英語できない…50歳前に挑戦決意 世界駆け巡る栄養士 母子ともに健やかに―知識伝える 現地で「女子会」も

カンボジアの産婦人科で、赤ちゃんを抱く増田幸子さん=2019年4月24日、カンボジア・プノンペン

 赤ちゃんの健やかな成長は、万国共通の親の願いだ。だが、中には情報不足や習慣の違いから、母親や子どもに負担となるような育児をする国もある。乳児用粉ミルクの製造を手掛けるアサヒグループ食品の輸出企画室で栄養士を務める増田幸子さん(56)は、そんな場所に直接出かけていき、親や医療関係者らに子どもの成長に必要な知識を伝える活動を続けている。「元気に大きく育ってほしいとの思いは一緒。母としての経験も伝えたい」と世界を駆け回る。(共同通信=高口朝子)

 ▽お国柄に驚き

 モンゴル、中国、ベトナム、カンボジア、シンガポール、香港、台湾。これまで訪れた場所だ。1週間程度は滞在し、消費者の相談に乗ったり、アサヒの粉ミルクを扱う店員に説明したりする。基本は1人で出向き、通訳と行動する。

 設備が整った街の活動ばかりではない。大草原でトイレを済ませたり、軍のテントで食事したりと、普段とは異なる環境もある。

 育児についても「お国柄を感じるが、驚きの連続だ」と話す。出産後に母親が一カ月も入浴しない、子どもの歯を磨かず大人と同じものを食べさせる…。食や生活に関する習慣が異なり、医療環境も違う。「タンパク質」など基本的な栄養素を知らない人も多い。まずは、正しい知識や商品の使い方を広めたいと思っている。

カンボジアの企業が主催した展示会で、地元の母親らの個別相談に応じる増田幸子さん(右端)=2019年10月19日、カンボジア・プノンペン

 良い商品や重要な知識をもっと知って欲しいとの思いが強すぎて、失敗もした。日本のミルクを一方的に強く勧め過ぎて一緒に活動していた地元のスタッフが不満をため、打ち合わせに来なかったり、仕事の報告をしてこなかったりという状況が続いたことがあった。「品質や安全性などすべての面で、外国より日本製が良いというおごった考えがあったと反省した」

 その後は、まず住民らの話をじっくり聞き「日本ではこうするけどどう思う?」と提案したり、データを示したりするようにした。納得してもらい「また増田さんとやりたい」と言われ、うれしかった。

 ▽PTA経験も糧に

 高校まで青森県八戸市で過ごした。都会に出て手に職を付けたい、と東京の専門学校に進み、栄養士の資格を取得した。出産を機に一度退職。が、「仕事が楽しくて、子育てを経験した後にまたやりたいと思った」と30代前半でパートタイムで復帰、40歳で再び正社員になった。

 50歳を控えたある日、海外での教育活動を打診された。「英語もできないし、やっていた仕事も面白かった。青天のへきれきでした」。できるか悩んだが、思い切って引き受けた。

 意外に役立ったのは、子どもの学校のPTA会長を務めた経験だ。親も、共働きや介護中などさまざまな事情や立場の人がいる。母親だけでなく父親も委員に加え、できるだけ多角的な意見を聞ける環境にして、その上で皆が納得するようまとめ上げた。この経験が、異文化での活動に役立ったという。

 周囲の人たちに助けられていると痛感。「どんな経験が生きるかわからない。何でもやってみることが大事」と話す。 

カンボジアのショッピングセンターで開かれたセミナーで、出産を控えた妊婦らに子育てについて説明する増田幸子さん(中央、白衣姿)=2019年9月8日、カンボジア・プノンペン

 ▽息抜きは女子会

 海外の現場では、女性スタッフと必ず「女子会」を開くと決めている。地元の人が集まるお店でお酒を飲みながら、歌ったり踊ったり。スマートフォンの翻訳機能を使いながら会話して「その発音はダメ!」「彼氏はイケメン?」と盛り上がる。仲良くなれば、意見や考え方が違っても話し合うことができるからだ。

 食事が合わなかったり、シャワーも水しか出てこなかったりと大変なことも多い。それでも「何でも楽しもうとすれば楽になる。思った以上に私って適応能力がありました」と笑う。

 訪れた国々で子どもたちがちゃんと育ってくれるように、つたなくても正しい知識を伝え続けようと決めている。「食べることは世界共通。日本にも海外にもニーズはたくさんあり、こんな仕事もできると知ってほしい」。栄養士の仕事に誇りを持っている。

 今の日本は、子育ては「こうあるべき」と強要することが多すぎると感じている。「子育ては本来、楽しいもの。ママ達に、もっと楽しんでもいいんだよと伝えたい」

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