「新型肺炎」でロレックス価格は上昇、高級時計の値動きを決める“景気以外の要因”

時計離れといわれていますが、高級時計人気は衰える様子を見せません。プレミアの付くロレックスを定価で買おうと多くの店を回る「ロレックスマラソン」という言葉も存在するほどです。投資目的で買い集める人もいる高級時計の価格は、どんな要因で変動するのでしょうか。スポーツウォッチ人気の理由に迫った前回に続き、老舗の高級時計販売店・GMT(東京・新宿)の運営会社、シュッピンの執行役員である近藤誠さんに話を聞きました。


スイスブランドは近年値上げ傾向

GMTは新品に中古、未使用品も含め約2,200アイテムの時計を実店舗とwebサイトで扱っています。同店営業部長も務め、長く高級時計の仕事に携わってきた近藤さんによると、輸入高級時計の最大勢力であるスイスブランドは近年、メーカーが頻繁に値上げする傾向にあるといいます。

「例えばオーデマピゲのロイヤルオーク(人気のスポーツウォッチモデル)は新品で298万円程度で、半年の間に50万円ほど値上がりしている印象。ロレックスも最近値上がりしていたはずです。スイスメーカー側としては、数量を減らして1本当たりの価値を上げたいと思っているのではないでしょうか。特に(ロイヤルオークのような)人気が集中しているモデルは高額になっています」(近藤さん)

1969年、日本のセイコーによる「クオーツショック」以降、正確で安価なクオーツ腕時計が広まった影響から、スイスメーカーは自社商品の“高級ブランド化”を基本的に推し進めてきました。ただ近藤さんによると、近年のスイス勢の値上げにはさらに複雑な経済動向も背景にあるようです。

香港へのフライト数減が影響か

高価な嗜好品であり、基本的に輸入品でもあるこうした高級時計は、景気や為替の影響を敏感に受けます。例えば近藤さんによると、2008年のリーマンショック以降、(不景気で)ジワジワと価格が下がったものの、その後の一連のアベノミクスで円安が加速、値段は上昇傾向に転じたといいます。

富裕層の人気が高い、パテック・フィリップのアクアノート(左)とノーチラス

2010年代前半ごろには中国人訪日客の「爆買い」も高級時計の価格を押し上げたそうですが、その後は中国政府の規制などもあり下火に。「中国人の爆買いバブルが世界的に弾けた後、各メーカーは減産することで時計1本当たりの価値を高める方針になっているとみられます」(近藤さん)。

ちなみに、直近で最も日本経済や中国人客などの消費動向に大きな影響を与えていそうなのが、新型コロナウイルス問題です。近藤さんは、中華圏で航空機の便数が顕著に減らされ、ヒトやモノの行き来が制限されている影響が、時計価格にも既に現れてきたと見ています。

「最近は特にロレックスの流通が減り、価格が上昇傾向にあるようです(※2月中旬現在)。特に香港は(世界的な)時計ビジネスの拠点として知られていますが、そこへのフライト数が減っている影響があるのではないでしょうか」。

ロレックス GMTマスターII Ref.116718LN グリーン

価格に影響する“鮮度”

ただ、中古品ですら定価以上のプレミアが頻繁に付き、しかも食品などと違って短時間で品質が劣化するとも思えない時計の価格に、こうした短期の流通停滞が露骨に影響するのはちょっと奇妙です。近藤さんは、特にロレックスのような一部の人気ブランドは、流通において野菜のような一種の“鮮度”を持っている、と説明します。

「ロレックスは新品、未使用、中古品のいずれも保証書の“鮮度”が重要になります。現行品でも古い物なら安くなるし、年式も当然、古い物は安価になる。こういう時に特に上がり下がりが激しくなるブランドと言えます」(近藤さん)。特殊な価値を持つ一部のビンテージ品を除けば、「新しいほどプレミアが付きがち」な性質を持つがゆえに、流通が滞ると価格が高騰傾向になるという、生鮮食品にちょっと近い動きをするのだそうです。

無論、ロレックスを株のような投機目的で購入する人も少なくないため、「価格が上昇している時にさらなる値上がりを期待して購入する」ような動きが、価格をさらに吊り上げている可能性もある、とみています。

価格変動が見えにくい

近藤さんによると、国際情勢の激変が時計価格を乱高下させた例は他にもかなりあるそうです。例えば、英国のEU離脱表明(2016年のブレグジット)ではポンドが急落、円高の影響が直撃しました。他にも米国のトランプ大統領選出など、特に為替が大きく動く情勢変化が時計価格に影響を与えてきました。なお、香港デモは意外にも時計価格にはさほどの影響を与えなかったそうです。

近藤誠さん

ロレックスをはじめ、アクセサリーだけでなく株のように投資目的で買う人も少なくない高級時計ですが、やはり初心者がいきなり儲けようと狙って購入する行為は、その難しさから一般的にはあまりお勧めされていません。ただ、近藤さんは「例えば競馬ファンが血統などの情報から(馬券を)当てるように、時計投資も詳しい人ならできないわけではない」と説明します。

ただ、コロナウイルス問題については、全世界的に収束への先行きが極めて不透明なこともあり、時計業界への今後の影響もやはり未知数だとか。「今は一時的に(ロレックスなど)流通量が減っているが、中国人の消費のはけ口が(特に春節時に)止まってしまった影響は、予測がつきません」(近藤さん)。

株や外貨と同様、「高級時計投資」も相当に一筋縄ではいかない世界、と言えそうです。

© 株式会社マネーフォワード