都内に住む37歳女性「この先独身なら、マンションを購入した方がいい?」

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。

今回の相談者は、都内で一人暮らしをする37歳の女性。このまま賃貸に住み続けることに不安を感じ、マンションの購入を考え始めたといいます。FPの鈴木さや子氏がお答えします。

37歳、独身です。結婚はしたいですが、現在予定はありません。東京23区に住んでおり、賃貸マンション暮らしです。共益費込みで約7万5000円。2年更新で、2年に一度、更新料等が10万円かかります。

2年前に転職し、年収が300万円ほど下がりました。今後も今の会社に在籍する限り、増えることは期待できませんが、仕事を辞める気はありません。いいところがあれば転職したいと思っていますが、もう他に転職できないかなとも思っています。

もしこのまま賃貸に住み続けるとしたら、老後の家が心配です。田舎はありますが、築100年以上の家で今は両親と祖母が住んでいて、私を含め兄弟は全員、外に住居を構えております。将来帰る予定もありません。おそらく実家は負の財産になるんじゃないかと思っています。

このまま結婚しなかった場合、今のお給料で家賃を払い続けるのは厳しいので、できるだけ早くマンションを購入した方がいいのでは? と思い始めました。ただ、今買ったとしても、30年ローンでは60歳を過ぎてしまいます。マンションを購入するにしても3000万円は無理かなと思っており、2000万円くらいが妥当だと思いますが、東京で2000万円はあまりいい物件がなさそうで不安です。アドバイスよろしくお願いいたします。

〈相談者プロフィール〉

・女性、37歳、未婚

・職業:会社員(契約社員)

・居住形態:賃貸

・毎月の手取り金額:27万円

・年間の手取りボーナス額:なし(今後もらえる可能性あり)

・毎月の世帯の支出目安:20万円

【支出内訳の目安】

・住居費:7.5万円

・食費:3万円

・水道光熱費:0.7万円

・教育費:0.5万円

・保険料:0.5万円

・通信費:0.7万円

・車両費:なし

・お小遣い:3万円

・交際費:1万円

・その他:3万円

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:7万円

・年間ボーナスからの貯蓄額:なし

・現在の貯蓄総額:1000万円

・現在の投資総額:40万円

・現在の負債総額:なし


鈴木:現在賃貸にお住まいのご相談者様。このまま賃貸に住み続けることに不安を感じ、マンション購入を検討しているのですね。

こういったご相談の場合、本来は、どのような人生を過ごしたいのかについてじっくりお話しをうかがわないと答えは出ないのですが、いただいた情報から伝わってくる思いにできるだけ寄り添ってお答えしたいと思います。

どちらがいいとは一概に断言できない理由

まず、これからの予定とどんな風に思っているかをまとめてみましょう。

・結婚の予定はない(が、いずれはしたいと思っている)

・収入等よいところがあれば転職もしたい(が、もうできないとも思っている)

・実家に帰る予定はない

・家を買った方がいいのではと思い始めた(老後に住むところが心配なことと、今のお給料で家賃を払い続けるのが厳しいことから)

・東京に住み続けたい

ライフプランを左右する最も大きな変動要素として「結婚」と「仕事」があげられます。マンション購入には大きなお金がかかりますので、今後のライフプランが変わった時にもある程度対応できる選択がよいでしょう。

たとえば将来、結婚する場合に備える選択肢として、マンション購入について次のことがあげられます。

・今は買わずに結婚してから家を買うための頭金を貯める
・2人でも住める広さの家を買う
・結婚したら手放すことも考え、売れる物件を探す

また仕事についても、転職、異動など今後のキャリアはわかりません。ご相談者様がどのようなキャリアを描きたいかは文章からはわからないのですが、もし「お金」よりも「やりがい」を求めるタイプの場合は、収入が減る選択をしたくなることもあるかも。逆に、お金が第一優先の場合は、よい会社に転職でき手取り額が増えれば、「もっとローンを借りられたのに」と思うかもしれません。

このように、ライフプランは変わるため、一概に「買った方がよい」「賃貸の方がよい」とは断言できないのです。総合的な視点から、自分はどうしたいのか価値観と向き合って決めることになります。

人生を3つのケースでシミュレーションする

向き合って考えるヒントとして、「賃貸を続ける」「今マンションを購入する」「5年後にマンションを購入する」の3つのケースで、95歳までの人生とした場合(※)のシミュレーションを見てみましょう。ここでは、「かかるお金」「メリット」「デメリット」の3点をお伝えします。(※2018年厚生労働省「簡易生命表」によると、90歳時点での女性の平均余命が5.66年であるため、ここでは95歳と仮定)

【ケース1:このまま賃貸生活を続ける場合】

<かかるお金>

■家賃・共益費:7.5万円/1ヵ月

■更新費用:10万円/2年

■合計:7.5万円×12ヵ月×(95歳-37歳)+10万円×(95歳-37歳)÷2

=5510万円

<メリット>

・結婚や転職、天災や震災など、環境や価値観が変化した際、フレキシブルに引越しできる

・家計状況に合わせて、家賃の低いところへの転居も可能

<デメリット>

・生涯、同じ家に住み続けられるとは限らない

・老後、希望の住まいが見つからない可能性がある

・収入が年金のみになる老後に家賃が負担になる

・リフォームやバリアフリー化が難しい

【ケース2:今、マンションを購入する場合】

<かかるお金(※)>

今の住居費とほぼ同額となるように、ローン(30年返済/固定金利1.3%)の返済金額を7万円、管理費や修繕積立金が月0.5万円、税金等が年間12万円かかり、20年後に一度200万円のリフォームをすると仮定します。頭金と諸費用を貯金から600万円出したとすると、買える物件の価格は約2490万円(借入は2085万円)となります。かかるお金は以下のとおり。

■頭金・諸費用:600万円

■ローン返済:7万円×12ヵ月×30年間

=2520万円

■管理費修繕積立金、リフォーム代:0.5万円×12ヵ月×(95歳-37歳)+200万円

=548万円

■固定資産税等:12万円×(95歳-37歳)

=696万円

■合計:600万円+2520万円+548万円+696万円

=4364万円

<メリット>

・賃貸とは異なり資産となる

・ローン完済後は、住居費の負担が軽くなる

・老後の住まいを確保できる

・自由にリフォーム、バリアフリー化できる

・現在の低金利環境のうまみを享受できる

<デメリット>

・頭金、諸費用の支払いで、今の貯金が大幅に減る

・予算内で希望の物件が見つけられるかわからない

・結婚など環境や価値観の変化があっても簡単に売却できない可能性がある

・返済金額は簡単には下げられないため、収入減などに対応できない可能性がある

・管理費や修繕積立金(および一時金)は、予定よりも上がる可能性もある

・管理組合の仕事がまわってくることも(人付き合いが生じるためメリットでもある)

【ケース3:5年後、マンションを購入する場合】

<かかるお金(※)>

5年間毎月7万円の貯金を続けて頭金を400万円増やしたとします。ケース2と異なる条件を以下とした場合、

■頭金・諸費用:1000万円

■ローンの返済期間:25年(金利は同じ1.3%と仮定)

買える物件の価格は約2585万円(借入は1,792万円)と、ケース2より少し高くなります。

■5年間の住居費(賃貸):7.5万円×12ヵ月×5年間+10万円×2回

=470万円

■頭金・諸費用:1000万円

■ローン返済:7万円×12ヵ月×25年間

=2100万円

■管理費修繕積立金、リフォーム代:0.5万円×12ヵ月×(95歳-42歳)+200万円

=518万円

■固定資産税等:12万円×(95歳-42歳)

=636万円

■合計:470万円+1000万円+2100万円+518万円+636万円

=4724万円

<メリット>

・5年間はライフプランの変化(結婚や転職等)にフレキシブルに対応できる

・5年間貯金をすれば自己資金が増えるため、同じ返済金額で短く借りても、ケース2より少し高い物件を買える

・5年後の仕事によっては返済金額を増やせて、物件予算を上げられる可能性も

・家探しをじっくりできる

<デメリット>

・5年後の金利情勢が不明。上がる可能性もある

・5年間の家賃がムダに感じるかもしれない

※本シミュレーションは、あくまで概算です。固定資産税等は簡略化のため一律としています。なお住宅ローン控除は考慮しておりません。

どの要素を大切にしたいかで答えは見つかる

3つのケースをこうして比べてみると、どれもメリットとデメリットがありましたね。かかるお金は、賃貸住まいが95歳までの総額では最も高く、購入すれば資産として遺族に残すことも、いずれ売却することも可能なので、お金面では購入に軍配があがるでしょう。とはいえ、自由度は賃貸が一番高く、環境や価値観を大事にしたいのであれば、賃貸に軍配があがります。

まだ焦る必要はありません。これからどうしたいのか、ご相談者様がどの要素を大切にしたいかを考え、現時点で“ある程度”満足できる選択をされるとよいでしょう。

物件価格については、手取り収入に占める住居費の適正割合は約2.5割~3割、ご相談者様の場合、最大でも8万円までに抑えたいところ。その範囲に収まるよう都内で探したところ、多くはないものの駅近の中古物件もありました。色々な可能性を考えながら、ぜひ調べてみてくださいね!ご自身のワクワクすることが何か、動いてみると見えてくると思いますよ。

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