店舗激減の「東京チカラめし」、オフィス弁当屋に変身していた

かつて「焼き牛丼」でブームを巻き起こし、既存の牛丼チェーンを追い上げていた「東京チカラめし」。急速な出店拡大で一時は100店舗以上を展開しましたが、今では両手で数えられるほどに規模を縮小しています。

そんな牛丼業界のかつての風雲児が、オフィスワーカー向けの弁当で再起を図っています。どのような狙いがあるのか、取材しました。


大量閉店した東京チカラめし

東京チカラめしを展開するのは、居酒屋チェーン「金の蔵」「東方見聞録」で知られる三光マーケティングフーズ。外食をメインに100店舗を運営しており、収益の半分以上を金の蔵が占めています。

牛丼業態である東京チカラめしは、2011年6月に東京都豊島区に1号店となる池袋西口店をオープン。「デフレ飯」の象徴的な存在であり、熾烈な競争を繰り広げる牛丼業界に「焼き牛丼」で殴り込みをかけました。

創業時は税込み280円(以下同)という安さと、焼いた牛丼という目新しさで注目を集め、最盛期は130店舗ほどに拡大。しかし、ブームが一巡すると、売り上げが落ち込み、「壱角家」などを展開するガーデン(東京都新宿区)に68店舗を売却しました。

「焼き牛丼は店内で肉を焼くので、1杯作るのに2〜3分はかかる。さらに、高速出店したため、店舗のオペレーションが追いつかなかった。また、当初想定していたより、コメや牛肉などの仕入れ価格が上がり、売れば売るほど経営が厳しくなっていった」(広報担当者)

こうした経緯から2020年2月28日現在、東京チカラめしは7店舗にまで規模を縮小しています。冨川健太郎取締役によると、店舗数は減少したものの、全店が黒字。現在は熟練者が支えている状況で、機器やオペレーションの改良を進めているといいます。

「焼き牛丼」がオフィスに届く

食べられる店舗が減った東京チカラめしですが、運営元の三光マーケティングフーズは、オフィス向けフードデリバリー「ごちクル」を展開するスターフェスティバルと業務提携。オフィス向けの弁当事業を2019年11月から本格稼働させています。

「ごちクル」サイト上に「東京チカラめし」ブランドで出店し、「焼き牛丼」や「豚丼」を各500円(送料別、以下同)で販売。ほかにも、定番具材の弁当「おひるどき」(500〜700円)や、カリスマ主婦考案の弁当「マンマミーア」(1,200円)など、複数ブランドを展開しています。

オフィス向け弁当事業に乗り出した理由について、冨川取締役は「もともと外食プレイヤーの当社は、都心の一等地にキッチンを持っており、今までのメニューの引き出しもある。比較的早くスタートラインに立てる」と語ります。

居酒屋事業と食材を共通化できるので、仕入れのコストや食材の有効活用という面でもメリットがありそうです。自社で持っていない販売・決済・配送の機能は、スターフェスティバルの「ごちクル」を活用。同社が弁当販売で得たノウハウを製造工程に反映させています。

苦戦する外食を弁当で補う

三光マーケティングフーズが弁当事業に力を入れる背景として、主力である居酒屋事業の苦戦があります。2019年7〜12月期の売上高は48億6,000万円(前年同期比10.8%減)、本業の儲けを示す営業損益は5億1,700万円の赤字(前年同期は5億2,400万円の赤字)と、厳しい状態が続いています。

「金の蔵」は激安居酒屋のブームを作ったと言われ、若者を中心に支持されてきましたが、近年は利用者の嗜好変化で低迷。不採算の大型店の閉店や再編を進めており、新業態の「アカマル屋」などへの業態転換も行っています。

新規出店を抑制する中で活路を見出したのが、オフィスワーカーの昼食需要というわけです。働き方改革で「仕事量は減らないのに労働時間が減らされ、残業もできない。残された時間は昼しかない」という人でも、弁当なら自席で仕事をしながら食事ができます。

同社では東京・茅場町のテストキッチンを、弁当用のセントラルキッチンに変更。都内向けに弁当を1日1,000食以上を製造しています。現状はオフィスビルの一角を借りた出張販売など、店頭での販売が多くを占めますが、デリバリー強化することで、1日3,000食を当面の目標とします。

いつの間にかオフィス向け弁当に姿を変えていた「東京チカラめし」。時間に追われるビジネスパーソンの新たな需要に応え、苦境が続く三光マーケティングフーズを立て直すことができるでしょうか。

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