DeNAのぶれない大黒柱に… 今永昇太が惜しまない新しい挑戦と成長の歩み

DeNA・今永昇太【写真:津高良和】

苦悩の2018年から大きく飛躍した2019年「前年の反省をしっかり生かせた」

 DeNA今永昇太は昨季、開幕から先発ローテを守り抜き、3度の完封を含む13勝7敗、防御率2.91の好成績で、チームのリーグ2位に牽引した。3月と11月には侍ジャパンにも選出され、「第2回 WBSC プレミア12」では圧巻の投球で大会初Vに貢献。今夏の東京オリンピックに向けて、日本のエース左腕候補の呼び声も高い。プロ5年目の26歳。身長178センチ、体重85キロ。決して体は大きくないが、存在感は際立つ。

 チームでは先発の柱として期待されるが、ここまで決して順風だったわけではない。入団3年目の2018年、思うようなピッチングができずに先発ローテを外れた。23試合(16先発)で4勝11敗、防御率6.80。そのオフ、今永は2018年を「すごく恥ずかしい経験」と評し、自らをバッサリ斬り捨てた。そして、2019年は「ルーキーたちと同じ気持ち、それ以上の気持ちで立場をアピールしたい」「代わりの利かない選手になりたい」と話していたが、見事に有言実行してみせた。

「前年の反省をしっかり生かして、自分の長所は何なのか、もう1回再確認できた。シーズンを通じて活躍することはできませんでしたが、自分の持っていた感覚がいい時の自分に戻りつつあるので、そういう意味では良かったのかなと思います」

 もちろん、課題も見つかった。自分に足りないと感じたもの。それは「技術」だ。

「いい時はいいけど、調子が良くない時にある程度でも試合を作ることができなかった。そこは体力もそうですけど、技術が足りなかったと思うんです。調子の良し悪しをカバーできる技術を磨いていかないと。例えば、真っ直ぐがダメな時に他のボール(球種)でどうカバーするか。逆に、他のボールがダメな時に真っ直ぐでどうカバーするか。真っ直ぐは良くても良くなくても絶対に使っていかなければいけないので、真っ直ぐの投げどころだったり抜きどころだったり。その加減が、今後自分が成長するためには必要だと思います」

 バッテリーは配球を組み立てる時、その日の投手が投げる持ち球の状態を見極め、軸となる球種を決める。真っ直ぐを軸に置くこともあるし、他の球種を生かすための見せ球にすることもある。今永が課題とするのは、真っ直ぐを見せ球にする時の配球パターンだ。

「僕の場合、真っ直ぐを見せ球にする配球パターンがあまりないんです。真っ直ぐの調子がいいと抑えられるけど、ダメな時は試合を通して苦しくなる。真っ直ぐを試合の中で建て直していくのか、カバーできる球種を作るのか。それを開幕までに確認していきたいと思います」

米レッズのバウアーと会食 「すごくいい刺激になりました」

 課題克服のヒントを探るため、オフには米シアトル近郊にあるトレーニング施設「ドライブライン・ベースボール」を訪問。トレーニングした選手は球速やキレが増すとして米球界で話題の“虎の穴”で、日本でも注目を浴びている。今永は約2週間にわたり、浜口遥大、京山将弥らと自主トレを行い、最新の機器を使った動作解析を元にトレーニングを積んできた。

「体をこう使えば効率よくボールを投げられるのでは、という指摘をいただきました。自分にとって理想の体の動きができれば、理想の真っ直ぐをより少ないパワーで投げられるんじゃないかと思っています。負担のない自分に合ったフォームで投げ続けることができれば、試合中の疲労度が違う。少ないガソリンで長く走れる車のように、燃費のいい投球をしたいなと」

 米国の最先端施設でトレーニングを積めた経験は大きいが、そこに集まるメジャー選手、マイナー選手、大学生ら、数多くの人々とコミュニケーションを取れたことが「自分の野球人生にとってプラスになった」と話す。ドライブラインでトレーニングを積む米レッズのトレバー・バウアーとは昨年、一緒に食事をするチャンスにも恵まれた。

「京山選手と一緒に食事に行かせてもらいました。その時、体が疲れた時にフィジカルの観点から正しい動きができず、結果として自分の思うような球が投げられずに打たれるケースがある、という話を伝えたら、そこにすごく共感してもらいました。バウアー選手も疲れた時によく打たれるそうなんです。いろいろ話をさせてもらう中で、体を強くしながら技術を高める、その両方が必要だと感じました」

 現役も現役。メジャーの第一線で活躍する投手と意見交換する機会は、そう巡ってこない。「一緒の空間でコミュニケーションをとることなんて、まずない。僕にとってすごくいい刺激になりました」。心底、野球が好きなのだろう。そう言うと、今永はうれしそうに目を輝かせた。

「やって分からないのと、やらないで分からないのでは、全く価値が違うし、説得力も違う」

 2018年のオフには豪州ウインターリーグで修行を積み、今回はドライブラインでトレーニング。自分の成長に繋がると感じれば、オフは世界中どこにでも出掛けて新しい経験を積むつもりだ。

「やって分からないのと、やらないで分からないのでは、全く価値が違うし、説得力も違うと思います。チームに貢献することはもちろん、自分がユニホームを脱いだ時に何を残せるか、次の世代に何を教えてあげられるかが大切。自分は常に、オフシーズンにしかできないことを求めていきたいと思います。それは野球に限らず、日本と海外の考え方の違いや文化の違いといったことも含め、いろいろなことを経験してみたいですね」

 苦悩の2018年を糧として、2019年はさらなる飛躍の足場を固めた。今まで以上に頑丈な土台を作った自信はある。

「2019年は自分の幹となるようなもの、自分が立ち返れる基礎となるような場所をしっかり作りたいと思い、ある程度の土台は作れたと思います。幹はまだまだ太くしていかないといけないんですけど、しっかり継続して、基本となる絶対的なもの・感覚を手に入れたい。『これさえあれば』というものがあると、この先どんなことでもチャレンジできるし、どこに行っても怖くないし、迷わないかなと思います」

 イメージとしては、大地にしっかりと根を張らせ、暴風雨に襲われてもビクともしない大樹だろう。枝が伸び、葉が芽生え、花が咲き、実がなって、葉が落ちる。四季折々で見え方を変えていくが、その根本となる部分は変わらない。DeNAが誇るぶれない大黒柱に成長できるよう、チャレンジ精神を忘れずに、数々の経験を肥料としていきたい。(佐藤直子 / Naoko Sato)

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