思わずほっこり、木のおもちゃに子ども笑顔  廃校の木造校舎が美術館、木育の場に 秋田・鳥海山

「鳥海山木のおもちゃ美術館」で、木を組み合わせて遊ぶ子どもたち

 山あいの小さな小学校に、子どもたちの元気な姿が戻ってきた。廃校になった木造校舎を生かした秋田県由利本荘市の「鳥海山木のおもちゃ美術館」。生活に身近な木に触れてもらい、森林の大切さを学んでもらう「木育」の場として2018年7月に開館した。週末は多くの家族連れでにぎわう。職員は「手のひらに載るおもちゃを通じて樹木の命に感謝し、郷土愛を育んでほしい」と期待を込める。(共同通信=佐野七海)

動物の形のおもちゃ

 ▽五感刺激し、豊かな心に

 美術館の中は木の優しい香りが漂う。2月中旬の休日、子どもたちが目を輝かせながら積み木やツリーハウス、どんぐり型の木の玉を敷き詰めたボールプールに興じていた。「ドミノ作ろうよ」「次はお店屋さんごっこしたい!」。弾んだ声が絶えず響き渡っている。約800点がそろう館内では、大人もスマートフォンを手放し、子どもと一緒に木製のおもちゃでままごとをしたり、巨大なドミノを作ったりと楽しげだ。

 山形県酒田市から家族で訪れた佐藤まりさん(30)は「おもちゃがたくさんあり、いろいろな工夫がされている」と笑顔で話す。同館職員の佐々木美喜子さん(65)は「木は生きている。形や密度、香りなど五感に働き掛ける要素が多く、心が豊かになる」。

 由利本荘市は、面積の75%ほどを森林が占める。暮らしに身近な森林や木材への関心を高める木育は、自然に感謝する心を育て、伐採や生態系など環境問題を考えることにもつながるとされる。発祥地の北海道から全国に広がった。

 ツリーハウスなど多くの遊具がそろう広間は元々、体育館だった。食事が楽しめるカフェは職員室を、おもちゃの手作り体験ができる工房はパソコン室を活用した。内装や大型遊具には、スギやケヤキなど10種類以上の地元産木材を使った。「東京おもちゃ美術館」(東京都新宿区)が監修し、同様の施設は山口県長門市、沖縄県国頭村にもある。

ままごとができるパンや食器の形をしたおもちゃ

 ▽都会にはない、地元の宝

 木育指導員の益満雪絵さん(48)は、秋田県の伝統的な工芸品「曲げわっぱ」にも使われる秋田杉の魅力を紹介し、子どもを連れてきた親にも木育を働き掛ける。「『田舎だから何もない』ではなく、大人が故郷の良さを再認識し、子どもに伝えてほしい」と話す。

 開館から19年3月までに6万9千人が訪れ、当初の目標を大きく上回った。19年度も好調だ。来館者は地元にとどまらない。実は7割近くが市外からで、県外から訪れる人も。リピーターも多いという。

 廃校となった小学校の卒業生で同館マネジャーの佐藤剛さん(39)は「母校ににぎわいが生まれて感慨深い。来場者が笑顔で帰り、また来てくれるような場所にしたい」と意気込む。

美術館の外観

 冬には校舎の黒塀に白い雪が映え、夏は山々の緑と青い空が鮮やかだ。益満さんは「都会の最高技術では作れない自然は地元の宝。美術館を通じて故郷の風景の美しさに気づくきっかけになれば」と願っている。

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