【社会人野球】“フライボール革命の申し子”JFE東日本・今川の魅力 NPBスカウトが注目した個性

JFE東日本・今川優馬【写真:宮脇広久】

ロッテスカウト「1番いいのは、楽しそうに野球をやっていること」

 異色の今秋ドラフト候補がいる。東海大四高(現東海大札幌高)、東海大北海道を経てJFE東日本に入社したスラッガーで、昨年7月の都市対抗野球でいきなり優勝、自身も若獅子賞(新人賞)に輝き、勝負の社会人2年目を迎えた今川優馬外野手である。

 2月28日のオリックス2軍との練習試合(宮崎・清武)では、「2番・中堅」で出場し、3打席目にジャンプした二塁手のグラブをはじく強襲安打を放って4打数1安打1四球。2盗塁で俊足も披露した。印象的なのは、アッパー気味のスイングでかち上げる“フライボール革命の申し子”と呼びたくなるような打法、そしてプレー中も絶やさぬ笑顔だ。

 この試合をネット裏で視察した、ロッテの永野吉成プロ・アマスカウト部長は「3拍子そろっているが、何より1番いいのは、楽しそうに野球をやっていること。ボールの下半分をたたいてフライを打ち上げる打法もいい。プロは個性が大事ですから」と目を細めた。

 そういったところがファンの心をつかむのか、今川のTwitterのフォロワーはアマチュア選手離れした1万4000超にのぼる。同ツイッターで2日前の26日には、西武・山川のフリー打撃の動画を掲載し、「オフだから近くでキャンプしてるオリックスと西武の試合観にきた! 飛ばす 見ててなまら興奮した笑 モチベーション上がる」とプロの技術を逐一チェック。

東海大北海道から入社2年目を迎えたJFE東日本・今川優馬【写真:宮脇広久】

元DeNAの須田は厳しくも愛情のある“プロの心得”「どんな時でもファンを楽しませる選手に」

 JFE東日本には、あの須田幸太投手もいる。同社から2010年ドラフト1位で横浜(現DeNA)に指名され入団、16年に62試合に登板するなど活躍し、一昨年限りで退団すると、古巣に復帰して昨年の都市対抗で橋戸賞(MVP)を獲得。今川については「投手目線でいうと、対戦していて楽しい打者ですね。どんどん振ってきますから。人気はすごい。フォロワー数なんて、アマチュア選手では考えられない」と評するが、一方でこうも指摘する。

「今のままでも、プロに行ける力はあると思いますが、勝負は入ってからですから。大学を経て社会人から行く以上、即戦力と見られる。結果が出なければ、3年でクビかもしれない。そう考えると、今からもっとバットを振らないと。プロに入るとまず、バットを振る量に驚かされますから」。さらに「いつもニコニコしているスタイルも、やるからには、調子を落としたときでも貫かないと。プロになったら尚更、ふさぎ込むようなところを見せてはいけない。どんな時でも、ファンを楽しませる選手になってほしい」と、厳しくも愛情を込めて“プロの心得”を説いた。

 今川自身は「今日は僕にとって今年初めての試合で、ずっとこの日を楽しみにしていたので、それがちょっと空回りしました」と苦笑。高校3年時には、春の大会でダイビングキャッチの際に左手中指を骨折し、チームは夏に甲子園出場を果たしたものの、自身は控えで代打による安打を放つにとどまった苦い経験がある。それだけに、「純粋に野球が楽しい。試合に出られることは、決して当たり前のことではないので、1球1球、対ピッチャーをかみしめています」とトレードマークの笑顔が弾けた。一方で「もちろん、今年はプロに行かなきゃダメだと思ってます。“使命”というくらい、自分にプレッシャーをかけてます」とキッパリ。須田をはじめ周囲が、そして異例の数を誇るファンが、夢を追う今川を後押しする。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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