星の材料がはぎ取られた渦巻銀河「NGC 4689」

この画像はハッブル宇宙望遠鏡が撮影した渦巻銀河「NGC 4689」です。ちょうど渦巻が地球から見える向きになっているのですが、渦巻銀河にしては少しぼやけた姿をしています。渦巻銀河というと星やガス、ダストが形作る渦巻の「腕」がくっきりと見える美しい画像が注目されますが、いくら画質が良くてもNGC 4689はそのようには見えないのです。

腕がはっきりと見えない理由は、星が生まれる材料となる水素ガスが少なく、星形成があまり行われていないためです(このような銀河を「貧血銀河」と呼びます)。NGC 4689では、その進化の過程で水素ガスが引きはがされてしまったためにこのような姿になっていると考えられています。いったい何がガスを引きはがしてしまったのでしょうか?

NGC 4689は「おとめ座銀河団」と呼ばれる銀河の集団の一員ですが、銀河団には高温ガス(銀河団ガス)も存在し、銀河団の空間を満たすように充満しています。銀河はこの銀河団ガスの中を動いていくのですが、その際に水素ガスがはぎ取られてしまったというのが現在のシナリオです。

水や空気などを「流体」と呼びますが、銀河団ガスを流体として考えると、その圧力によって銀河の水素ガスが引きはがされることが説明されます。学問的には「流体力学」と呼ばれるジャンルで、難しく聞こえるかもしれませんが私たちの身の回りでは気象や新幹線・航空機、さらには野球のボールの軌道計算(他にも多くの領域があります)、宇宙関係ではロケット、惑星の大気、太陽などの星、銀河から銀河団まで幅広く応用される学問です。

関連: 蒼白。星形成の材料が欠乏している貧血銀河

Credit: ESA/Hubble & NASA
Source: ESA/Hubble
文/北越康敬

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