国境の島の現在地 対馬市長選(下)  <子育て支援> 「地域の将来に関心を」

おもちゃを使って遊ぶ子どもたち=対馬市厳原町の保育所

 17日、対馬市で開かれた市総合戦略推進会議。まちづくり団体代表や公募委員らが地域創生に向けた市への提言の最終案を取りまとめた。子育て支援を重点戦略の一つに位置付け、「安心して結婚し、出産、子育てができる環境整備を行う。女性が働きやすい環境整備のため、市内企業の理解や取り組みを後押しする制度を整備する」よう要望。それまでの会合では「希望した時期に、希望した保育所に入所できるような制度設計を」との意見も出た。
 こうした声の背景には、待機児童の問題がある。市内保育所の定員は昨年4月現在、「認定こども園」を含め計16カ所1079人で全体の充足率は約82%。一見すると空きがあるようにも思えるが、島の市街地と周辺部では需給のアンバランスが生じている。
 対馬の合計特殊出生率は2.18(2008~12年の調査)と全国の市町村では5番目に高い。一方で、島外への人口流出に歯止めがかからず、15~49歳の女性の数は00年の約8千人から、15年には約4300人とほぼ半減。子育て世代の減少と、それに伴う子どもの数の落ち込みは、特に周辺部で顕著だ。「へき地保育所」は、この6年間だけでも上県町や豊玉町などで計7カ所が閉園した。半面、官公署が集中し、転勤族も多い厳原町では昨年10月現在、8人の待機児童がいた。昨年9月の定例市議会では、美津島町から厳原町に通園している子どもが数十人いるとして議論に。保護者の勤務の都合が大半だが、希望する園に空きがなかったことが理由のケースも複数あったという。
 美津島町の栄養士で、3児の母の上田奈緒美さん(37)も昨年、末っ子が厳原町内の保育所に入れるまで2カ月待った一人。「2カ月で済んだので有給休暇の消化などで対応できたが、長引けば厳しかった」と振り返る。
 市こども未来課によると、待機児童問題の背景には島内の保育士不足も絡む。不足の根底にあるのは島外への人口の流出。資格を持ちながら、結婚や出産などを機に退職した“潜在保育士”の掘り起こしも鍵だ。
 対馬の特産品開発に取り組むNPO法人「對馬(つしま)次世代協議会」理事長の須澤佳子さん(41)は、「時短や在宅ワークを導入している事業所が対馬ではまだまだ少ない」と指摘。安心して結婚・出産・子育てできる環境づくりに向け、「子育て世代が柔軟な働き方ができる仕組みを考えるべき時期にきている。若い世代も行政任せずにせず、地域の将来に関心を持ってほしい」と注文する。島がさまざまな課題に直面する中、令和のまちづくりにどう関わっていくか、住民の意識、姿勢も問われている。

 


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