同性婚訴訟、提訴から1年で世論は変わったか 「人並みの願い認めて」と訴え続ける原告ら

 あれから1年が過ぎ、世論は変わったのか―。2019年2月14日、全国で13組の同性カップルが国を相手に一斉に裁判を起こした。同性同士の結婚を認めないのは、憲法が保障する「婚姻の自由」を侵害し、法の下の平等にも反すると主張。「愛する人と家族になりたいという人並みの願いを認めてほしい」。勇気を振り絞り、声を上げたのは「同性カップルも含めたすべての人が結婚という選択肢を持てるように」との願いからだ。原告らはこの訴訟を「結婚の自由をすべての人に」訴訟と呼ぶ。今の思いを聞いた。(共同通信=石嶋大裕、小川美沙)

プラカードを掲げて記者会見する佳織さん(右から2人目)ら原告の同性カップル=2019年、札幌市

 ▽男女のカップルと何も変わらないのに

 19年4月、札幌地裁。しんと静まりかえった法廷に黒いスーツ姿で立ったのは、この日意見陳述する原告で20代の佳織さん(仮名)だ。よく通る落ち着いた声でこう切り出した。

 「私たちは交際12年になる女性同士のカップルです。私たちの日常生活は本当にありふれたものです」

 続けて語ったのは2人がどんな生活をしているか。仕事を終えて深夜に帰宅する佳織さんのために、パートナーは食事を作ってくれる。互いに多忙なため、休日は一緒に温泉旅行や食べ歩きに出かけてコミュニケーションを取る。1週間分の出来事を話し合い、笑ったり、驚いたり、ときには怒ったりする。

 「ここまで聞いて、本当にありふれたものだと感じたのではないでしょうか。男女のカップルと何も変わらない生活をしています」

 だけど、もし…。もしどちらかが事故に巻き込まれたら? 自然災害に見舞われたら? 突然亡くなってしまったら? 法律上の親族ではない佳織さんに連絡が来る保障はない。共同名義のローンや遺産相続、共同親権といった法的な手続きも、結婚が前提という。

 結婚できないことが壁となり、どれほど深く互いのことを思っていても将来を描くことはできない。「常に不安定な立場。支えあって生きる2人が同性同士だというだけで、なぜ」。数年前まで不安と失望で「早くこの世からいなくなりたい」と自殺を考えていたことも明かした。

札幌市の区役所で婚姻届を提出する女性カップル(左)=19年1月(個人情報にモザイク加工してあります)

 ▽世論は変わらず

 同性カップルの関係を公的に認める「パートナーシップ制度」は全国の自治体に広がりつつあり、同性婚の実現を後押しする流れと見ることもできる。

 もちろん現実はまだまだ厳しい。「結婚できず、刹那的な関係を結ぶ人が多いのでは。家族になれないことで孤独を抱えたままの人もいる」。佳織さんは同性カップルが陥りがちな状況を説明する。

 その上で訴える。「この人と一緒にいたいと思った時、支えになるのが結婚という制度。同じ人間なのに、異性同士でなければ認められないのはおかしい。国が私たちの存在を無視しているのと同じだ」

 提訴後、母に女性が好きであるとカミングアウトした。受け入れられたが注意もされた。「少しずつ社会は変わってきていると思うけど、偏見がある人はいる。自分の身は守るようにして」。その思いは香織さんも同じだ。

 「実感として今も世論は変わっていない。制度を変える前に人の感覚や考えが変わらないといけない」

訴状を提出するため、東京地裁に入る原告ら

 ▽2023年までに実現

 提訴から1年を前にした今年2月13日、東京都に住むトランスジェンダーの男性が訴訟に加わることを記者会見で表明した。

 男性は戸籍の上では女性。パートナーの女性との結婚が認められないのは違憲だとし、「性別適合手術を受けていないため戸籍は変更できないが、夫婦と認めてもらいたい」と訴えた。

 だが、翌14日、政府は閣議で「婚姻は両性の合意のみに基づいて成立」すると規定する憲法24条について「当事者双方の性別が同一である同性婚の成立を認めることは想定されていない」との答弁書を決定した。

 「同性婚を認めるべきか否かは、家族の在り方の根幹に関わる問題。極めて慎重な検討を要すると考えており、憲法に適合するか否かの検討も行っていない」とし、同性婚に対する消極的な姿勢があらわになった。

 この難局に、原告の代理人弁護士らは世論を味方にしたい考えだ。昨年、提訴に合わせて立ち上げた支援団体「Marriage For All Japan―結婚の自由をすべての人に」。企業からの投資やクラウドファンディングで活動資金を確保し、ホームページで各地の訴訟の状況や、海外の同性婚事情を紹介している。4月からは全国各地でのイベントも計画する。

 団体理事の前園進也弁護士は「2023年までに同性婚を実現させたい。国会への浸透も必要で、下支えする世論が重要だ」と話した。

© 一般社団法人共同通信社