大喪の礼前日、ジョージア・サテライツのロックンロールとレンタルビデオ 1989年 2月23日 ジョージア・サテライツの来日公演が新宿厚生年金会館で開催された日

昭和天皇崩御、80年代にもっとも強く感じた時代の変化

「♪ For the times they are a-changin'」と歌ったのはボブ・ディランだが、1980年代に時代の変化をもっとも強く感じたのは昭和天皇が崩御されたときかもしれない。

今思い出すと年号が昭和から平成に変わっただけに感じられるが、あのときはちょっとしたパニックに陥った。

1989年1月7日の夕方、下北沢駅前で配られていた新聞の号外で、昭和天皇が逝去されたことを知る。前年の秋からご容態の悪化が伝えられていたため、驚きはさほどでもなかったが、ついにこの時が… という感傷のようなものはあった。

当時の娯楽はテレビ中心、番組自粛の影響がレンタルビデオ店に!

翌日の昼過ぎ、バイト先のレンタルビデオ店の店長から電話がかかってきた。「今日17時からだけど、早めに来てくれないかな?」―― 大学もまだ冬休みだしノープロブレム。というわけで、一時間ちょっと早めに出勤してみたら、店はいまだかつてないほど混雑していた!

スマホもネットもない当時、娯楽の中心はテレビだったのだが、どのチャンネルも報道番組ばかり。夜遊びするにも、どのお店も営業を自粛している。困った人々がレンタルビデオ店に殺到した… というワケだ。

普段はヒマすぎて疲れる仕事だが、この日ばかりは精神的かつ肉体的にヘトヘトになった。貸出を求めるお客の列をさばきつつ、返却にも対応。返却処理されたビデオは、瞬時に次のお客に貸し出し。巻き戻しせずに返ってくるビデオの巻き戻しもしなければならず、この日ばかりは、そういうマナーのなっていない客に殺意を覚えた。

そして閉店の時間には9割のビデオに “貸出中” の表示が。「こんなの、俺以外に誰が借りるんだ!?」と思っていた棚の隅のC級ホラーさえ貸し出されていた。レジ締めを終えて虚脱していたところに店長がやってきて「悪いけど、明日も出てくれない?」と言われ、力なく「はい」と答えた。

大喪の礼前日、ジョージア・サテライツの来日公演はいかに?

とにもかくにも世の中は自粛ムード一色となり、「いつまで続くんだろう?」と思わずにはいられなかった。ひとつ心配だったのは、楽しみにしていたジョージア・サテライツの来日公演がそのあおりを受けて中止になるかもしれない、ということだ。

世間がバブルに浮かれ出し、装飾過多の音楽に人気が集中していた1986年、このアメリカンバンドは日本デビューを果たすのだが、ギター2本とベース、ドラムというシンプルな編成で、3コードのオールドスタイルのロックンロールをブッとい音で鳴らす。こんな時代にこれをやるって、すげえカッコいい! というわけで入れ込んだのだ。

変わるものと変わらないもの、大切なのはどちらも受け入れること

89年に話を戻そう。彼らの待望の初来日公演が中止になるかもしれないという不安は、年号が変わって以来つねにつきまとった。朝刊を開く度に、中止告知が出てないのを確認してはホッとした。それは公演の当日まで続く。

そんなこんなで、公演の実現は本当に嬉しかった。デカいアンプから放たれる大音量のロックンロール。古くさいといえばそれまでだが、世の中には変わるものもあれば変わらないものもある。大切なのは、どちらも受け入れることだよなあと、耳鳴りが治まらない帰り道、考えたものだ。

翌日はバイト。そしてその日は “大喪の礼” が執り行われた。テレビが再び報道番組一色になったおかげで、またも疲労困憊したのは言うまでもない。

※2018年2月23日に掲載された記事をアップデート

カタリベ: ソウママナブ

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