海外で武者修行を積んだ2投手が振り返る貴重な経験とは…
ここ数年、NPBではオフになると海外のウインターリーグに参加する若手選手が増えてきた。DeNAでは、2015年オフに筒香嘉智(現レイズ)がドミニカ共和国へ、2017年には乙坂智がメキシコへ渡り、慣れない環境で揉まれてきた。また、2018年にはオーストラリアン・ベースボールリーグのキャンベラ・キャバルリーと戦略的パートナーシップを締結し、同オフから選手を派遣。豪州を経験した今永昇太は昨季、大きな飛躍を遂げた。
このオフもまた、豪州には阪口皓亮、大貫晋一、平田真吾、笠井崇正の4選手が派遣され、メキシコには関根大気、濱矢廣大の2選手が渡った。日本とは言葉も文化も違う土地で、選手はどんな経験をしてきたのかだろうか。
そこで豪州組を代表して4年目右腕の笠井崇正、メキシコ組を代表して7年目右腕の濱矢廣大の2投手が、互いの経験を語る対談を実施。日本野球との違いや海外あるあるなど、幅広いトピックスに及ぶ爆笑トークを展開した。まずは前編から。
◇ ◇ ◇
――今回はお二人の貴重な経験を思う存分、語っていただこうと思います。宜しくお願いします。
濱矢・笠井「宜しくお願いします!」
――まず濱矢投手。メキシコリーグはどんな場所でしたか?
濱矢「バッターは体が大きいですし、日本とはスイングも違いますけど、投げている僕からすると、やっている野球自体はそんなに大きく変わらない感じはしました。チームの雰囲気はベンチがものすごく自由な感じで、騒いでいる人もいれば、お菓子を食べている人もいる。日本ではなかなか見ない光景で、そこはちょっとビックリしましたね(笑)」
――日本でお菓子を食べている人は見ませんね(笑)。
濱矢「ですよね。ベンチの床にヒマワリの種の殻とかメチャクチャ落ちていて、ビックリしましたね。メジャーリーグも一緒ですよね。多分、ゴミはゴミ箱に捨てるっていう感覚がないのかな」
笠井「オーストラリアも同じでしたね。ベンチもブルペンもヒマワリの種の殻だらけだし、紙コップもそのまま床に投げ捨ててあるので」
濱矢「紙コップを床に飛ばして、コマみたいに回している人もいて」
笠井「オーストラリアにもいました」
濱矢「そういう人ばっかりだったよ(笑)」
豪州では試合の前に…「グラウンドを馬が走っていましたね」
――試合中、ファンはどんな応援をしていたんですか?
濱矢「なんか樽とかバケツみたいなものを持ってきて、太鼓代わりにバンバン叩いていましたね(笑)。僕のいたベナドス・デ・マサトランはマスコットが鹿だったんで、試合中に選手がダグアウトから鹿のフィギュアを持ち出して、フェンス越しに観客にハイファイブみたいにタッチさせて盛り上げたり、かなりファンと一体化していましたね」
笠井「僕らのチーム(キャンベラ・キャバルリー)の『キャバルリー』は『騎馬兵』っていう意味らしく、こっちは試合前にグラウンドを馬が走っていましたね」
濱矢「馬?」
笠井「日本じゃ、あり得ないですよね(笑)」
濱矢「すごいな(笑)。メキシコは、日本と比べて試合中にイベントが多かったです。イニング間に必ず何かファンを巻き込んだイベントをしていましたね。10分、15分は普通に試合を止めていましたね」
笠井「(笑)」
濱矢「日本ではそんなに長く試合が止まることはないですよ。メキシコは試合中のファンとの交流を大事にしていましたね。」
――ファンとの距離の近さに戸惑いはありましたか?
濱矢「僕はそこまでなかったですね」
笠井「球場の客席自体も近かったです。ブルペンにいるとフェンスを挟んだすぐ横で、お客さんがおいしそうにビールを飲んでいたり(笑)。オーストラリアでもお客さんと一緒に試合の雰囲気を作ろうっていう距離の近さは感じましたね」
メキシコは球場によってマウンドに大差「『何じゃこれ?』っていう傾斜も」
――実際に上がったマウンドの感触はいかがでしたか。
濱矢「マウンドは何か所かで上がりましたけど、それぞれの球場で全然違いましたね。めちゃくちゃ固かったり、めちゃくちゃ柔らかかったり、『何じゃこれ?』っていう傾斜のところもありましたし。日本ほど整備されていないので。でも、そこはいい練習になったので良かったです」
笠井「オーストラリアも球場によってばらつきはありましたけど、意外とそんなに酷いところはなかったですね」
――ボールそのものも日本とかなり違うと聞きます。
濱矢「メキシコは思っていたよりボールの質は揃っていましたね。メーカーはローリングスで、特に投げにくさとかはなかったです。オーストラリアは?」
笠井「オーストラリアは『ブレット』っていうメーカーでした」
濱矢「ブレット!? どこのメーカー?」
笠井「分かりません……(笑)。結構、滑るボールで縫い目とかもバラバラで、慣れるのにちょっと工夫は必要でした」
濱矢「オーストラリアはやっぱり乾燥してるの?」
笠井「めっちゃしてました。本拠地だけじゃなくて、大体どこでも乾燥してましたね。湿度が低くて、あまり汗もかかなくて。気温が40度とかになるんですけど、汗かかないんですよ。蒸発しちゃって」
濱矢「じゃ、ボールはツルツルなの?」
笠井「もうツルツルです(笑)」
濱矢「ロジンとかベトベトのタイプを使ったり?」
笠井「いや、ロジンはあまりなかったです。チームにあるのが、SSK製のロジンが1つ。それを10か月くらいずっと使ってるって、全然粉が出てないんです(笑)」
濱矢「すごいな、それ(笑)。よく投げれてたな」
笠井「ほぼ布みたいなロジンで、粉が出てるのか出てないのか……。出てくるのもロジンの粉なのか土なのかも分からないくらいでした(笑)」
濱矢「僕らのチームはビーチ沿いの街にあったから乾燥することはなかったな。ビジターでは乾燥しているところもあったけど」
――メキシコでは標高が高くてボールが飛ぶ球場もあったのでは。
濱矢「そうですね。ありましたね。新しい球場に行くたびに、チームメートに球場の特徴を教えてもらっていました」
海外を経験して分かった外国人選手の気持ち「日本に来る方がキツいと思う」
――海外を経験して、自分の中に変化はありましたか?
濱矢「メキシコはかなり時間にルーズなので、集合時間にみんなが集まらないことが結構多いんですよ。僕は性格がせっかちな方なので、今まで集合時間のかなり前に出掛けていたんですけど、今はだいぶ時間通りになってきました(笑)。メキシコでは集合時間に行ったら誰もいないこともあるんですよ」
笠井「オーストラリアは意外と時間はしっかりしていて、みんな出発5分前にはバスに乗り込んでいることもあって。アメリカ人の選手は時間通りだったり、出身国によっても特徴があるのかなって思いました」
濱矢「メキシコでもアメリカ人はしっかり時間を守っていましたね。ただ、やっぱりメキシコ人がだいぶ大らかでビックリしました(笑)。日本じゃあり得ない時間とかに来てましたもん」
――自分のことを誰も知らない場所に行く経験はいかがでしたか?
濱矢「最初やりやすいかなって思ったんですけど、言葉が話せなかったので(苦笑)」
笠井「言葉、ありますねぇ(笑)」
濱矢「英語とスペイン語でも、だいぶ違うと思います。英語はまだ、学校で習っているじゃないですか。僕はスペイン語を何も覚えず行ったので『ありがとう』も知らなかったですし、挨拶も知らなかった。最初は別に覚えなくてもいいかと思っていたんですけど、生活していく上で必要になってきて、結構覚えました」
笠井「何、覚えたんですか?(笑)」
濱矢「いや、最低限だよ。お店に1人でご飯を食べに行くくらいのスペイン語は覚えた。ちゃんと注文したものが出てきたし(笑)」
笠井「だったら、もうスペイン語は喋れますね」
濱矢「単語並べるくらいだよ(笑)。英語は?」
笠井「英語は……まあまあ、注文するくらいは」
濱矢「コーチと話す時は通訳がいたの?」
笠井「いや、通訳はいなかったんですけど、向こうのチームに日本の独立リーグでプレーした(スティーブン・)チェンバースという選手(元BC新潟など)がいて、コーチの話は通訳してくれました」
――海外を経験するとNPBに来る外国人選手の気持ちが分かるのでは。
濱矢「大変さが分かるようになりました。僕らがメキシコやオーストラリアに行ってプレーするより、恐らく外国の選手が日本に来てプレーする方が大変だと思うんですよ。日本の風習に合わせたり、言葉も全く違うし。日本語って絶対、外国人には難しいと思います。困っていたら助けようって気持ちになりますね」
(後編に続く)(佐藤直子 / Naoko Sato)