司法書士の年収はどのくらい?働き方とキャリアパス、将来の可能性

法学部などで勉強する学生が専門を生かした職業を考える時、司法書士は有望で現実味のある選択肢でしょう。司法書士になると年収はどのくらいを見込めるのでしょうか、そして働き方や就職先は? 司法書士の年収や報酬、働き方やキャリアの構築について、データを基に解説していきます。また地方で開業することの可能性についても、調査結果をご紹介します。

司法書士の年収はどのくらい?

「司法書士実態調査」にみる司法書士の年収

日本司法書士会連合会「司法書士実態調査」から、司法書士の年収のおおよそを知ることができます。平成28年度の調査によると、平成27年の司法書士の年収の分布は以下のグラフの通り。200万〜499万円が最も多く、500万~749万円、1,000万~4,999万円と続きます。一方、わずかながら「0円」「1億円以上」という回答も。キャリアや働き方、受注案件などによって、大きく収入が変わる職業であると言えそうです。

<平成27年の年収>

※調査対象会員数22,153 名、回答者数2,108 名

(参照元:『平成28(2016)年度司法書士実態調査集計結果』司法書士白書2017年版,p54)

アンケート回答者の属性

司法書士のキャリアや働き方によって、年収が大きく変わる可能性が示唆されました。アンケートに回答した2,108名の司法書士は、どのような人たちなのでしょうか。どういった年齢やキャリア、事務所形態の人たちが多いのでしょうか。アンケート回答者の属性を見てみましょう。

<性別と年齢>

<業務歴>

<事務所形態>

(参照元:『平成28(2016)年度司法書士実態調査集計結果』司法書士白書2017年版,p52-53)

8割以上が男性、年齢は20歳代から50歳代が約半分を占めます。業務歴は10~19年が最も多く、開業から19年までの回答者が約6割。また8割近い回答者が、個人事務所を構えて働いていると分かります。

キャリアと年収の平均的なイメージを描いてみると?

以上のデータから、司法書士のキャリアと年収について、平均的なイメージを描いてみましょう。次のような司法書士像が浮かんできます。

・男性、40代。・司法書士試験に合格して十数年、現在は独立開業して業務に当たっている。・年収は400万円前後、業務内容によっては500万円を超える年も。

参考

『平成28(2016)年度司法書士実態調査集計結果』司法書士白書2017年版

司法書士の働き方は?

就職先には個人事務所と司法書士法人がある

かつて司法書士事務所の形態は、個人事務所しかありませんでした。司法書士法人の設立が可能になったのは、平成15年に司法書士法が改正されてからのことです。従来司法書士になる方法は、司法書士の個人事務所で所長の下、補助者として修業したのち独立開業する、というものしかありませんでしたが、法人に就職するという道もできました。現在のキャリアパスには選択肢が増えています。

独立開業する道も専門性を高める道もあり

現在も司法書士事務所の多くは個人事務所であり、そこでは幅広く多様な業務を取り扱いますが、特定の分野に特化しより専門性の高い業務を行う事務所もあります。特に法人化した事務所では、いくつかの専門部署に分かれていたり、特定分野の案件を大量受注し処理する大規模な事務所も存在します。

個人事務所ではオールマイティな能力が、専門特化した事務所では特定分野の専門能力が要求され、かつ培われると考えてよいでしょう。将来独立開業を目指すのか、組織でプロフェッショナルとなる道を進むのかによって、就職先や働き方も変わってきます。就職活動時に、自分はどういった方向を目指すのか、いずれ開業するのか勤務を続けるのか、考えておく必要があるでしょう。

業務内容と報酬

司法書士の業務は、司法書士法や司法書士法施行規則によって定められたものです。日本司法書士連合会は、司法書士の業務内容を次のように整理しています。

1. 登記又は供託手続の代理
2. (地方)法務局に提出する書類の作成
3. (地方)法務局長に対する登記、供託の審査請求手続の代理
4. 裁判所または検察庁に提出する書類の作成、(地方)法務局に対する筆界特定手続(※)書類の作成
5. 上記1~4に関する相談
6. 法務大臣の認定を受けた司法書士については、簡易裁判所における訴額140万円以下の訴訟、民事調停、仲裁事件、裁判外和解等の代理及びこれらに関する相談
7. 対象土地の価格が5600万円以下の筆界特定手続の代理及びこれに関する相談
8. 家庭裁判所から選任される成年後見人、不在者財産管理人、破産管財人などの業務

(出典:司法書士の業務|日本司法書士会連合会)

※筆界とは土地の登記の際に定められたその土地を区画する線のこと。筆界が不明でトラブルが生じた時、筆界特定制度を利用すれば、裁判より迅速かつ簡易に解決することができる。

司法書士の収入は、業務を行った時に依頼者から受ける報酬からなります。司法書士の年収は、報酬額の設定や受注案件の種類、受注数などによって決まると言えるでしょう。報酬額は、各司法書士が算定方法や諸費用を明示した上で、依頼者との合意により決定することになっています。そのため、一律の決まった報酬額があるわけではありません。

司法書士連合会は、会員に対して報酬に関するアンケート調査を行っています。参考例として、いくつかの業務について報酬の平均額を以下に挙げてみます。

<司法書士の報酬平均額>

※報酬アンケート:平成30年1月実施、4,484名中1,193名の回答

	①所有権移転登記(相続)	②会社設立登記	③債務の整理	④遺言書作成

サポート

①土地と建物(固定資産評価額の合計1,000万円)、法定相続人3名のうち1名の単独相続。戸籍謄本等5通の交付請求、登記原因証明情報(遺産分割協議書、相続関係説明図)の作成、登記申請。

②発起人2名、資本金500万円の株式会社発起設立。登記に必要な書類(定款、議事録、その他証明書等)の作成、定款認証手続および登記申請。

③個人民事再生事件の申立書類の作成。各消費者金融会社への取引記録開示請求、各申立書作成。

④公正証書遺言作成嘱託のサポート。遺言公正証書の原案起案、公証人役場への同行、立会証人。

(日本司法書士連合会『報酬アンケート結果』(平成30年1月実施) より筆者作成)

参考

激変する司法書士業界の現状 | メンターエージェント

多様化する司法書士事務所とキャリアパス | メンターエージェント

司法書士法|e-Gov

司法書士の業務|日本司法書士会連合会

司法書士の報酬|日本司法書士会連合会

地方における司法書士の可能性

大都市への集中と地方での士業不足

弁護士や司法書士が都市部に集中し、地方に少ないことは、長いこと問題にされてきました。同じ日本に住みながら、地域によってトラブル時に法に守られにくいという不利益があることは、法の下の平等が保障されているとは言えないのです。

法律の専門家が身近におらず法律サービスへのアクセスが容易でない地域を、専門用語で「司法過疎地」と呼びます。この問題を解消しようと、日本弁護士連合会や日本司法書士連合会は、1990年代の後半から取り組みを重ねてきました。司法改革により弁護士合格者を増やしてきたのも、その取り組みのひとつです。

司法書士への期待と専門領域拡大

日本司法書士連合会もまた、司法書士の地方での開業を支援するなど、取り組みを続けました。司法過疎地域で開業を希望する司法書士に対しては、開業貸付金や定着貸付金などの資金援助、貸付金返済の免除制度などがあります。

平成14年には司法書士法が改正され、司法書士の職域が拡大しました。身近な紛争解決の担い手として、簡易裁判所における民事訴訟、調停などの代理権が加わったのです。日司連司法アクセス対応委員会委員長の里村美喜夫氏は、次のように述べています。

2002年の司法書士法改正による司法書士の簡易裁判所の代理権の付与は、日司連の司法過疎対策を含め、全国各地に存在する司法書士に対する期待の表れであると思っています。

(引用元:『司法過疎と司法書士』司法書士白書2019年版,p3)

地方で働く司法書士の年収と実態

司法書士が職域と任地を地道に伸ばしている努力がうかがえますが、では個々の司法書士にとって、地方で働くことはキャリアの有望な選択肢になり得るのでしょうか。司法書士連合会は「平成30年度司法書士実態調査」において、司法過疎地で開業した司法書士にアンケート調査を行っています。その集計結果を見てみましょう。

<平成29年の年収(司法過疎地で開業する前の年収と比較して)>

(参照元:『平成30(2018)年度司法書士実態調査集計結果』司法書士白書2019年版)

地方では収入が少なく経営が難しい印象がありますが、アンケート結果を見ると、必ずしもそうではありません。全国の司法書士の年収分布と大きく変わるところはなく、また開業前より年収が増えた人の方が多い結果となっています。

<司法過疎地で開業した満足度>

(参照元:『平成30(2018)年度司法書士実態調査集計結果』司法書士白書2019年版)

自由回答には、開業前の期待や不安、実際に開業してから困ったことなどさまざまな声が寄せられていますが、満足度を尋ねると総じて高い結果が出ています。司法書士連合会は、この結果を次のようにまとめています。

全国の司法書士の満足度と比較して、過疎地で開業した者の満足度は16.2ポイントも高い。司法過疎地での数少ない司法アクセスの担い手として、地域住民からの信頼を得ることで、司法書士自身の満足度が高くなっているのではないかと推察される。

(引用元:『平成30(2018)年度司法書士実態調査集計結果』司法書士白書2019年版,p6)

参考

『司法過疎と司法書士』司法書士白書2019年版

司法過疎地に対する支援|法テラス

司法書士の歴史|日本司法書士会連合会

まとめ

法律系を専攻する学生にとって、司法書士は人気の高い士業です。とはいえどんな職業でもそうですが、資格を取りさえすれば、確実な地位と収入が約束されるというわけでもありません。司法過疎地で開業した司法書士へのアンケート結果は、志をやりがいが収入を含めた仕事の満足をもたらしてくれるということの、ひとつの証明ではないでしょうか。どんな司法書士を目指しどんな仕事をしたいのか、イメージを巡らせながらキャリアパスを考えてみてください。

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