eスポーツ人気拡大の鍵は? 認知度7割超も、法律の壁どうクリア

茨城国体の文化プログラムとして行われた「eスポーツ」の全国都道府県対抗選手権でサッカーゲーム「ウイニングイレブン」オープンの部を制した茨城第二代表=2019年10月6日午後、茨城県・つくば国際会議場

 コンピューターゲームの腕前を競う「eスポーツ」の人気が高まっている。2019年に開催された茨城国体の文化プログラムとして初めて実施され、賞金総額が1億円を超える大会まで新設された。関係者は「23年の市場規模は19年の2・5倍まで拡大する」と競技の広がりに自信を見せている。(共同通信=榎並秀嗣)

 ▽eスポーツ元年

 eスポーツが注目を集めるようになったのは18年。同年2月に、複数あった団体を統合した「日本eスポーツ連合(JeSU)」が発足したことがきっかけだった。公認大会が毎週のように開かれるようになり、年末の「現代用語の基礎知識選 2018ユーキャン新語・流行語大賞」にも入賞した。

 取り上げる地上波のテレビ番組も各局で始まった。それに伴い、認知度は大きく上昇した。JeSUによると、eスポーツを「知っている」と答えた人の割合は、17年9月の14・4%から、18年7月には41・1%に。19年9月には72・8%の人が「知っている」と答えるまでになった。

 市場規模も拡大している。「KADOKAWA Game Linkage」の調べでは、17年に3億7千万円だった市場規模は、セガやバンダイナムコ、コナミといった大手ゲーム会社が相次いで参入したことで、18年に48億3千万円にまで急増。19年も約61億2千万円と拡大が続いている。取り巻く環境が大きく転換した18年は「eスポーツ元年」と呼ばれている。

日本のeスポーツ市場規模。なお、2020年以降の数値は予測=出典:KADOKAWA Game Linkage

 ▽遅れている日本

 「eスポーツに対する期待は想像を超えるくらい大きい」

 JeSUの浜村弘一副会長は発足からの2年を振り返って、そう話した。

 だが、世界的に見ると日本はかなり遅れているという。eスポーツ最強国とされる韓国は1990年代後半から国が主導してeスポーツの支援に取り組んでいる。99年にはプロアマを問わずに参加できるeスポーツのリーグ戦も始まり、競技人口増につながっている。また、世界のトーナメント大会の中には、賞金総額が約36億円、優勝賞金が16億円を超えるものも出てきた。

 ニンテンドースイッチ(任天堂)やプレイステーション(ソニー)といったゲーム機に加え、セガやコナミ、カプコンなどの世界的なソフトメーカーがあるにもかかわらず、日本でeスポーツの普及が進まなかったのはなぜか。

 浜村副会長は「法制度が大きな壁」になっていると説明する。賞金が出る大会を開く際には、景品表示法や風営法、刑法といった法律の要件をクリアする必要があるので簡単にはいかないのだ。

 具体的に何が問題となるのか。①賞金を出すことでゲームソフトを買わせようとしたら景品表示法に②参加者から参加料を徴収するとゲームセンター営業に該当すると見なされ風営法に③徴収した参加料から賞金を出すことが刑法の賭博罪に―それぞれ抵触する恐れがあるのだ。

 JeSUは対策として「賞金ではなく仕事の報酬として支払う」「賞金は参加社や主催者以外の第三者(スポンサー)が提供する」という形を取ることに。そして、戦績など条件を満たした選手にJeSUがプロライセンスを発行し、公認大会に参加する選手には、このライセンス所持を義務づけた。

 まだまだ法的にクリアにしていくべき問題はあると浜村副会長は表情を引き締めた。「それでも関係する省庁の担当者も前向きになっている」と手応えを感じている。

 ▽多様性

「eBASEBALL プロリーグ」の開幕戦=19年11月3日、東京・台場

 ライトアップされたステージにプロゲーマーが登場すると、駆けつけたファンで歩くスペースが無いほど混雑した会場から、一斉に歓声が上がった―。

 19年11月3日、2シーズン目を迎えた「eBASEBALL プロリーグ」の開幕戦は司会者が「驚いた」というほど多くの人で盛り上がった。

 同リーグは日本野球機構(NPB)とコナミデジタルエンタテインメントの共同開催で、18年から始まった。野球ゲームソフト「実況パワフルプロ野球」を使用したリーグ戦形式の大会だ。実際のプロ野球と同じく、セ・リーグとパ・リーグの12球団がペナントレース、そしてクライマックスシリーズを戦う。

 盛況ぶりとともに、目を引いたのがファンの年齢層の幅広さだった。子供とその親、高齢者までが声援を送っていた。広島の帽子をかぶった70代の男性は「カープだったら、何でも応援したい。シーズンオフは試合が無くて寂しかったが、楽しみが見つかった」と笑う。

 プロゲーマーが目当てという人もいる。将来の夢はプロゲーマーになることという男子高校生(16)は「プロ野球はほとんど見ない。憧れのゲーマーを見に来た」と話した。20代の女性は、プロ野球に興味はなく、ゲームもほとんどやらない。プロゲーマーが好きなのだ。

 「多様なファンをより多く獲得できるかが、eスポーツの将来を左右する」。浜村副会長は指摘する。重視するのは、憧れのゲーマーを見にやってきた20代女性のように、ゲームをほとんどやらない人だ。プロ野球でも広島を応援する「カープ女子」に代表される女性ファンの存在が入場者増につながっている。ちなみに、03年に94万6千人だった広島の入場者数は、15年には球団史上初めて200万人を突破。19年も222万3千人と増え続けている。

 ▽5G

 eスポーツを巡る環境もどんどん変わっている。専用施設が次々と新設され、3月1日には国内最大になるというeスポーツ専用施設「REDEE(レディー)」が大阪府吹田市にオープンした。コナミも1月に東京・銀座でeスポーツの複合施設「esports 銀座 studio」を開業。4月からはプロゲーマーなどeスポーツに関わる人材育成を目的とした講座を行う「esports 銀座 school」を始める。

 今年から本格導入される高速大容量の第5世代(5G)移動通信システムも追い風になりそうだ。大容量という特長を生かすことで、より多くの人が同時にゲームに参戦できるようになり、回線が不安定になる問題も解消するので大会がより開きやすくなる。KADOKAWA Game Linkageは23年の市場規模を153億3千万円と予想している。

 浜村副会長も「5Gが普及すれば、東京と離島の人が対戦できるなど距離の制約もなくなる。eスポーツの発展を後押ししてくるはず」と期待を込めた。

上新電機のeスポーツ専用施設内でゲームのデモンストレーションを披露するプロ選手ら=2月20日午後、神戸市

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