語彙力とは?語彙そのものとの意味の違いや語彙力を付ける方法を紹介

「語彙力とは何ですか」と尋ねられて、即座に答えることはできますか? 「語彙」そのものとは異なる「語彙力」とはどういう力で、どのように身につけることができるのでしょうか。本記事では「語彙力」について説明し、語彙力向上のために子供と取り組めることについて解説します。

語彙力とは?

「語彙力」とは「語彙」に「力」を加えた単語です。語彙との意味の違いは何なのでしょうか。まず「語彙」そのものの定義を確認しましょう。

語彙との意味の違い

ある一つの国語,方言あるいは作品などの単語の総体。現代英語の語彙,東京方言の語彙,『源氏物語』の語彙,などのようにいう。各個人のもつ語彙はそれぞれ異なり,ある言語の語彙はそれを話す人の語彙の総和といえる。

(引用元:語彙(ごい)とは ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説 | コトバンク)

一人の人間や一つの言語集団が持っている言葉の数、全体量のことを「語彙」と呼びます。かなり単純化した言い方をするのであれば、語彙は「日本語として理解され得るすべての言葉」だということになります。

語彙が「量」だとすると語彙力は「質」

上記の定義から分かるように、語彙とは「量」を指します。一方、「語彙力」という言葉が示すのは「質」の部分です。文筆家の槙野さやか氏は以下のように定義します。

辞書的な定義を最低でも第一義、できればそれ以上把握していて、相手に合わせた説明ができて、その場で用例を使って複数の作文ができる語の総計」と定義しています。

(引用元:槙野 さやかさんはTwitterを使っています |Twitter)

辞書でも「意味を知っていること」と「運用する能力」両方を定義しています。

その人がもっている単語の知識と、それを使いこなす能力。

(引用元:語彙力(ごいりょく)の意味 デジタル大辞泉(小学館)| goo国語辞書)

言葉を知っているだけでなく、それを適切に使いこなせる人が「語彙力がある」と見なされます。言語学者の石黒圭氏は、いたずらに語彙量を増やすより、それを適切に運用できるようにすることの方が重要だと主張しています。

「この人、語彙力ないかも?」と思われてしまうのは、通常の語彙の範囲でうまく表現できてないことによる失点が多い気がします。

だから新しい語彙を暗記するよりも、すでに知っている言葉を見直すことが一番の近道だと思いますよ。

(引用元:単語を覚えるだけじゃダメ。語彙力を鍛える方法を言語学者に聞いてきた|新R25 – シゴトも人生も、もっと楽しもう。)

子供の語彙は大人に比べて限定的です。「子供の語彙力を高めたい」と思ったときに新しい語彙を覚えさせようとしていないでしょうか。しかし、これから学校などで学んでいくであろう語彙を先取りさせるよりは、すでに習得しているはずの語彙を適切に使いこなす力を伸ばすことの方が重要かもしれません。

語彙力を身につけるためにできる日常的な取り組みは?

それでは、子供の語彙力を高めるために日常的にできる取り組みには、どのようなものがあるのでしょうか。まずは家庭内の会話から考えてみましょう。

理由を必ず言うようにする

現代社会で語彙力について話題になるとき、しばしばやり玉に挙げられるのが「やばい」「うざい」などといった俗語です。現在の親世代では、子供の頃からこういった俗語に親しんできた人も少なくありません。「俗語が子供の語彙力を低下させている」という指摘が耳に痛いという人もいるのではないでしょうか。

しかし、感情をストレートに言い表すことができる俗語が常に悪であると言い切ることもできません。思っていることを言葉にできないよりは、俗語であっても感情表現ができた方がいい場合もあります。そこで、俗語をよく使う家庭では、「感情表現+理由」を必ずセットで言うようにしてみましょう。

「うざい」なら「自分でもやらなきゃと思っている宿題を早くやりなさいと再三催促されると、よけい心に余裕がなくなる。気持ちが追い詰められて荒れる」など、さまざまな言い方で表現することができます。

もちろん子供は上記のように多くの単語を使い回すことはできないでしょうが、子供の知っている語彙の中でも同様のことを表現することはできるでしょう。なお、このように理由を説明したことがない人には難しい場合がしばしばあります。まずは親がお手本を示してあげるといいでしょう。

違う言葉で言い換えてみる

「疲れた」という一言であっても、「座りたい」「体が痛い」「熱っぽい」「すぐに横になりたい」「お腹が空いた」など、発話した人が具体的に感じていることはさまざまです。特に子供の場合はこのように、体の状態を上手に説明できないことがしばしばあります。自分以外の人により伝わりやすくする言い換え方法を探すことを習慣づけてみましょう。

また、指示代名詞にも注意してみましょう。「それ取って」「今日はあれに行かなくちゃいけないんだよね、あれ」などという会話はどの家庭でも日常的に交わされているはずです。指示代名詞は便利ですが、日常的な語彙を使う機会を奪ってしまうこともあります。

「あれってなんて言うんだっけ」と言葉が思い出せないことも大人になると増えてきます。こういうときにも焦らず、正確にものごとを伝えられるように時間を取って話すようにすると会話から指示代名詞が減っていきます。

初めての体験をしてみる

石黒氏は、豊富な人生経験が語彙力を伸ばすと考えています。

たとえば、ある子どもがいくつかのイタリアンレストランへ連れて行ってもらい、固いパスタと柔らかいパスタを食べたとします。

気になった子どもが両親に尋ねると、パスタの茹で時間が違うと教えられる。そこで歯ごたえの残る状態を「アルデンテ」と呼ぶと知ります。これって語彙が増えていますよね?

(引用元:単語を覚えるだけじゃダメ。語彙力を鍛える方法を言語学者に聞いてきた|新R25 – シゴトも人生も、もっと楽しもう。)

新しい経験をすれば、経験したことをどのように表現するかも知ることができます。説明できる言葉は自分のものとして使えるものですから、これは「語彙が増えた」「語彙力が上がった」と言っていいのです。

しりとりなどの遊びを活用する

しりとりは語彙を増やすことができる遊びです。特にラ行の単語に詰まってしまう人は大人でも多いのではないでしょうか。

勝ち負けではなく語彙力を伸ばすことを目的とするのであれば、「辞書を使っていいしりとり」をしてみてもいいかもしれません。答えに詰まったら辞書を引き、使える単語を探します。一緒に「どんな意味?」「どういうときに使うの?」と確認してみると、楽しみながら語彙力をつけることができます。

勉強しながら語彙力を身につける!

続いては学校の勉強を生かして語彙を身につける方法を紹介します。主に国語の学習が役に立つでしょう。

漢字は語彙量を増やす

日本語には漢字の語彙がたくさんあります。「たくさん」「多い」という言い方だけを取っても、「豊富」「潤沢」「豊満」など、たくさんの類語があります。漢字を学ぶときに熟語も知っていけば、まず語彙の総量を増やすことができます。

鳥取大学附属中学校の研究では、生徒がノートを取れないこと、文字を書かせると表現が幼かったり、ひらがなが多かったりすることに着目しました。会話では違和感がないのに、文章を書かせると年齢よりも幼いという印象がぬぐえない生徒が少なくなかったそうです。

研究では、漢字が使えないことが原因なのではないかと仮説を立てました。つまり、漢字が書けないことが語彙を増やす障害になっており、それが読み書きの語彙に影響しているのではということです。この仮説の基に漢字の成り立ちや部首・つくりの意味を考え直す授業を展開しました。

この結果、漢字に興味が出た、書けるようになった、言葉の意味が分かるようになった、という生徒が増加しました。やみくもに漢字を覚えるだけではやる気になれないかもしれませんが、歴史的背景や使い方まで含めて学ぶと身につきやすいようです。

参考

語彙力につながる漢字の学習 | 鳥取大学研究成果リポジトリ

文章を短く簡潔に書く練習をする

前項でも紹介した鳥取大学附属中学校の研究からは、すらすら話せるのにノートを取れない、文字を書くのが苦手という生徒の例が報告されています。

現代の教育では話し合い、口頭で発表する能力が重視されています。これらも大切なことですが、読み書きの能力をつけるには実際に読んで書く必要があります。

そこで、子供が課題として書く機会の多い作文も活用したいものです。子供の作文は一文が長くなりがちです。「○○して、〜〜で、××でした」というような文章です。こういった長い文章を短く書き分ける練習をしてみましょう。

「○○しました。なぜなら〜〜だからです。そして僕は××と思いました」というような書き分け方ができます。この時点で「なぜなら」という接続詞や「思いました」という感情表現が追加されて文章が豊かになっていることが分かります。簡潔に短い文章で書こうとすると、作文の中の語彙を再び検討する必要が出てくることもしばしばです。「これを言い換える言葉があるかな?」と辞書を引く練習にもなるかもしれません。

茨城大学では、作文を題材にして生徒の語彙を調査しました。まず「わたしたちの平和」というテーマで中学生に作文を書かせます。その後国語の時間に接続詞に関する授業を行いました。続いて書いた作文を生徒自身に推敲させた結果、以下のような改善点が見られました。

  • 一文の長さが短くなった
  • 漢語が増えた
  • 接続詞が増えた

参考

語彙力につながる漢字の学習 | 鳥取大学研究成果リポジトリ

作文語彙と学習成績との関連性からわかる語彙力の諸相 | 茨城大学機関リポジトリ

語彙の使い方は文章で覚えよう

語彙は使いこなして初めて語彙力となることを解説してきました。適切な使い方ができるようになるためにも、文章の表現として覚えることがおすすめです。

読書が苦手なら漫画もおすすめ

例えば本記事のテーマである「語彙力」は「語彙力が高い」「語彙力を上げる」などというように述語と組み合わせて使います。一方「力」とはありますが「語彙力が強い」という言い方はしません。

このような使い方はひとつのまとまりの文章として覚えるのが最も効果的です。そのためには読書が理想的なのですが、本を読むのが苦手だという子供も少なくないでしょう。そのような場合には漫画も活用できます。

漫画は子供が好きなものに加えて、歴史物などの専門用語があるものも用意しておきましょう。作者や対象年齢層によっても語彙が異なるので、さまざまなものを読んでみれば語彙力アップにつながります。

政治・経済用語はニュースを活用しよう

政治や経済の用語は日常生活や学校ではなかなか登場しません。そのため無理のない範囲でニュースに目を通すことをおすすめします。子供向け新聞等を購読すると難しい用語に、解説があるので読みやすいでしょう。

まとめ

語彙力とは何かという定義から、どうして語彙力がつかないのか、向上させるにはどうしたらいいのかを紹介しました。日本語は話し言葉と書き言葉の語彙が異なることも多く、日常会話だけでは限界を覚えることも少なくないでしょう。学校の勉強も上手に活用して子供の語彙力アップを目指したいものです。

参考

語彙(ごい)とは ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説 | コトバンク

語彙力(ごいりょく)の意味 デジタル大辞泉(小学館)| goo国語辞書

語彙力の意味や読み方 | Weblio辞書

単語を覚えるだけじゃダメ。語彙力を鍛える方法を言語学者に聞いてきた|新R25 – シゴトも人生も、もっと楽しもう。

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