に住んでいた。階段を上るとテラスがあり、そこから住居に入る。横にある入り口からその家の庭に入れるというよく設計された家で、台所からその奥の庭に抜けられた。
 盛一は親切な男でその庭にサン・マルチニョ時代の旧友を住まわせていた。新垣というその男は正輝が生まれた新城のある具志頭の出身だ。今は仕立屋をしている。樽や若かった正輝に沖縄の泡盛と同じサトウキビで作るピンガを勧めてくれたのが新垣なのだ。
 彼が望んだのか、それとも沖縄の女性がいなかったのか、そのことを口に出したことはないが、いまだに独身だった。大変粗末な一部屋の家に住み、だから奥の庭には正輝家族が住めるスペースが十分あり、「状況がよくなるまで、ここに住んだらどうか?」と勧めてくれた。
「できるときにいつでも、いくらでも払ってくれればいいんだ」
 ただでも、友とその家族に住家を提供したいという真心がこもっていて、正輝の自尊心を傷つけることはなかった。金にいきづまり、しかも、短期間で解決しなければならない正輝はこの親切を喜んで受けることにした。

 ある週末、正輝は上の二人の息子の手を借りて、稲嶺家の奥の庭に小屋を建てた。近くの工事現場に残されていたものを拾ってきて、家の骨組みと壁に使った。ただで手に入る材料を使ったので、できあがりはとても家とはいえなかった…トタンは壁を覆ったり、屋根にしたりした。