RHYMESTER・Mummy-Dが“お芝居童貞”を捨てた瞬間を振り返る「光石研さんは恩人」 社長役でドラマ出演「死にたい夜にかぎって」インタビュー【前編】

RHYMESTER・Mummy-Dが“お芝居童貞”を捨てた瞬間を振り返る「光石研さんは恩人」 社長役でドラマ出演「死にたい夜にかぎって」インタビュー【前編】

幼くして母親に捨てられた男・小野浩史(賀来賢人)が、人生最愛の女性・橋本アスカ(山本舞香)と過ごした6年間に及ぶ同棲生活を中心に、個性的な女性たちに振り回され続けた“ろくでもない半生”を描く、爪切男さんの実体験をもとにしたドラマ「死にたい夜にかぎって」(MBS/TBSドラマイズム)。

学校で一番かわいい女の子に呼び出され、無邪気な笑顔で吐かれた言葉は「君の笑った顔、虫の裏側に似てるよね」。初体験の相手は車いすの女性。人生で一番愛した女性は変態に唾を売って生計を立てていた――。

そんな過激で魅力的な女性たちに振り回される主人公・浩史が勤めるのは、東京・渋谷にある「ラッパーしかいない編集社」。韻を踏んだ記事を書いて編集長の浩史を困らせたり、ヤリマンで有名なラッパーがいたり…。個性的なメンバーが集まる会社の社長を演じるのは、2MCと1DJからなるHIP HOPグループ・RHYMESTERのMummy-Dさん。

2015年、ドラマ「ゲームの<規則>」(テレビ朝日系)でドラマ初出演し、それ以降もコンスタントに演技の仕事が舞い込んでいます。17年の話題作「カルテット」(TBS系)には、高橋一生さん演じる家森諭高を追う謎の男として出演。Mummy-Dさんの登場シーンが放送されるたび、SNSでは視聴者からの大きな反響がありました。ここでは俳優という仕事に対する思いや撮影現場でのエピソード、さらに20代の頃に抱いていた思いなどをインタビュー。「まだ全然大丈夫。今日はこれで終わりなんで」とのお言葉に甘えて当初予定していた取材時間から延長し、たくさんお話をお聞かせいただいたインタビューを【前編】【後編】にわたりお届けします。

■“お芝居童貞”を捨てる瞬間を目撃された光石研さんは「恩人」

──先ほどは編集社でのシーンの撮影、お疲れさまでした。「社長」役を演じて、いかがですか?

「今回の現場は、割とスタッフさんや役者さんにHIP HOP好きな方が多くて。だからいろいろなLOVEとRESPECTをいただいて、やりやすかったですね」

──台本は、出演されていないシーンも含めて全部お読みになりましたか?

「うん、一応ね!」

──どのような感想を持たれましたか?

「すごくリアルな感じがしましたね。最初は『編集社、全員ラッパー!? ありえないでしょ、どういう設定!?』って。そしたら『社長もラッパー!? どういうドラマなんだろう…』って思ってたんだけど、台本を通して読んだり、原作も読んでみたりすると、すごく現代を映してるリアルなドラマだな…って。ちょっとね、ヒリヒリした。あと、HIP HOPっていうのが出てくるのが今っぽいのかなって。なんか他人事のようだけど、そんな感じがしましたね」

──賀来さん演じる浩史という役に、共感する部分はありましたか?

「賢人くんもなかなか難しい役をやってるよね。だってさ、あんなイケメンがイケてない役を演じてさ。でも、大抵の男は心のどこかにイケてない部分とか、陰の部分を持ってるから。そういう意味では、実は誰もが共感できる役なのかなと思いました」

──Mummy-Dさんは「ゲームの<規則>」という作品がドラマ初出演ですよね。

「よく知ってるねぇ。ちょっとしか出てないんだよ? 見た?」

──当時の記事を拝見しまして…(笑)。15年にドラマ「トランジットガールズ」(フジテレビ系)に出演された際に、ドラマの現場の雰囲気に飲まれてしまい、「ゲームの<規則>」で共演した光石研さんに相談したと伺いました。本作にも浩史の父親役で光石さんが出演されていますが、何かやりとりはあったのでしょうか?

「あのね、俺、全然知らなくて。衣装合わせに行った時に置いてあった資料で光石さんの名前を見つけて、『おーーー!!』って驚いたもん。光石さんとは以前はLINEでやりとりしてたんだけど、最近俺がLINEを消しちゃって」

──LINEのアプリを削除してしまったのですか?

「そうそう。LINEって、消しちゃダメだね。またアプリを入れたらアカウントとかメッセージが全部戻るのかなって思ってたら、全然戻ってこなくて。みんな、俺がいなくなったって大騒ぎになっちゃったみたい(笑)。それでね、さっきメークさんに『Mummy-Dくんが捕まらなくなっちゃったから連絡先聞いといて』っていう光石さんからの伝言を聞いたの。だから今書いて、置いてきちゃった」

──もし書き置きをご覧になった光石さんから連絡が来たら、ドラマに関して何か伝えたいことはありますか?

「そうだねー。でもね、光石さんとは3回くらい飲みに行ったりしてんの。妙に縁がある方で、俺が『ゲームの<規則>』で初めてドラマに出た時、俺が闇金の帝王みたいな悪いヤツで、光石さんを脅す役だったの。だから光石さんは俺が“お芝居童貞”を捨てる瞬間を見てる。“お芝居童貞”って言葉があるのかどうかは知らないんだけど」

──初めて聞きました。

「全部が初めてだから、超緊張しながら本読みやったんだけど、その時のメンツがすごくて。俺が家族を脅すんだけど、母親が赤間麻里子さんで、息子が永山絢斗くん。闇金の手下が木下ほうかさん。ヤバいでしょ」

──木下ほうかさん、絶対怖いですね…。

「俺が最初に『よろしくお願いします』って衣装合わせに行ったら、もう完全にヤクザな格好をした木下ほうかさんが、こうやって(肘をついて、ギロッとにらんで)待ってるの。『怖ーーーッ!!』って思って、ビクビクしながら本読みが始まったんだけど、ニコニコ顔で『俺、MummyさんのCD持ってるよ』って話し掛けてくれたのが光石さん。『マジっすか!? 救われたーーー!!』っていう気持ちで。だから光石さんは恩人なの」

──今回は残念ながらご一緒するシーンはないですが、再び恩人と共演ですね。

「ねー。光石さんって、すごく音楽好きなの知ってる? ソウルとかが好きで。あとクレイジーケンバンドがすごく好きだから、それでCD持ってくれてて」

──「肉体関係 part2 逆featuring クレイジーケンバンド」でしょうか。

「そうそう。よく知ってるねぇ。俺も1人でプルプルしてたから、本当に光石さんには感謝してるんだよね」

■お芝居の仕事の後は「自分の不甲斐なさに二晩くらい落ち込む」

──RHYMESTERのオフィシャルブログで「毎回謎のタイミングで有難いことにお芝居のお仕事をいただけるのだが、今回も『添え物』だとしても作品に貢献できるのか不安」と心境を綴っていらっしゃいましたが、これだけお芝居のお仕事を重ねる中で「こういう役をやってみたい」「この方と共演してみたい」といった、演技に対する欲はありますか?

「そうですねー…。撮影後は、毎回自分の不甲斐なさに二晩くらい落ち込むんですよ。『わー、イケてね~…』って。でもちょっと時間が経つと、やっぱりもう1回やってみたいなって思う。やってみたいのはコメディー。今回はちょっとそういう要素も入っていて、若手のみんなと絡んでいろいろやったりしてるんだけど、それがすごく面白くて。意外と笑える役みたいなのはやったことがないのと、自分なりに『こうやればいいんじゃないか』っていうのが湧きやすいから、面白いおじさんの役とかやりたいなーって」

──ドラマの現場は楽しいですか?

「楽しい半分…。あとはもう、恐怖半分。初日は特にね」

──それは自分の演技に対して、期待に応えることができるか不安、という思いですか?

「それはちょっと考えすぎかもしれないけどね。俺にそんな、プロの役者さんのテクニック的なものは求められてないと思うから。でもね本当に、ラッパーのくせにセリフが全然覚えられないんだよ。すぐかむし。だから本当に緊張しますね」

──セリフはどのようにして覚えていますか?

「まだ確立できてないなー。ジムに行って、バイクを漕ぎながらブツブツ言ってたりが多いですね。今回はそんなに長いセリフがなかったから楽だったけど、長ゼリフがある時は何かやりながらずーっとブツブツ言ってる危ない人ですよ(笑)。電車とかでもやっちゃうし」

──この後、ラッパー役の皆さんはフリースタイルのシーンを撮られるそうですが、ラップに関して出演者の方に何かアドバイスはされましたか?

「今回はね、俺の代わりにTARO SOULっていうラッパーがラップ指導で入ってるの。だから実は、俺は全然指導してなくて。好きなようにやってもらってます(笑)」

──Mummy-Dさんが演じる「社長」という役も、口数は多くなく、見守るタイプの社長ですよね。

「そうね~。でもさ、なんつーの? その人らしけりゃいい、みたいな。もし『どうやってラップしたらいいですか?』って聞かれても、こうしろ、こうしろって言わないタイプだと思うから。役者さんってだいたいちゃんとキメるんだよ、どんなことでも。今日撮ったシーンもさ、全然知らなかったもん(笑)。好きなようにやっていただけたら」

【後編】では20代の頃を振り返っての思いや、結成31年を迎えたRHYMESTERの2020年の展望を伺いました。

【プロフィール】


Mummy-D(マミーディー)
1970年4月14日生まれ。神奈川県出身。おひつじ座。宇多丸、Mummy-D、DJ JINからなるHIP HOPグループ・RHYMESTERのラッパー。SUPER BUTTER DOGのギタリスト・竹内朋康とのユニット・マボロシとしても活動。89年、大学在学中にRHYMESTERを結成し、93年にアルバム「俺に言わせりゃ」でインディーズデビュー。19年には結成30年を迎え、30周年記念シングル「待ってろ今から本気出す」「予定は未定で。」、岡村靖幸との共作「マクガフィン」、12年ぶりの「裏」ベスト「ベストバウト2 RHYMESTER Featuring Works 2006–2018」などさまざまな記念リリースや、47都道府県48公演の記念ツアー「KING OF STAGE VOL.14」などの企画を成功させた。RHYMESTERとして意欲的に活動する一方、映画、ドラマ、CM、ナレーションなど、多方面で活躍中。

【番組情報】


MBS/TBSドラマイズム「死にたい夜にかぎって」
MBS 日曜 深夜0:50~1:20
TBS 火曜 深夜1:28~1:58
※放送時間は変更の場合あり

<配信情報>TBS放送終了後からTSUTAYAプレミアムで見放題独占配信。TVer、MBS動画イズムで見逃し配信予定。

取材・文・撮影/宮下毬菜(TBS・MBS担当)

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