【佐々木淳コラム】私たちの闘い

この2週間、新型コロナウィルス対策に追われてきた。

 まさに昨夜(2月28日)に予定していた法人の年次業績報告会。600人の参加を見越して気合いで準備してきたけど、高齢者医療を提供する僕らが、間接的にでも在宅高齢者を危険にさらすようなことは絶対にできないと考え、2月16日に中止を決めた。クリニック単位で開催を計画していた業績報告会もすべて中止することにした。

 満員電車での通勤の忌避、オフィスの人口密度の削減のために、先週から在宅勤務・時差勤務を開始した。在宅医療で在宅勤務とは?という感じだが、会議は非対面を原則に、セキュアな通信環境を確保することを前提に医事チームの一部は在宅での作業をスタート、MSWや一部診療ルートは直行直帰、自動車通勤・訪問診療車による送迎等も開始した。

 新型コロナウィルスに関する情報収集には、継続的×網羅的×組織的に取り組んでいる。連携する高齢者施設をクラスターにしないために、情報発信を中心とした事前準備を開始した。診療同行や取材も基本的にはお断りし、すでにカリキュラムに組み込まれている東京大学の医学生の見学のみ、条件付きで継続することとした。

 Facebookでの発信を通じてか、複数のテレビ局から取材や番組出演の依頼があった。全てお断りした。僕は感染症や公衆衛生の専門家ではないし、限られた公共の電波からの発信にはより適格者がいるはずだ。テレビ番組出演後に必ず生ずる問い合わせに対応できる体制の余裕もない。何より、自分たちが担当させていただいている患者さんの支援体制づくりに専念したい。もちろん、法人としてのCOVID-19対策について知りたいということであれば、情報提供は厭わない。

 明日から4日間、ムンバイに出張の予定であったが、これもキャンセルした。グループの10年後を左右する事業だが、何が起こるかわからない中、現場で陣頭指揮を取れないのは致命的だ。他にも予定されていた遠方での講演はほとんどが中止になった。しかし、おかげで管理業務に専念できる時間を確保することができた。

 今日の院長会では、向こう1か月の対策を話し合った。2時間近い激論の末、目指すべき方向性、診療現場での僕らの取るべき対応・態度について具体的なコンセンサスが得られた。何より、みんなが自分たち自身の問題として、課題意識を共有、積極的に解決策を考え、行動してくれることが本当にうれしい。

 たぶん診療収入は大幅に減り、コストは大幅に増える。しかし、最悪の事態を見据えて自分たちの運営体制を見直す、ということは、こんな状況にでもならない限りはできなかったと思う。もちろん在宅勤務などの運営体制変更がスムースに進められたのは、組織づくりとシステム投資を着実に重ねてきたこと、そして何よりお互いに信頼して支え合えるチームのメンバーに恵まれたからだ。

 各クリニックの院長はそれぞれの拠点でリーダーシップを発揮し、迅速かつ強力に改革を進めてくれている。クリニック間の協力・連携もこれまで以上に深化している。また、一クリニックの管理医師の立場を超えて、法人全体のために主体的に動いてくれる仲間が増えてきたのも本当に心強い。

 自分たちの強みと弱みをしっかりと認識し、VUCAな未来に向けて、より賢明かつ筋肉質な運営体制を作る。必要なものと無駄なものを区別し、時間と資本を効果的に投入する。そして僕らを信じてくれている患者さん、ご家族、パートナーに対し、しっかりと使命を果たし続けたい。

 頑張って乗り越えるぞ!

佐々木 淳

医療法人社団 悠翔会 理事長・診療部長 1998年筑波大学卒業後、三井記念病院に勤務。2003年東京大学大学院医学系研究科博士課程入学。東京大学医学部附属病院消化器内科、医療法人社団 哲仁会 井口病院 副院長、金町中央透析センター長等を経て、2006年MRCビルクリニックを設立。2008年東京大学大学院医学系研究科博士課程を中退、医療法人社団 悠翔会 理事長に就任し、24時間対応の在宅総合診療を展開している。

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