ふるさと納税で3年後に100億円超「流出」、 世田谷区が震える最悪のシナリオ

「ふるさと納税制度の問題点についてはたびたび訴えていますが、やはり国は制度設計の失敗を認めるべきではないかと強く思います」――。東京都世田谷区の保坂展人区長は、1月末の記者会見で、こう訴えました。

区の試算によると、ふるさと納税による住民税の「流出」が3年後には100億円を超える見込みです。将来的にどのような影響が出てくるのか、世田谷区に取材しました。


川崎市に次ぐ全国2位の流出額

任意の自治体に寄付をすると翌年度に住民税の控除が受けられる、ふるさと納税。特産品の返礼競争が激化しており、都市部から地方に寄付する人が増加しています。

所得が高い人ほど多く返礼品を受け取れる仕組みのため、多くの人口を抱え、富裕層も多い大都市ほど、住民税が「流出」しやすい構造です。

世田谷区の減収額は年々増加しており、2019年度は約54億円に達しました。これは川崎市に次ぐ全国2位の流出額です。4年間で約20倍にも増加したことになります。

区の試算によると、流出に歯止めがかからなければ、2020年度は70億円の減収となる見込み。2021年度は91億円、2022年度は118億円と、減収額は増加する一方です。

東京23区や川崎市は地方交付税の交付対象ではないので、減収分の75%が補填されないことが大きく影響しています。

公共施設の修繕計画を見直し

保坂区長は会見の中で、減収額が急増していることについて、「住民税所得割額の10%から20%への引き上げがふるさと納税バブルを誘発したことの原因」と分析。「これを本来の10%に戻すべき。ふるさと納税を1,000万円、1,500万円できるという方もいるので、上限を設けるなどすべきだ」と訴えました。

「このままいくと、将来的には100億円を超える減収が見込まれるという試算も出ています。そうなると、高齢者施設、保育園整備、また学校の改築などの住民サービスに明らかに支障が出てきます」(保坂区長)

具体的にどのような影響が出てくるのでしょうか。世田谷区のふるさと納税対策担当課の担当者によると、公共施設の整備に影響があり、特に学校施設や集会施設、区立の保育園などに顕著な影響が考えられるといいます。

区では、外壁補修や内部設備の更新など長期的な修繕計画を立てていますが、「周期を現在の15年から20年に計画を見直す必要がある」と、担当者は説明します。

学校改築だけで30億〜40億円

2019年度に流出した約54億円だけでも、園庭つき保育園18園分の整備費に相当。学校改築には1校分で30億〜40億円、道路の維持管理に年間で40億円かかるといいます。

また、2023年以降に高齢化がさらに進むことから、福祉などにかかる経費が400億円以上増額すると見込んでいます。

高齢者施設に関しては、現状では直接的に影響は出ていませんが、区の一般財源が落ち込むと、社会福祉法人の特別養護老人ホームの施設整備助成の限度額に影響が出かねないといいます。

また、人件費の高い都内では、介護人材を呼び込むために何らかの方策を取る必要があります。減収が続くと、そうした際に「選択の幅が狭まってしまう可能性がある」と、担当者は危惧しています。

地元愛に訴える「ふるセタ」

保坂区長は「世田谷区としては、強力に国に対し、ふるさと納税制度はもう崩壊している、直ちにやめるべきだ、見直せということを言っていきたいと思います」と、ふるさと納税制度の見直しを求めていますが、他にどのような手を打っているのでしょうか。

世田谷区は2019年10月、返礼品が中心となったふるさと納税制度に対し、「心のふるさとは、今いるココ」「ふるさと納税は、我らがせたがやへ。」と、地元愛に訴えるキャンペーン「ふるセタ」を開始しました。

タレントの松尾貴史さんをはじめとする区民が「ふるさと世田谷」を語る動画をウェブ上に公開し、地元愛を語るムーブメントを目指した内容です。

ほかにも、クラウドファンディング形式の寄付を開始しています。教育、介護福祉、奨学金など、寄付者の興味のあるテーマから使い道を選べる内容。そのうちの1つは「医療的ケア児」のファミリーをキャンプなどの外出イベントに招待する事業で、公的サービスで実現するのは難しい領域で、困っている人を支援する取り組みです。

2020年度は「ふるセタ」で伝えてきた内容を継続しつつも、「区政の税収が大きく減少していて、将来的にはみなさんのお子さんの生活にも影響する」といったメッセージをより強く打ち出していく予定としています。

返礼品の拡充を進める川崎市と異なり、区民の地元愛に訴えかける道を選んだ世田谷区。住民税の流出を食い止めることができるでしょうか。

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