行政書士の平均年収は400万円?売上高や求人から考える年収

「行政書士資格を取ればそれなりに年収が見込めるのでは?」。士業といえば「稼げる」という印象があります。子供には稼げる資格を持ってほしいと行政書士に関心を持った親御さんもいらっしゃるかもしれませんが、行政書士は実際にどのくらい収入を得ているのでしょうか。公開されているデータから年収について考察します。

行政書士の平均年収は400万円?

インターネットで検索すると「行政書士の年収は400万円」という情報が散見されます。これはハローワーク、各種転職サイトに掲載された求人情報から算出した「求人ボックス」のデータをもとにした情報のようです。

ただし、実際の求人内容を見てみると行政書士資格者ではなく、その補助業務をする人員の求人も混ざっています。そのため純粋な「サラリーマン行政書士の給与水準」ではなく、「行政書士法人などで働く正社員の平均年収」と考えたほうが良さそうです。

参考

行政書士の仕事の平均年収は400万円!給料ナビで詳しく紹介|求人ボックス

行政書士の仕事・求人情報 | 求人ボックス

行政書士の年収を売上高から考えよう

それでは、行政書士の有資格者だけで考えると年収はどの程度になるのでしょうか。士業というと高収入のイメージがありますが、行政書士は働き方に特徴があるので一概には言えません。

行政書士は独立開業するのが一般的

行政書士以外にも士業にはさまざまな資格がありますが、働き方はそれぞれ異なります。例えば弁護士は独立開業することもできますが、法律事務所に所属するサラリーマンや、一般企業の法務部門で働く人もいます。

一方、行政書士は独立して単独の事務所を持つのが一般的です。日本行政書士会連合会が行った「平成30年行政書士実態調査」によると、回答者のうち全体の83.7%にあたる行政書士が単独の事務所を持っています。

参考

月刊 日本行政(2018年10月)p.28| 日本行政書士会連合会

個人が開業する場合、法人化のほかに個人事業主になるという方法もあります。どちらをとってもサラリーマンではなく経営者になりますから、事務所の売上高と自身の収入は分けて考える必要が出てきます。簡単に言うと、売上高から家賃などの必要経費を差し引いたものが純利益として手元に残るイメージです。それでは、独立した行政書士の売上高はどのくらいなのでしょうか。

売上高のボリュームゾーンは500万円未満

引き続き「平成30年行政書士実態調査」をもとに売上高を見ていきましょう。全体の78.7%の行政書士が売上高を「500万円未満」と回答しています。

参考

月刊 日本行政(2018年10月)p.29| 日本行政書士会連合会

これを単純に12ヶ月で割ると1ヶ月の売上は約41万円です。これだけ見るとそれなりに稼いでいるように見えますが、この売上から必要経費が出ていくことを忘れないでください。

1,000万円未満は全体の1割、2,000万円未満は5%

事業者のうち、消費税が課税されるのは売上高が1,000万円以上ある場合です。それ以下は、売上が少ないとみなされて消費税の支払いは免除されます。

この「それなりに稼げている」目安になる1,000万円に売上が届きそうな行政書士は全体の約1割、11.3%とかなり少数です。事業所として少し余裕が出てくる2,000万円未満の売上になるとさらに減り、全体の5.3%のみです。

従業員なしの事務所が大半

一人で働いているのか、従業員がいるのかによっても行政書士の手元に残る金額は変わってきます。「平成30年行政書士実態調査」によると半数以上の行政書士が「補助者(従業員)なし」と回答しています。

	補助者(従業員)
あり	32.3%
なし	66.3%

(月刊 日本行政(2018年10月)p.28| 日本行政書士会連合会より筆者作成)

仮に年間売上が1,000万円を超えている行政書士でも、月給20万円の従業員を一人雇うとそれだけで年間240万円の人件費が出ていきます。この場合は手元に残る売上が760万円となり、かなり少ないことが分かります。500万円程度の売上では人を雇えないということがイメージできるのではないでしょうか。

実際は繁忙期のみ家族やアルバイトの手を借りつつ、普段は一人で仕事を進めていくという形が多いでしょう。

経費等を引いて考えると所得額はあまり多くない?

人を雇っていない行政書士でも、必要経費はそれなりにかかります。何がどのくらい出ていくのかを考えてみましょう。

経費	金額
家賃	50,000
OA機器	20,000
通信費・電気代等	20,000
交通費	20,000
合計	110,000

一般的な必要経費を、大まかに考えてみました。OA機器は購入を割賦にしたり、コピー機をリースすることを前提としています。事務所が自宅の敷地内であれば家賃はいりませんが、毎月一定額の支出があることが分かるのではないでしょうか。

仮に毎月40万円の売上があり、10万円経費がかかるとしましょう。手元に残る金額は毎月30万円程度ということになります。若手であれば十分生活できますが、老後のことも視野に入れるともう少しアップさせたい金額と言えるのではないでしょうか。

参考

テナント・事務所・店舗 10万円以下賃貸物件一覧|アサップエステート

お支払方法 ショッピングローン | ビックカメラ

コピー機リースの料金相場を教えてください | OAランド

実際の報酬ベースで考えてみよう

続いて、実際に報酬を公開している行政書士の例から売上について考えてみましょう。

ある行政書士法人の日当

横浜市にある「あおば行政法務事務所」が報酬目安を分かりやすく公開しているので参考にします。案件によって異なりますが、だいたいの目安は以下のようになっています。

	報酬額
日当(半日)	30,000
日当(一日)	50,000
書類作成(宅地建物取引業者免許申請)	10,000〜200,000

(報酬額の目安 | 横浜市青葉区の行政書士あおば行政法務事務所より筆者作成)

行政書士がクライアントの業務に同行したり、代理で出かけたりする場合は日当が発生し、別途書類作成にはそれぞれ費用がかかるというイメージです。50,000円の書類を作成し、提出まで行った場合、総額80,000円が報酬額ということなります。

なお、この例は横浜市という都市部の行政書士の場合です。地方では報酬額の相場が少ないことも予想されます。

統計上報酬額の大きい案件

日本行政書士会連合会が行った「平成27年度報酬額統計調査」によると、報酬額の大きい案件は建設業の許認可に関するもので占められています。一例で個人の建設業許新規可申請(知事免許)の場合で平均118,204円ほどとなっています。

「建設業の案件をいっぱい扱えばそれなりに稼げるのでは?」と思うかもしれませんが、建設業免許の更新は5年に1回しかありません。「報酬額が大きい案件=めったにない」を前提に、リピーターのクライアントを逃さず、かつ日常的には細かい案件を無理なく取っていくことが大切だと言えるでしょう。

参考

報酬額の統計 | 日本行政書士会連合会

平成27年度報酬額統計調査 | 日本行政書士会連合会

建設業許可の更新について抑えておくべき5つのこと | 建テル

毎日依頼があるわけではないことに注意

報酬額ベースで考えると「そこそこ稼げそうな職業」という印象ですが、毎日依頼があるわけではないことに注意が必要です。

単純計算で月に40万円稼ぐためには100,000円の依頼が毎週1本以上必要になりますが、このような高額案件はめったにないということを見てきました。

また、書類作成には数日かかることも考えると、行政書士一人では多数の案件を捌けないことも分かります。

行政書士法人の求人を見てみよう

「独立して行政書士の事務所を開くのは大変そう。サラリーマンとして行政書士の業務に携わることはできるかな?」と考えた人もいるのではないでしょうか。実際の求人内容を見てみましょう。

有資格者の場合

「求人ボックス」によると、関東圏の求人は比較的平均年収が高めのようです。

平均値	年収(万円)
関東	407
東京都	479
埼玉県	385
神奈川県	385

(行政書士の仕事の平均年収は400万円!給料ナビで詳しく紹介|求人ボックスより筆者作成)

ただし、2020年1月現在公開されている求人を見ると、平均に届かなそうなものも散見されます。以下は新着の求人からピックアップした内容です。

	月給(万円)
埼玉県	18〜25
東京都	19〜30
新潟県	22〜

参考

ゆだ行政書士事務所 行政書士業務の求人詳細情報 – さいたま市 大宮駅 | 求人ボックス

行政書士 平成国際法務事務所 土屋慧 使用人行政書士の求人詳細情報 – 新宿区 高田馬場駅 | 求人ボックス

行政書士法人 倉敷昭久事務所の求人情報 | 転職・求人情報サイトのマイナビ転職

年収のボリュームゾーンは平均より少なく、ごく稀に高額な年収のある行政書士がいるというのが実情のようです。

正社員の給料分布を見てみるとボリュームが多いのは273〜326万円の水準で、平均年収の400万円はこのゾーンよりも高い水準に位置しています。

(引用元:行政書士の仕事の平均年収は400万円!給料ナビで詳しく紹介|求人ボックス)

サラリーマンとして働くのではなく独立開業を選ぶ行政書士が多いのは、全体的な給与水準が高くないことが関係しているのかもしれません。

補助的業務の場合

補助的業務を行うアルバイト・パートの平均時給は、2019年12月29日現在で973円となっています。一般的なアルバイトより多少高額という印象ですが、飛び抜けて高いというわけでもなさそうです。

参考

行政書士の仕事の平均年収は400万円!給料ナビで詳しく紹介|求人ボックス

まとめ

士業の中では比較的挑戦しやすいとされる行政書士の年収について、公開されているさまざまなデータから考えてみました。行政書士資格を持っているというだけで稼げるというわけではなく、さまざまな経営的工夫が必要な職種だということが分かりました。どのように仕事をしていくのか、イメージをつかむための参考になさってください。

参考

公式ホームページ | 日本行政書士会連合会

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