好調ランボルギーニの売れ筋モデル「ウラカン」 自然吸気エンジンは背徳の味

ザ・スーパーカー、ランボルギーニのウラカンに乗りました。なぜでしょうか、この心の高ぶりは……。環境なんて、静粛性なんて、そんなことばかり気にしてどこが楽しい!って叫びながら、我が道をまっしぐらに歩きたくなりました。


乗り降りの大変さもどうでもよくなる?

「2040年にイギリス国内でガソリン車、ディーゼル車の販売禁止」という衝撃的なニュースが世界中を駆け巡ってから3年。「どうせかけ声だけだろ」などといわれていたのですが、イギリスはさらにこの政策を前倒しにして2035年から、などと言っています。当然のことながら純粋なガソリン車やディーゼル車といった内燃機関の肩身は狭くなるばかり。

そんなときにやってきたランボルギーニ・ウラカンEVOの試乗車。はっきり言えば「たまりまへんなぁ~」と大喜びで鍵を受け取り、ドアを開けました。低い、本当に着座位置が低い。おまけにルーフも低いから乗り込むときに体を前にグッと曲げながらまさにお尻からシートにねじ込み、そのあとで足を引き入れ、大きく開いたドアを車内から乗り出しながら引っ張って、バタンと閉めます。この一連の動きさえもなまりきった体にはけっこうなストレスとなりますが、これこそスーパーカーです。古くはカウンタックにもディアブロにもムルシエラゴにも、この乗り降りのストレスはありましたが、そんなことランボルギーニの魅力に比べれば、どうでもいいことです。

低く構えたスタイルこそ、スーパーカーならではの魅力

いま乗り込んだウラカンEVOは“ベビーランボ”と呼ばれ、ランボルギーニのラインナップ上では小さいモデルです。上にはアヴェンタドールがありますが、そのパフォーマンスは決して“ベビー”ではありませんし、なにより現在のランボルギーニの屋台骨をSUVのウルスと共に支えている重要なモデルなのです。

高い位置に排気管があるのもスーパーカー的な風景

タイトなシートに座るとドライバーの背後、つまりミッドシップレイアウトですから真後ろには最高出力640馬力の5.2リットルV型10気筒エンジンが積まれています。このエンジン、実は最近の主流であるターボなどの過給器を持っていません。これを“自然吸気エンジン(以下、NAエンジン)”というのですが、そこがウラカンEVOのポイントです。小排気量のエンジンでもパワーを増大させ、燃焼効率も向上させようとターボを取り付けたエンジンを採用することが多いのですが、あくまでもこのクルマは大排気量のV10エンジンで大出力と大トルクを得ようということなのです。内燃機関を愛するドライバーさん達にとっては王道中の王道といえるエンジンです。さっそくイグニッションボタンに被さった赤いカバーを跳ね上げてエンジンをスタートさせます。

エンジンスタートボタン後方にシフトボタンやパーキングブレーキのスイッチ

背中から感じるエンジンの咆吼

気持ちよくトルクが上昇していくV10エンジン

キュキュっと一瞬だけスターターモーターが回ったかと思ったら、クォ~~~ンと甲高い、周囲を揺るがすかのようなサウンドとともにV10エンジンが目覚めました。この儀式だけでも「あぁ、我が家のボロガレージじゃ、絶対に迷惑だよな」と諦めの気分です。それ以前に3,282万7,601円(税込)の車両価格や諸々の諸経費があれば、住宅ローンを払ってしまいますが……。

10秒ほどだったと思いますがその甲高いエンジンサウンドはすぐに落ち着きを取り戻し、エンジンの回転数が1千回転ぐらいのところで安定します。それでもボボボボボッと後ろからは存在感たっぷりのサウンドと、かすかな振動が伝わってきました。さっそくブレーキを踏みながらパドルシフトを操作して1速にセットします。ブレーキを離してアクセルに右足を乗せ、少しだけ踏み込みます。ゆっくりと走り出すのですが、まだランボルギーニのV型10気筒エンジンとして“史上最強”と言われる640馬力の素顔は見えてきません。一般路ですからごくごく静かに走り出します。

ここですぐに感じたのは、ごく普通に走らせている限り、エンジン音だって凶暴でもなく、レスポンスのいい自然吸気エンジンはとても扱いやすく、乗り心地もゴツゴツとした感じもなく、なんとも快適なのです。不要なアクセル操作や見せびらかしのためのアクセル操作をしない限り、周囲が眉をひそめるようなうるささはありません。

フロントフードのを開けると荷室が現れる

でも運転がしやすく、快適に走ることで少しずつクルマが体に馴染んで来ます。そうすると信号待ちからのスタートなどで、少しずつアクセルの踏み込み量が増えるのです。ウォ~ンと少し遠慮しながらもエンジン音を響かせていると、どんどん楽しくなっていきます。そしていよいよ高速道路に突入です。

3千回転の先にもうひとつの世界が

合流車線で一気に加速し、本戦に合流。あっと言う間に制限速度です。ウラカンEVOの0~100km/hのフル加速時間は2.9秒といわれていますから、あっという間なのです。ちなみ国産車最速のGT-Rニスモは2.8秒だったはずですから、ほぼ同等の加速性能です。電気自動車のテスラ・モデルS P100Dが2.5秒ということで「EVより遅い」と捉える人もいます。確かに時間だけでいうと遅いかもしれません。ところがガソリンエンジンにはそのエンジンならではの独特の加速感があるのです。EVは加速の最初から一気に最大トルクが発生しますから、いきなり強烈な加速が全身を襲うので、少し気持ち悪くなります。

一方のガソリンエンジンは徐々にトルクが盛り上がってきて、その感覚に合わせて車速が上がりますから、感覚的にはより自然なんです。とくにウラカンEVOのV10はターボと比べてもエンジン回転の上昇がマイルドかつ自然で、とても気持ちがいいのです。昔から慣れ親しんだ加速感は、ひょっとすると前時代的かもしれませんが、何ともスムーズで“エンジンはやっぱりいいね~”と思わず叫びたくなるのです。

なによりもアクセルを踏み込むと徐々に盛り上がってくるトルク、そして背後から聞こえてくる官能的なエンジン音の高まり、そして路面を這うような走行感覚はなににも増して快感です。サーキットなどのクローズドコースでこの先の加速感を試すと、あまりの気持ちよさからどんどんアクセルを踏み込んでいくと3千500回転辺りから、もう一段強力なトルクゾーンが顔を見せるのです。もちろん一般道でこれをやればライセンスが何枚あっても足りません。とにかくこのスタートから高速域までの強烈だが実に自然で滑らかな加速感は、過給器やモーターアシストといったパワーユニットではまず味わえない快感なのです。

そして魅力的なエンジンに組み合わされるのが4輪駆動、4輪操舵のドライブトレインです。4輪でしっかりと路面を捉え、4輪で操舵をするわけですから走りは実に安定していて、なおかつアベレージも高く保てる。高速道路での直進安定性の高さだけでなく、コーナーでの切れ味の良さは極上なんです。ステアリングを切り込むと、自分で狙った方向にスッと鼻先が向く、そのレスポンスの良さを味わうと“もう少し、エンジンのクルマに乗っていたい”という気持ちになるのです。

これほど気持ちのいいエンジン搭載車両が、もうすぐ締め出されてしまうのでしょうか? いまだに4割といわれるエンジンの燃焼効率をさらに向上させる努力をしてほしいと願うのは、やはり時代遅れなんでしょうか。スーパーカーに乗るということはある種の背徳を感じることなのかもしれません。

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