欧州の観測衛星、小さな恒星の予想外のスーパーフレアを観測していた

近年、太陽系外惑星が数多く見つかっている赤色矮星(M型星)は、太陽(G型星)よりも質量が軽く、表面温度も低い恒星です。今回、その赤色矮星よりもさらに小さな星で、誰も予想していなかった大規模なフレアが観測されたとする研究成果が発表されました。

■観測されたフレアの規模は「キャリントン・イベント」の10倍と推定

J0331-27で発生した大規模なフレアの想像図(Credit: ESA)

Andrea De Luca氏(イタリア国立天体物理学研究所)らの研究チームがフレアを発見したのは、南天の「ろ(炉)座」の方向およそ780光年先にある「J0331-27」という星です。J0331-27はM型星よりもさらに温度が低い「L型」の星で、水素の核融合反応が生じるほどには重くない「褐色矮星」に分類されるもののなかでも、赤色矮星に近い表面温度を示す天体です。

研究チームが欧州宇宙機関(ESA)のX線観測衛星「XMM-Newton」によって得られた観測データを分析していたところ、今から12年近く前の2008年7月5日に、J0331-27から放たれた強力なX線の放射が記録されていました。X線の原因はJ0331-27で発生したスーパーフレアとみられており、そのエネルギーは1859年9月に太陽で発生し、当時の欧米の電信網に大きな影響を与えた「キャリントン・イベント」を引き起こしたフレアの10倍に達したとされています。

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表面温度が2100ケルビン(摂氏1800度ほど)と低いJ0331-27のような星で、これほど強力なスーパーフレアが観測されることは、研究者にとっても予想外でした。研究に参加したBeate Stelzer氏(テュービンゲン大学、ドイツ)は、J0331-27がこのようなフレアを引き起こした原因は「私達にもわからないし、誰も知らない」と語ります。

謎を解く鍵のひとつとなりそうなのは、その発生頻度です。XMM-NewtonはJ0331-27を述べ40日間ほど観測していますが、フレアが観測されたのはこの1回だけでした。Stelzer氏は、L型星ではフレアを引き起こすに足るエネルギーを蓄積するまでに、長い時間を要するのではないかと予想しています。

L型星におけるX線フレアの検出はJ0331-27の事例が初めてですが、研究チームは今回の発見を氷山の一角にすぎないと考えています。XMM-Newtonのプロジェクトに携わるESAのNorbert Schartel氏は「次のサプライズが楽しみだ」とコメントしています。

なお、前述のように、褐色矮星に分類されるL型星の多くは質量が足りず、中心で水素の核融合を継続できない天体とされています(誕生後のわずかな期間だけ、重水素による核融合反応が生じる場合があります)。研究チームは2003年にBaraffe氏らが発表した研究成果などをもとに、J0331-27の年齢が10億歳以上の場合、水素の核融合反応が起きるギリギリの質量(太陽質量の7.2%)を上回っている可能性があるとしています。

X線観測衛星「XMM-Newton」の想像図(Credit: ESA-C. Carreau)

Image Credit: ESA
Source: ESA
文/松村武宏

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