「擦り半」が響く

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 江戸の昔、遠くに火の手が上がれば、半鐘を一つ、間を置きながらたたいた。火が近づけば「ジャン、ジャン、ジャン」と三つずつ、最後は「擦り半」といって、槌(つち)を半鐘の中でかき回して鳴らしたと、江戸の暮らしを研究した故杉浦日向子(ひなこ)さんの本にある▲ここ1~2週間が瀬戸際というから、今まさに「擦り半」の時だろう。新型肺炎がさらに広がる場合に備え、政府が基本方針を定めた▲どこで感染したのか分からない患者も確認されている。空港で侵入を防いだりする「水際対策」の頃合いでは、とっくにない▲完全には抑え込めないと覚悟の上で、急速な感染拡大を防ぎ、重症化する人、亡くなる人をできる限り減らす。そのために医療態勢を整えたりと、急いで手を打つという▲流行を食い止められるかどうか、ここが正念場だが、社会不安ならば、もうすっかり広がっている。イベントの自粛が相次ぎ、観光地や繁華街は人出が少ない。経済への打撃を知らせる「擦り半」もまた、音量を増す▲五島市での「五島つばきマラソン」が23日、選手とスタッフの接触をなるだけ減らしたりして行われ、700人ほどが走った。スタッフの方はどれほど神経を使っただろう。半鐘の音に身をすくめながら聞く「いつも通り」「例年通り」の報が、やけに貴重に思える。(徹)