「パクリ」に冷静に向き合うために:デジタル時代の著作権戦略

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2020年1月、ラフォーレ原宿が打ち出したキャンペーン・ヴィジュアルが、とあるアーティストの作品と類似しているという意見を発端に、SNS上で激しい議論が起こった。SNSの時代にこうした「パクリ」議論は絶え間なく巻き起こるが、それに対してアーティスト、広告代理店のクリエイター、そして一般社会の人々はいかに向き合うべきか。アメリカを拠点とする弁護士・塩野入弥生が論じる。

ラフォーレ原宿 - Photo by Xin Tahara

「新しいコラボレーションおめでとう!」

想像してみてください。あなたはアメリカのアーティストで、一貫して付せんを素材に作品を手がけてきました。作品の知名度もあり、ブランドとのコラボレーションも展開。企業があなたの活動をサポートするため、付せんを無償で提供したこともありました。

そんなある日、あなたのもとに友人から「新しいコラボレーションおめでとう!」と、身に覚えのない祝福の言葉が届き、あなたは驚きます。「新しいコラボレーション」とは、とある有名ブランドの広告キャンペーンのこと。有名ブランドが広告代理店を通して発表したそのキャンペーン広告は、まるであなたの付せん作品のルック&フィール(スタイルと特徴)を流用しているように見え、多くの人々が「あなたの新しいコラボレーション」だと勘違いをするものでした。

当然、あなたは怒り、作品を軽視されたと感じるでしょう。こんなとき、あなたは何をすべきなのでしょうか?

読者のみなさんは、このようなケースに聞き覚えがあるのではないでしょうか? なぜなら、残念ながらこのようなケースは頻繁に起こりうるからです。では、あなたができること、すべきことは何なのでしょうか。

あなたがアーティストの場合

まず、アメリカ・日本を含む多くの国において著作権は、作品を制作するアーティストに法的権利を与えています。著作権に関する法律は様々な国で微妙に異なりますが、上述のような状況では、アメリカ著作権法は「固定された有形の表現」を保護しますが、手法やアイデアについては保護されません。つまり、自分のスタイルや作品の印象が大企業に利用されたことに大きな苛立ちを覚えるかもしれませんが、もしその広告キャンペーンがあなたの作品を完全に流用していないとすれば、残念ながら法的主張は難しいかもしれません。

さらに、アメリカでは(日本ではそうではありませんが)、使用目的、著作物の性質、著作物が転用された量、そして転用からくる著作物の市場における潜在的な影響などに応じて、フェアユースと呼ばれる法的防御を権利侵害者が主張できる場合もあります。

しかしながら、著作権法は、インターネットの普及やデジタル時代、マッシュアップカルチャー以前に制定されたものです。簡単に加工し、ミックスされ、拡散できる映像・画像や音がつねに溢れるこの時代に、真にオリジナルであることは難しいでしょう。さらに言えば、それが意識的か無意識的だとしても、アーティストは時代の産物であり、アーティストの多くは世界や彼らを取り巻く文脈に反応し、さらに他のアーティストからもインスピレーションを得ることもあります。

付せんの状況に話を戻すと、ブランドの潜在的な著作権侵害に対応する第一歩としては、直接的でプライベートなコミュニケーションが良い方法かもしれません。もちろん、弁護士に相談することができれば幸いですが、不可能な場合は、ブランドや広告代理店に連絡し、彼らがあなたと話す気があるかどうかを確認しましょう。そのとき可能ならば、感情的にならず、自分の作品が侵害された可能性があると思う理由を説明してみましょう。そして彼らがあなたと会話する意志があるならば、あなたが望む着地点は何であるかを考えてみましょう。

例えば、もし著作権が侵害されたと確信しているならば、事後ライセンスと引き換えに対価を請求できます。あるいは、もしキャンペーンのインスピレーションがあなたの作品だと認めてもらいたいのであれば、何らかのかたちで公的な承認を求めることが可能かもしれません。そして、もし将来的にブランドや広告代理店と一緒に仕事がしたいのならば、あなたの作品、アイデアや活動を戦略的に売り込む良い機会でもあります。

でも、もしあなたがSNSを手段とするならば、あらゆる類のコメントに備えたほうが良いでしょう。SNSを介して、ブランドや広告代理店はあなたに注目する一方で、それと同じ分だけあなたを傷つける否定的なコメントをも呼び寄せる可能性があるからです。

あなたがブランドや広告代理店で働く場合

逆に、もしあなたがブランドや広告代理店で働き、アーティストからクレームを受けたら、今後何をすべきなのでしょうか?

例えば、冒頭の付せんのケースでは、あなたの制作チームもれっきとしたクリエイターであるという認識も重要ですが、それはクレームを伝えてきたアーティストにも同じことが言えます。ブランドやクライアントの評判リスクがある場合、アーティストとのコミュニケーションを真剣に行い、積極的で献身的な態度を示すことは、おそらく後々の助けになるでしょう。

さらに、すべてのチームメンバー(少なくともプロジェクトに直接関わった人々)には、クレームを受けたこと、チームとしてどのような対応をとるかを共有すべきで、こうしたプロセスを経てはじめて状況に対する組織としての態度が統一されます。

デジタル時代のプロジェクトは早いペースで進行するため、万事の準備は不可能かもしれません。しかし、プロジェクトが他の作品に類似していないか議論し確認を取ることや、もし他の作品からインスピレーションを得ていたとするならば、プロジェクトが公になる前にアーティストに連絡を取るほうが理にかなっているのではないでしょうか。

そしてこれから

私たちはテクノロジーが媒介する世界にいます。カメラ付きスマートフォンのようなありふれたツール、簡単に操作できるソフトウェア、SNSなどのテクノロジーは、人々が創造性を顕在化させ、表現し、拡散することを可能にします。

一方で、そうした創造性に対する肯定的あるいは否定的な議論のために、全く同じテクノロジーが用いられていることも事実です。

つまり、クリエイティブな制作活動と普及を支援し、積極的な取り組みのための社会を作ることで、創作性を推し進めること。あるいは有害な批判のために増幅されたプラットフォームを提供すること。テクノロジーにはその両面があるということを私たちは認識しておく必要があるでしょう。

*この記事は特定の法的アドバイスとして捉えられることを意図していません。

塩野入弥生 - 撮影:高橋宗正

塩野入弥生
弁護士。クリス・バーデンのエステートとナンシー・ルービンズスタジオのエグゼクティブ・ディレクターとしてバーデンの遺作の管理と、ルービンズのアーティスト活動の促進を行う。またアーティストを含むクリエイターなどの代理人を務めるシティライツ法律事務所の米国アライアンス・パートナーでもある。2015年から19年にかけてはArtsyのゼネラルカウンセル兼アジア戦略責任者を務め、グローバル事業におけるあらゆる法的事項の責任者として、企業取引、知的財産権問題、技術系スタートアップの管理と運営やデジタルメディア戦略アドバイスを担当。2011年から15年までは、ソロモン・R・グッゲンハイム美術館のアソシエイト・ゼネラルカウンセルとして、展示や非営利運営を含む法的業務を行った。2000年にハーバード大学で学士号、2003年にはコーネル大学のロースクールにて法学士号、そして2010年にはコロンビア大学で美術史の修士号を取得。
Instagram: @yayoi_shionoiri