広島、覇権奪還のキーマンは誰だ?③コーチ編 不安定な投手陣の立て直しを期待される、2人の新任コーチ

広島カープ、2020シーズン覇権奪還のキーマン。3回目の今回は選手を導く首脳陣編。復帰を含めて今季は4人のコーチが1軍に就任。なかでも変化を求められるバッテリー間を担当する、二人のコーチに注目してみたい。

(文=小林雄二、写真=Getty Images)

3連覇中も防御率は下降線、昨季の与四球はワースト2位の成績

広島カープ、2020逆襲のキーマン、今回は首脳陣編。

佐々岡真司新体制となった今季、注目してみたいのは一新された1軍の投手&バッテリーコーチだ。このなかから、2014年引退後は地元で解説者を務め、今季新たに投手コーチとなった横山竜士コーチ、そして前任の植田幸弘コーチと入れ替わるかたちで1軍から昇格した倉義和コーチがキーマンになると考える。

まずは横山コーチが担当する投手陣の成績を見てみると、3連覇中を果たした2016年が防御率3.20(リーグトップ)、17年が同3.39、18年が同4.12で、ともにリーグ3位ながら数字そのものはガタ落ちしていることが見てとれる。2018年の与四球535(リーグワースト)も気になるところだ。佐々岡投手コーチ(当時)が2軍から1軍に配置転換となった昨年、防御率そのものは3.68(リーグ2位)と持ち直したものの、与四球はリーグワースト2位の513。四死球ではリーグワーストの561を記録している。

実はこの与四球については、緒方孝市前監督時代から“四球を減らすように”とのお達しが毎年毎年、新年のご挨拶のようにと唱えられたのだが、結果だけを見れば3連覇中は年々悪化。この間、制球に難のある福井優也(現・楽天)、岡田明丈、矢崎拓也らは“そのあたり”が改善されることなく、安定感を欠いた内容、成績が続いたままに今日に至っているのが現状だ。

「一番イヤなのは腕が振れなくなること」横山コーチの指摘

この与四球について、就任当初、地元新聞社が横山コーチに問うたところ、戻ってきた答えがこれだった。

「数は意識しない。(四球が出るのは)意図していない球が多いから。一番イヤなのは四球を恐れて腕が振れなくなること。球を置きにいくと勝負にならない。打たれるのが怖いという気持ちではなく、投手から仕掛けてほしい」。
「四球は仕方ない。(ただ)三振の数が少なかった。四球を減らすためにボールを置きにいく、コントロールを意識しすぎるのではなくて、ドンドン攻める気持ちを持って三振をとれる投球を狙ってほしい」とも。

つまりは、“考えて攻める投球を目指せ”ということ。

横山コーチに期待したくなるポイントはここにある。

昨季に限らず、連覇中から広島の投手陣、特に救援陣を見ていて気になっていたのが試合終盤でのアウトコース一辺倒の配球だ。一発で同点という場面であればあえてリスクを冒すことはない……というのはもちろんわかる。ただ、3~4点差のあるケースでもコースを重視するのが広島バッテリーなのだ。それが諸悪の根源というつもりはないのだが「コントロールを意識しすぎる」(横山コーチ)あまりに「腕を振れなくなり」(同コーチ)、大胆さを欠いたボールは威力も半減。加えてアウトコース偏重を完全に相手打者(チーム)に読まれて思いきり踏み込まれると、アウトコースのボールも“真ん中やや外寄り”の甘い球に生まれ変わって痛打を浴びる。そんなケースがあまりにも多いのだ。

あるいはコースを狙いすぎる窮屈な投球を続けた挙げ句に四球を与えて走者を溜めることで、わざわざ投げミスが許されない状況をつくりあげ、苦し紛れに投げ込んだインコースへの勝負球も日頃から投げ慣れていないためか力のない棒球となって“ガツン!”とレフトスタンドへ……というシーンはここ数年の、試合後半にゲームをひっくり返される典型的なパターンとなってしまっているのだ。

昨年の防御率改善も、セーブ、ホールド数ともにリーグワーストを記録した中継ぎ&救援陣の内情は、そんな攻め方・考え方とも無縁ではないはずだ。

横山コーチが「ドンドン攻める気持ちを持って」というのは、おそらく、このあたりの事情を踏まえてのことだろう。

「投手と捕手は全部が協同作業」倉コーチの役割

では現状はどうか。

オープン戦も始まり広島は3戦3勝(2月28日現在)と好調で、打線は3試合で30得点をたたき出した一方、投手陣は3試合で16失点。特に3戦目の巨人戦では「四球のち痛打」のオンパレードで不安を露呈した。

ただし、この試合で先発した九里亜蓮は「四球は反省。どういう結果になるかは分からないけど、勝負してスイングさせないといけなかった」というコメントは、前述した横山コーチの目指すところを意識・理解してのことだとすれば、今後の変化に期待は持てる……のだが、いくら投手陣の考え方・攻め方に変化があっても、それを捕手と共有できなければ身もふたもない。

そこで重要になってくるのが倉コーチの役割だ。 同コーチの言うように「投手と(捕手)は全部が協同作業」。投手に「(捕手の指示待ちではなく)プランを持ってマウンドに上がること」を要求する横山コーチに対し、倉コーチ率いる捕手陣がその意識を共有したうえで組み立てを考えて実行できるのか、否か。今季の広島投手陣(特に救援陣)の生命線はそこだろう。

バッテリー間の考え方・攻め方などは一朝一夕にいくほど甘いものではない。シーズンの中での成功体験と失敗体験を両コーチ、そして投手陣と捕手陣がお互いに理解した上でケースに応じたプランを作り上げていく。時間と確固たるベクトルなしには成し得ないその“難題”に対し、両コーチがどのように選手を導き、結果につなげていくのかを注視していきたい。

倉コーチに期待したい“ネクスト會澤”の育成

もう一つ。バッテリーコーチである倉コーチには“ネクスト會澤”の育成にも期待がかかる。2017年から3年連続ベストナインの正捕手・會澤翼は昨季、リーグトップの得点圏打率を誇るなど、打てる捕手として君臨。プレミア12でも最終的には正捕手として世界一に貢献し、その存在が大きくなったことによって2番手捕手との“開き”がまた大きくなってきた今こそ、“次”を見据えて備える必要があるからだ。

候補者はいる。

會澤にも負けないポテンシャルを持つ打力が魅力の坂倉将吾や、総合力では事実上の2番手捕手といっていい磯村嘉孝、そして大卒ルーキーの石原貴規、さらには2017年ドラ1の中村奨成も控えている。

このなかでオープン戦で最も起用されている坂倉は、昨季51試合に出場しながらも前任コーチの意向もあり、捕手としての出場はわずかに3試合(いずれも途中出場)。経験が必要なポジションでありながら、まともに機会を与えてもらえなかった“過去”は、倉コーチにとっては前任者の残したツケのようなもの。そのツケを違うかたちで清算しようとしたのかどうかは分からないが、昨秋キャンプでは打力を生かすために外野、三塁への転向も検討された経緯がある。ただし捕手にこだわる坂倉本人はこれを拒否。倉コーチも「中途半端に(外野、三塁を)やるより捕手として一本立ちをしないと」と坂倉の姿勢を後押しし、今春キャンプとオープン戦では坂倉もその期待に応える活躍を見せていることは明るい材料だ。

ルーキーの石原貴も持ち前の早くて正確な二塁送球に加え、バットでも“素直な打撃”を披露。試合での出場を増やすために現在は2軍に“移動”したものの首脳陣の評価は高い。同じく現在は2軍ながらも昨季、代打で打率.323、得点圏では打率.389を記録した磯村も、このままで終わるはずがない。

今や日本を代表する捕手の一人となった會澤に、そういった“ネクスト候補”をいかに絡ませ、起用していくか。育成を優先できるチームであればまだしも、ペナント奪回を狙うチーム事情のなかでの2番手育成は至難の業。シーズン開幕と同時にその答えが出るはずはないこの難題は、今シーズンの見どころの一つになりそうだ。

<了>

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