生まれ変わった松坂大輔を見たい。未完成の新スタイルと、髙橋光・今井との化学反応

14年ぶりに古巣への復帰を決めた「平成の怪物」も今年で40歳。全盛期の投球からは遠ざかってしまったようにみえる。だがそれでも見たいと願ってやまない。まだ見ぬ未完成の新スタイルを、生まれ変わった松坂大輔を、少しでも長く見続けられることを――。

(文=花田雪、写真=Getty Images)

「今の松坂は、生まれ変わろうとしている」、小宮山悟の目

14年ぶり――。

そうは思えないほど、ライオンズのユニフォームがしっくりくる。

2006年以来の古巣復帰を果たした松坂大輔を見た率直な印象だ。

松坂不在の間に、埼玉西武ライオンズのユニフォームは大幅なモデルチェンジを果たした。
当時まとっていた鮮やかなライオンズ・ブルーから、西鉄時代の「黒」を重ねたレジェンド・ブルーへ――。
それでも、違和感なく溶け込んでしまうのはやはり松坂大輔の原点が「ライオンズ」にあるからだろう。

2月上旬、宮崎・南郷スタジアム。
投内連携で助っ人外国人や若手投手と共に練習を行う松坂大輔の動きは、思った以上に軽やかだった。

ボストン・レッドソックス、ニューヨーク・メッツ、福岡ソフトバンクホークス、中日ドラゴンズ――。4球団を渡り歩いた松坂は、その間、度重なる故障に悩まされ、心無いバッシングも浴びた。

流れるような美しいフォームから、150キロを超える快速球と切れ味鋭いスライダーを投げ込み、打者をねじ伏せるあの松坂は、確かにもういないかもしれない。

それでも、若手の多い投手陣の中で、松坂の技術と経験は大きな存在感を放っている。

メジャー生活の後半、そして日本球界復帰後の松坂は、試行錯誤の日々を過ごした。

以前、小宮山悟(現・早稲田大学野球部監督)に話を聞いた時、松坂についてこんなことを話してくれた。

「今の松坂は、生まれ変わろうとしている。故障もあって、全盛期のような投球はできないかもしれない。もともとがパワーピッチャータイプなので、球速の衰えは致命傷ともいえる。ただ、最近はカットボールなど小さく動く変化球をうまく使うことで打者を打ち取るスタイルにマイナーチェンジを図っているのが見て取れる。能力自体は素晴らしいのだから、何とか復活してほしい」

松坂、髙橋光、今井。世代の違う「甲子園優勝トリオ」

松坂大輔の「復活」の基準がどこにあるかは議論の余地があるが、2018年に中日で見せた投球は一つの答えでもあった。

11試合に先発し、6勝4敗、防御率3.74。もちろん、満足のいく数字だったとは言えないが、それでも2014年のメッツ時代以来、実に4年ぶりの公式戦勝利を挙げ、カムバック賞を受賞した。

翌2019年は再び故障に苦しみ、シーズン未勝利に終わったが、万全ならまだまだ試合をつくる投球ができることも証明してみせた。

今年で40歳。すでに大ベテランの域にあるが、2年前の投球を再現できるとすれば、「もうワンランク上」の復活劇も期待できる。

なにより、今の西武は「とにかく打つ」。
コンスタントに試合をつくることができれば、勝ち星を積み重ねることも十分可能だ。

チームの先発陣は、昨季12勝1敗、防御率2.87のニールを除けば、10勝の髙橋光成が4.51、7勝の今井達也が4.32、同じく7勝の松本航が4.54と、軒並み防御率4点台。2年前に11試合の先発とはいえ、防御率3.74を記録していることを考えれば、どうしても期待値は高まってしまう。

また、ベテランの松坂にとっては、その経験を若手に伝えるのも大きな仕事の一つだ。西武投手陣の多くは、甲子園の松坂大輔、西武の松坂大輔、メジャーリーガーの松坂大輔を見て育ってきた世代だ。

南郷キャンプの第2クールが始まったころ、「甲子園優勝投手」の後輩でもある髙橋光、今井の二人に、少しだけ話を聞くことができた。

「昨日あたりから話を聞くことができるようになりました。とにかくあらゆる経験をされている方なので、その全てが参考になる。細かなことも含めて、教えてもらうというよりは盗んでいきたい」

そう語ったのは髙橋光だ。
自身初となる10勝を挙げながら、内容的には決して満足のいくものではなかった昨季。「エース」への成長も期待される右腕は、松坂の経験、技術全てを参考にして2020年に挑む。

プロ4年目、21歳の今井達也は大先輩に対して気後れしたのか、話を聞いた時点ではまだ直接の接点はなかったという。

「キャンプのうちに少しでも話を聞けたらと考えています。投球フォームの話や身体の使い方などを聞いてみたい」

21歳の今井は1998年生まれ。
松坂が横浜高校で甲子園春夏連覇を達成した年に生まれている。当然、高校時代、西武時代よりもメジャーリーガー・松坂大輔の方が印象に残っているはずだ。

下手をすれば親子ほど年の差がある右腕にとっても、やはり松坂は別格の存在。

松坂、髙橋光、今井という、世代の違う「甲子園優勝投手トリオ」の活躍にも、どうしても期待してしまう。

ローテーション入りも決して不可能ではない

キャンプ取材ではブルペン投球を見ることはできなかったが、2月25日の韓国・斗山戦では実に195日ぶりの実戦登板も果たした。結果は1回を投げて被安打3、2失点。まだまだ調子を上げる必要があるが、アクシデントで右肩を痛めた昨春キャンプのことを考えれば、「投げられる」という事実は大きい。

コンディションと調整次第だが、先発投手陣の顔ぶれを見ればローテーション入りも決して不可能ではない。

確かに、14年前とは投球フォームも、ボールの威力も、球速も違う。

ただ、試行錯誤を繰り返しながらつくり上げてきた「新スタイル」は、まだ完成していない。
だからこそ、伸びしろもある。

恐らく、現役選手として着るユニフォームは、ライオンズが最後になるだろう。
年齢的にも、あと何年その投球を見ることができるかは分からない。

それでも、生まれ変わった松坂大輔を、一年でも、一試合でも、一イニングでも長く見続けたい。

これは、西武ファンならず、すべての野球ファンの総意だろう。

<了>

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