プロ22年目 阪神・福留を突き動かす負けず嫌いの虫 「まだまだでしょうね」

阪神・福留孝介【写真:荒川祐史】

今なお歩み続ける探究の道「そこはずっと追いかけっこ。飽きることはないね」

 1軍デビューは1999年4月2日、広島戦。前年のドラフトで中日に逆指名入団した福留孝介は「2番・遊撃」で先発し、7回には紀藤真琴から右中間へ初安打となる二塁打を放った。その21年後、米国を経て、ユニホームを阪神の縦じまに替えた男は、日米通算2395安打、322本塁打、1250打点と積み重ね、いつの間にか球界最年長野手になっていた。だが、沖縄・宜野座の春キャンプで見せる姿に衰えは見えない。

「自分が球界最年長だから、一番年上だからっていう考えは持たないようにしている。持ってしまうと、どこかに自分でそういう甘えを作るだろうし。なるべく甘えないように」

 オフの過ごし方は変わらない。むしろ、年々始動が早くなっている。シーズン終了後の休みは「良くて10日、早ければ1週間くらいかな」と、ほどほどに。基本的に自己調整を委ねられているが、「じゃあ、ゆっくりっていう気はないし、キャンプ初日からみんなと同じことを全力でやる気持ちで入ってきた」と、ベテランの立場に胡座を掻くつもりはない。

 1年目も22年目も、変わらず己に成長を求める。打撃であれば、前年の反省点を基にした修正を春キャンプでトライ。「それが今の自分に対して合っているのか、合うにはどうしたらいいのか。毎日毎日試行錯誤しながら、ああでもないこうでもないって1人で考えてる」と苦笑い。傍目には完成形に近づいているように見えても、本人の中では終わりのない探究の道だ。

「これっていうのは多分、自分が野球を辞めても見つからないでしょうね。もちろん、自分が思っていることが正しいわけでもないし、相手(投手)もいることだから。相手も去年の僕を見て、思うことが出てくるだろうし、そこはずっと追いかけっこ。ま、飽きることはないね」

気持ちで乗り切れない現実を前に「本当にずっと矛盾したことやってる(笑)」

 経験を重ねてできるようになったこともあれば、若い時にできていたことができなくなったこともある。22年という月日を意識しないつもりではいるが、向き合わなければならない現実もある。気持ちだけでは乗り切れない現実を意識し始めたのは「38、39(歳)くらいかな?」。怪我からの復帰に時間がかかるようになり、その時間が惜しくなってきた。

「若いヤツに負けたくない気持ちでやるのと反対に、自分の年齢も認めなきゃいけない面もある。そこは心の中で『あ゛ぁ~』って思いながらね(笑)。葛藤があるか? もちろん、もちろん。意外とこういうのって処理するのが難しかったりするんですよ。無意識に体がバッと動きそうなところも、意識して『いや我慢……』って思わなきゃいけないし。頭ではいきたがるけど、体のことも考えないと。本当にずっと矛盾したことやってる(笑)」

 笑いながらこう言えるのも、心の中の葛藤を大きく凌ぐ自信があるから、そして子どもの頃から棲み続ける“負けず嫌いの虫”が、今なお健在だからだろう。

「僕は自分が辞めるまで『若い世代からの怖さは感じない』って言うと思いますよ。まだまだでしょうね。僕はうちの選手たちが持っているポテンシャルを見ると、もっとできると思っている。もっともっと失敗しながら、いろんなことをやればいいなって思うけど。『上に行かれたな』と思った時はユニホームを脱ぎます。ユニホームを脱ぐまではそう思わないでしょうし、思っていても『思わない』って言うと思います(笑)」

 若い世代に負ける気はしないが、成長の手助けは惜しまない。春キャンプではフリー打撃で投手役を務め、「彼らの助けになればいい」と高山俊、大山悠輔、北條史也ら若手野手を相手に投げ込んだ。

「この年齢になると個人成績がどうだということはない。この年齢でも野球をやらせてもらって、このチームにいさせてもらっている。そう考えると、やっぱりチームが勝つために何をしなければいけないか。もちろん、自分のパフォーマンスを上げることも大切だけど、プラスαで一緒にできることを考えてやっている感じかな」

 NPB通算2000安打(残り103安打)という記録を前にしても、「個人的なことはどうのって、本当にほとんどない。やっぱりチームが勝ってなんぼ」。狙うは「優勝」の二文字だけだ。

侍ジャパン稲葉監督が春キャンプを視察 「一応伝えておきました」

「そうそう、この間、稲葉(篤紀)監督が来られた時に『僕、横浜スタジアムは相性いいですよ』って、一応伝えておきました」

 その場にいた全員が「えっ?」と虚を突かれた顔をすると、うれしそうにニヤリと笑いながら「言うのは勝手なんで、相性だけでアピールしておいた」と続けた。東京五輪の会場となる横浜スタジアムで、昨季は8試合に出場し、打率.357、1本塁打6打点。相性はいい。

 冗談とはいえ、侍ジャパン入りを口にする42歳。ユニホームを脱ぐ日は、まだまだ遠い未来になりそうだ。(佐藤直子 / Naoko Sato)

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