「メニュー増えすぎ」、大量閉店「いきなり!ステーキ」が狙う原点回帰

「今日、私はとても緊張しております。業績の回復を期すために決意をしているわけですが、大勢の方々にご心配をおかけしました」――。2月26日に開催されたペッパーフードサービスの2019年12月期の決算説明会の冒頭、一瀬邦夫社長は神妙な面持ちで頭を下げました。

厳しい状況が続く「いきなり!ステーキ」を今後どう立て直していくのでしょうか。一瀬社長の口から飛び出したのは「原点回帰」という言葉でした。一瀬社長が思いを語った、決算説明会の一部始終をレポートします。


「いきなり!ステーキ」74店閉店

ペッパーフードサービスの8割以上の売り上げを占める主力事業である「いきなり!ステーキ」。2020年度中に74店を閉店することが、決算説明会で明らかになりました。すでに不採算の44店舗を2020年春までに閉店すると発表していましたが、さらに30店が加わった格好です。

いきなり!ステーキの店舗数は、2019年末時点で路面店352店、ショッピングセンター店141店の計493店。前年末から約100店舗増加しています。その一方、既存店売上高は2018年4月から前年割れが続いてきました。2020年度は新規出店を控え、既存店の売り上げや利益の回復に注力する方針です。

既存店の売上不振からの脱却する施策として、まず実施するのが自社ブランド同士の競合が起こっている店舗の閉店。これにより、既存店舗の売り上げを回復させる狙いです。

大量閉店の決定に至った背景として、2019年度決算の悲惨な数字が影響しています。ペッパーフードサービスの2019年度の売上高は675億円(前年同期比6.3%増)だった一方、本業の儲けを示す営業損益は71億円の赤字(前年同期は3,863億円の黒字)と、大幅に悪化しました。

いきなり!オイスターは効果出ず

いきなり!ステーキでは2019年12月期にさまざまな施策を実施。目玉は、5月に一部店舗で開始したオイスターメニューの提供でした。一瀬社長がアメリカのステーキレストランを見てインスピレーションを受けて開始したものです。しかし「喜ばれて客単価も若干上がったが、業績を大きく押し上げることにならなかった」と、一瀬社長は振り返ります。

また、子供連れやお年寄りなどファミリー層が訪れるロードサイド店では、対面で会話しやすいようにと、ローテーブル・フラット化を51店舗で実施しました。これも「結果的に売り上げはほとんど改善されなかった。ファミリーの方が喜ぶということはございませんでした」(一瀬社長)

ほかにも、メニュー改定やディナーの時間帯の定量カット導入など、テコ入れをしてきましたが、大きな売り上げの改善にはつながりませんでした。

一瀬社長はいきなり!ステーキの不調の原因を「いきなり!ステーキらしさとは何なのか。次から次に施策を打った結果、道に迷ってしまった。同業他店もどんどん増え、業績が悪くなると、さらにメニューを増やしてきた。これが悪循環になっている」と分析します。

原点回帰でシンプル化

そこで一瀬社長が口にしたのが「原点回帰」という言葉です。一瀬社長にとっての原点は、2013年に銀座四丁目に開店した、いきなり!ステーキ1号店。当初はメニューが1種類しかなく、1グラム5円という価格で、300グラム以上の厚切りで食べることを推奨していました。ネットで話題になり、行列が絶えなかったといいます。

しかし、現在はフェアを頻繁に実施しているためメニューが多く、利用者が迷ってしまうだけでなく、従業員の接客の負担が増えてクレームにつながっていました。「一回、思い切ってシンプルな店を作る」と、一瀬社長は説明します。

今後は銀座と錦糸町の2店舗で3月2日から1ヵ月限定で、通常1グラムあたり6.9円のリブロースを1グラム5円で提供します。これで利用者が求める方向性を検証して、メニューや価格などを見直していく予定です。

実際、価格については「高い」という声が寄せられているようで、「カンブリア宮殿」(テレビ東京系)に出演した際、小池栄子さんに同様の質問されて「つい机を叩いてしまった」と、一瀬社長は語ります。

グラム当たりの価格で他店と比較すると割安だとしても、「お客様に説明しても納得していただけない」ことから、ショッピングセンター店などの一部では、150グラム税別900円と低価格な「テンダーカットステーキ」の提供を始めています。

ペッパーランチを強化へ

2020年度の計画では、いきなり!ステーキの売上高は496億2,700万円(前期比13.1%減)、営業利益が16億5,300万円(同14.1%減)。一方、ペッパーランチ事業の売上高は99億5,700万円(同13.3%増)、営業利益17億0,700万円(39.3%増)となっています。

決算説明会でペッパーランチについての言及はあまり多くありませんでしたが、いきなり!ステーキを営業利益の額で上回る計画を組んでいます。ペッパーランチは1994年に1号店がオープン。2019年末の店舗数は525店に上ります。

既存のいきなり!ステーキを自社競合を回避するため、ペッパーランチへの業態転換を5店舗予定します。内食需要の高まりに合わせ、デリバリーやテイクアウトを強化していくほか、ヒレやリブロースなどの高単価商品の導入で既存店を強化する方針です。

ステーキ業態のチェーン店が増加して競争が激化する中、原点回帰を宣言した、いきなり!ステーキ。はたして安定的な売り上げを確保することができるでしょうか。

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