「お顔洗ったの? えらい!」「寒い中、おつかれさま」「眠いのに起きられたの? えら~い!」
日常の小さなことも肯定してくれるキャラクター「コウペンちゃん」が、人気を集めています。コウペンちゃんが誕生したのは、2017年4月4日。イラストレーターのるるてあさんが、自身のツイッターで「出勤してえらい!」の言葉とともにペンギンのイラストを投稿したところ、またたくまに拡散。「コウペンちゃん」と名づけられ、LINEスタンプでも大人気に。
以降、1,500種超のグッズが発売され、コンビニや鉄道会社、食品メーカーなどさまざまな企業とコラボ企画を展開。昨年行われた原画展では初日、入場制限がされるほどの大盛況を見せました。
コウペンちゃんはどうしてここまで多くの人の心に刺さったのでしょうか? コウペンちゃんのプロデュースを手がけるスパイラルキュートの川上洋一さんにお話を伺いました。
かつてない「二人称のキャラクター」
――いきなりですが、コウペンちゃんの魅力はどこにあると思いますか?
よく聞かれるのですが、コウペンちゃんって今までにないキャラクターなんですよ。他の人気キャラクターを思い浮かべていただきたいのですが、キャラクターというのは設定があって、見ている人はその世界観を楽しむというのが一般的です。
でも、コウペンちゃんの場合、その世界に自分がいる。あるいは、自分の世界にコウペンちゃんがいる。「いっぱいいて、どこにでもいる」というのがコウペンちゃんのコンセプトで、コウペンちゃんはその人のところにいるわけです。これは、ある意味、“発明”だと思っています。
――そう思わせてくれる大きな要因は、コウペンちゃんが発するメッセージですよね。
コウペンちゃんは、「二人称のキャラクター」というか、見ている人に語りかけるキャラクターなんですね。あと、コウペンちゃんが生まれて今年4月で丸3年になるのですが、るるてあさんは、ほぼ毎朝、ツイートしています。会社や学校にいく電車内で、スマホでコウペンちゃんをチェックするのを習慣にしている人がいるんです。
©るるてあ
コウペンちゃんを身近な存在として感じていただけたのは、365日、ツイッターというメディアを通してコウペンちゃんに会える、これも大きな要因だと思います。
「こんな台詞を誰かに言われたい」
――コウペンちゃんのファン層は、どのような感じなのでしょう。
最初は10代から20代、30代の女性の方がすごく多かったんですが、最近は小学生にも広がってきています。意外だったのは、男性サラリーマンにもファンが多いんですよ。カフェを開催するとお一人様の男性サラリーマンがいらっしゃいますし、イベントの行列にも多いときは3~4割が男性ということもあります。
――みなさん、コウペンちゃんの言葉に癒されている。
いちばん最初のツイート、「電車に乗ってえらい」というのは、作家のるるてあさん自身が通勤で電車を使っていて、「こんなセリフを誰かに言われたい」と自分に向けて書いたと聞いています。ゆるい感じで褒めてくれるというのが時代とマッチしていたのだと思います。
――コウペンちゃんは絶対に否定しないですもんね。
西武鉄道さんとのコラボでコウペンちゃんのマナー広告があるのですが、そこでも、「○○しちゃダメ」とは言わないんですね。「リュックを前に抱えていてえらいです」「お行儀良くてえらいです」と、できていることを褒めている。これも、時流なのかなと思います。
西武鉄道とのキャンペーン
2020年、コウペンちゃん海外へ
――コウペンちゃんのキャラクター展開にあたって、注意されたことはありますか。
当たり前のことですが、グッズのデザインとかクオリティに関しては妥協せず、こだわっていて、デザインや色味などタグにいたるまですべてチェックをします。まぁ、これは、コウペンちゃんに限った話ではなく、すべてのキャラクターに対して言えることですが。
ただ、昨年秋に発売されたVAIOの「おしゃべりコウペンちゃん」は、コウペンちゃんだからこその大変さはありました。
――秒で完売したぬいぐるみロボットですよね。
VAIOの「おしゃべりコウペンちゃん」。テレビ番組でのマツコ・デラックスとの絡みの面白さが話題に
「おしゃべりコウペンちゃん」はコウペンちゃんと会話ができ、愚痴を言えば慰めてくれ、肯定してくれるわけですが、コウペンちゃんは、絶対に人を傷つけるような行為を肯定してはいけないんです。コウペンちゃんが言わない言葉をリスト化したのですが、それがものすごい量になって。もちろん、そのすべてをチェックしました。大変ではありましたが、「おしゃべりコウペンちゃん」はすごいものになったと思います。
――今年は年明け早々、全国4都市でカフェが開催されるなど話題がつきませんが、今後、コウペンちゃんはどう展開していくのでしょう?
今、海外への展開を進めているところです。
――海外ですか。
フェイスブックにツイッター、インスタグラム、それぞれにコウペンちゃんの公式アカウントがあるのですが、どれも海外からのアクセスもすごく多いんです。すでに香港・台湾ではさまざまなキャンペーンを展開していて、インスタグラムは香港からのアクセスが国内より多いほどです。
以前、コウペンちゃんが打首獄門同好会の「布団の中から出たくない」という楽曲のミュージックビデオ(MV)に登場したとき、そのMVを誰かがウェイボーにアップしたんです。すると、あっという間に広がって、わずか数日で再生回数1,000万回を超えたこともありました。
――すごいですね。
アジア全般はキャラクター好きではありますが、コウペンちゃんのコンセプトをどこまで理解してもらえるかなとも思っていました。でも、予想以上に受け入れられています。中国も大学進学や就職などでの競争が激しく、みなさん、癒しを求めているのかもしれません。
韓国でのエージェントも決まりましたし、中国のアリババともキャラクター契約を結びました。中国の口コミの拡散力を考えると、コウペンちゃんは今までにないところにまで広がっていけるのではないかと考えています。ただ、アメリカについては、癒しのキャラクターのニーズが未知数で、まずは低学年をターゲットに考えています。
――3年目に大飛躍ですね。
息の長いキャラクターにまで成長させるのって、3年目がすごく大事。ヒットしたキャラクターでも、寿命は2~3年と言われています。どうしても、売り場が飽きてしまうんですよ。でも、3年目もクオリティやレベル、規模をさらに上げて、勢いを維持できたら、5年、10年と続く可能性がかなり高くなる。10年続くキャラクターとなるとミラクルで、狙って作れるものではありません。でも、コウペンちゃんはそういう存在になれるのではないかと思っています。
川上洋一(かわかみ・よういち)
スパイラルキュート代表。百貨店、玩具メーカーでの営業・開発を経て、独立。キャラクターライセンスのプロデュースから、キャラクターの企画・開発を手がける同社を立ち上げ、さまざまなキャラクターのプロデュースを手がける。毎年、国内最高のキャラクターおよびブランドを選ぶ「Licensing of the Year」の常連で、2013年「なめこ栽培キット」、2015年「コップのフチ子」、2019年には「コウペンちゃん」がライセンス・エージェンシー賞を受賞