SNS発の人気キャラ「コウペンちゃん」 仕掛け人が中国進出を急いだ理由

すべてを肯定してくれる「コウペンちゃん」の人気の秘密について、プロデュースを担うスパイラルキュートの川上洋一さんに話を聞いた前回。続く後編では、キャラクタービジネスの“今”について伺っていきます。

川上さんは「ふなっしー」や「おさわり探偵 なめこ栽培キット」、「コップのフチ子」などのプロデュースも手掛け、キャラクタービジネス界ではヒットメーカーとして知られています。そのお話からは、日本のお家芸とも言われるコンテンツビジネスも、決して油断ならない状況が垣間見れました。


SNSによるキャラクタービジネスの変化

――日本においてキャラクタービジネスは盛況に感じますが、業界内の変化はありますか?

ひとつはSNSの存在ですね。iPhoneが発売されたのが2007年で、まだ10数年しかたっていませんが、SNSの浸透はキャラクタービジネスにとっても大きいですね。

コウペンちゃんのようなキャラクターが生まれてくるのもそうですが、ビジネスを仕掛ける選択肢が増えました。

たとえば、映像化にしても、昔は媒体としてはテレビくらい。代理店が入って大企業がスポンサーにつかないとダイナミックなビジネスに参加できませんでした。僕らみたいな規模の小さな会社は指を加えて見ているしかなかったんです。でも、いま、SNSがテレビの対抗馬にまでなるまでに成長して、むしろ、YouTubeがテレビよりも影響力を持つ時代になった。しかも、SNSは基本的にタダ。技術的にも独自のコンテンツを作るハードルは下がりましたし、もっともっといろんなことができるんじゃないかと思っています。

複製画などのグッズ販売情報も逐一ツイッターで発信される

――国境もないですもんね。

SNSで世界は小さくなったのは確かですね。ただ一方で、たくさんの情報が溢れているので、キャラクターの細分化がどんどん進んでいくという難しい面もあります。昔はミッキーやキティちゃん、リラックマなど、メジャーなキャラクターのどれが好き?という感じでしたよね。でもいまは、「LINEスタンプのこのキャラが好き」とか、選択肢がたくさんあって好きなものが多様化しています。

――レアなキャラでもネットでグッズを販売・購入できますしね。

実際、ファンシーグッズの売り場はかなり苦戦しています。ものを買うという行為はネットのおかげで平等になりましたが、売り場が必要なくなってしまった。もっと進化をすると、ネットだけで完結するキャラクターが登場するかもしれないし、ネットを使えない人はキャラクターと出会わないということになるかもしれません。

――でも、コウペンちゃんは東京と大阪、京都に常設ショップを展開していますよね。ネットの公式サイトでほぼすべての商品が購入できるのに。

たんに商品が整然と並んでいる店というのはネットのカタログと同じで、お店で買う必要性はありません。コウペンちゃんのショップは、むしろ、そこでしかできない「体験」を提供する場でもあるんです。たとえば、コウペンちゃんのグリーティングがあるとか、イベントが開催されているとか。

常設店も原画展もそうですが、どうしても都市部での開催にならざるを得ないところがあって、新幹線に乗って来てくださる方もたくさんいます。だから、いつも、高い交通費を使って来ても喜んでいただけることは何か?ということを考えています。人々は感動しないものにはお金を使いませんから。

2019年に開催されたコウペンちゃんの原画展の様子

――みなさん、グッズにお金を払うのではなく、感動体験にお金を払っているんですね。

ディズニーランドに行くと、みなさん、魔法にかかったみたいにワールドマーケットで買い物をしますよね。友達やご近所さんへのお土産を買ったりして。あれは、感動のお裾分けなんですよ。キャラクターで大切なのは「感動の共有」。感動をさせなくてはダメなんです。コウペンちゃんの各種のイベントについても、来てくれた人がどう喜んでくれるのかは真摯に考えています。

「コンテンツ大国・日本」も危うい?

――前回、2020年はコウペンちゃん海外進出というお話がありましたが、キャラクタービジネスもやはり、海外なんですね。

SNSで世界が狭くなり、仕掛けやすくなったというのがひとつ。あとは、日本のマーケットがシュリンクしているという状況もあります。アメリカや中国は市場規模がまるで違いますよ。

キャラクタービジネスをいろいろやってきましたが、1億2,000万人いるとはいえ、日本は小さいんだなって思います。日本だけでやっていてもそこそこはいけるとは思いますが、どんどん厳しくなるのは明らかです。

――でも、たとえば中国だと、知的財産の問題は大変なのでは?

確かに、中国は知的財産については、日本やアメリカから30年くらい遅れていました。いまも現地で流通しているキャラクターグッズの9割5分は偽物でしょう。でも、最近、急速にコンテンツビジネスについての考え方は変わってきています。

コウペンちゃんについて、昨年、アリババと契約を結びましたが、アリババには偽物をチェックするシステムが整っていて、ものすごく厳しいチェックをしています。そもそも、アリババが僕らと同じエージェント業務も手掛けているほどなので。

――意外です。

コンテンツというと、アメリカと日本が先進国。特にキャラクターの世界では日本が世界一だという印象を持っている方は多いと思います。でも、それももう幻想にすぎないのではないかと感じています。

中国の方と仕事をすると、ビジネスのスピード感、成長の速度の速さを感じるんですね。

昨年、中国の国産アニメ映画『Ne Zha』が大ヒットしました。僕も見ましたが、作画などの技術力は上がっているし、ちゃんとしたストーリーが作れるようになっていました。作る技術、人が育っている。コンテンツの厚みがちょっと足りないかなとは思いましたが、それもすぐに習得していくはず。お金の掛け方にしても全然違いますから。

――コンテンツでも日本が抜かれますか?

そうですね。しかも、徐々にというのではなく、リニアモーターカーが後ろから通り過ぎていく勢いだと思います。「秒」で抜かれるだろうという感覚を持っています。日本でコンテンツビジネスをやっていて、海外に進出しようと考えている方がいるかもしれませんが、のんびりしているとチャンスを逃すことになると思います。その国のコンテンツが充実してくれば、日本から輸入する必要はなくなります。向こうの成熟するスピードは思っている以上に早いですよ。

作者に次ぐ、キャラクターの理解者

――コウペンちゃんだけでなく、スパイラルキュートはたくさんのキャラクターをヒットさせてます。その秘訣を教えてください。

かわいいから、おもしろいから、一か八か仕掛けてみようと思ってプロデュースすることはありません。決して、僕が仕掛けるから売れているのではなく、売れるものをチョイスしているからそう見えるだけ。抜群に素材がいいものを手掛けているだけなんです。

ただ、上から目線になりますが、素材を見極めるセンスはあるのだと思います(笑)。

カスタードクリームパンにもなったコウペンちゃん

――いい素材はどうやって見分けるんですか?

感覚的なことなので言語化しにくいのですが、ひとつはファッションと同じでトレンドの流れを見ること。「なめこ栽培キット」のときは、「こびとずかん」も注目をされていてキワモノがウケていたタイミングでしたし、コウペンちゃんは水彩画タッチのキャラクターで癒しに流れがきているだろう、と。もっとも、まったく理論分析できないことですけどね。

あとは、つねに知識の最適化させておくことでしょうか。

――知識の最適化とは?

クリエティブディレクターの水野学さんが『センスは知識からはじまる』という本で書かれているんですが、「知識の最適化がセンス」なんです。

たとえば、うちの会社にオタクの子がいて、僕がある作品について「これって売れる?」って聞くと、「はい、売れます!」と断言したんですよ。普通、なかなかきっぱりと言えないですよ。でも、彼女がなぜ断言できたのかというと、そのキャラクターが大好きで、そのマーケットの事情をよく知っているから。自分が好き。自分も周りも好きだろう。この層にハマるはず、あそこの店できっと売れる……。もっている知識から総合的に考えて「売れます!」と言えるんです。

――知識があるからこそ、さまざまな角度からすぐに考えられる。

だから、「売れるキャラクターはないかな?」って、探すことはないんです。ただ、心がけているのは、食でもアートでもファッションでも音楽でもいいものをたくさん知る、体験するということ。「いいもの」というのはハイスペックという意味ではなくて、吉野家の美味しさも知っているし、銀座の高級鉄板焼店のよさも知っているということ。幅の広さも重要です。

グッズを出すとなると、デザインに色、テキスタイルなど、いろいろ判断しなくてはいけないことがあります。選択することが仕事なので、いろいろなところにアンテナを張っていて、常にいいものをたくさん吸収する。いつか役に立つかわからないし、役に立たないこともあるけれど、自分の引き出しにたくさんの知識を入れておくことは大切だと思っています。

――その中でヒットするキャラクターを見つけられる?

いま、コウペンちゃんのほかにも、「可愛い嘘のカワウソ」「助六の日常」というキャラクターなども手掛けているのですが、どれも、リサーチしたというより「出会った」という感じなんです。出会って惚れ込んだキャラクターだから、全力で愛情をかけることができる。

LINEスタンプが人気のハムスター・助六 ©GOTTE

キャラクターのプロデューサーは、作者に次ぐキャラクターの理解者であるべきです。コウペンちゃんの作家、るるてあさんはファンの気持ちに答え、毎日ツイートを続けている。原画展の開催時に驚いたのですが、発表された作品だけでなく、2年間でものすごい量のコウペンちゃんを描いていた。そんな彼女が余計なことに煩わされることなく、制作に集中できる環境を作ってあげる。それが僕たちの存在意義なのだと思っています。

川上洋一(かわかみ・よういち)
スパイラルキュート代表。百貨店、玩具メーカーでの営業・開発を経て、独立。キャラクターライセンスのプロデュースから、キャラクターの企画・開発を手がける同社を立ち上げ、さまざまなキャラクターのプロデュースを手がける。毎年、国内最高のキャラクターおよびブランドを選ぶ「Licensing of the Year」の常連で、2013年「なめこ栽培キット」、2015年「コップのフチ子」、2019年には「コウペンちゃん」がライセンス・エージェンシー賞を受賞

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