“日銀砲”で日経平均は6日ぶり反発、押し目買いチャンスが接近か

新型肺炎の感染拡大とそれに伴う景気悪化への懸念から、2月最終週の世界の株式市場は大きく動揺しました。週初(2月24日)の米国市場でNYダウが1,000ドル超の下げを記録すると、日本をはじめとした世界の株式市場にネガティブな反応が伝播しました。

NYダウはこの1週間だけで3,500ドル以上値下がりし、週末には2万5,000ドル台を付けました。前週には2万9,348ドルの最高値を付けていたことを考えると、マーケットの景色は一変した格好です。

日本でも、日経平均株価が4営業日すべてで下落し、下げ幅は2,000円超に達しました。その結果、週末の終値は2万1,000円台に沈み、昨年9月以来の水準まで落ち込みました。


日米ともに株価指標は割安圏に

新型肺炎はこれまで中国国内と周辺のアジア諸国での感染がメインでしたが、先週にはそれが欧米にまで飛び火。いよいよ世界的な流行の可能性が否定できなくなってきたことが、世界的な株安連鎖の背景にあると考えられます。

とりわけ米国は、アジアとの距離的な隔たりが大きいうえ、国内景気が個人消費を中心に堅調に推移していたことから、当初、肺炎拡大の影響は限定的とみられていました。しかし、米国内での感染の広がりが確認されるとともに、中国を軸とするサプライチェーンの寸断や、中国発の世界景気のスローダウンなどが意識されるにつれて、米国内でも警戒モードが強まっていきました。

なかなか下げ止まらない株式相場に対して、市場関係者はさまざまなアプローチで下値を模索しているのが実情です。予想PER(株価収益率)のようなバリュエーション面で見ると、すでに調整は十分に進んでいるようにも思えます。

2月28日時点でTOPIX(東証株価指数)の予想PERは12.3倍、S&P500の予想PERは16.7倍となっています(いずれもリフィニティブの調べによる12ヵ月先予想利益ベース)。TOPIXの予想PERが新型肺炎騒動前に14.4倍、S&P500の予想PERが先週まで19倍を超えていたところから比べると、それぞれ10%以上、予想PERが切り下がった状態にあります。

米中貿易摩擦の激化に揺れた2019年4~9月の予想PERのレンジが、TOPIXで12~13倍、S&P500で16~17倍であったことを考えると、両者ともにすでにその領域に入り、逆に割安感が台頭してきているようにも思います。

3月はアク抜けしやすいタイミング

新型肺炎は世界的な広がりをみせていますが、震源地の中国では感染拡大が峠を越えたとの報道もあります。最近では中国以外での感染拡大が懸念されており、日本では、今後1~2週間が感染拡大のスピードを抑えられるかどうかの瀬戸際とされます。

政府によるイベント・行事の自粛要請や、小中高校に対する臨時休校要請などが奏功して、早ければ3月前半辺りで日本の感染拡大にはメドがつく可能性もあるでしょう。

3月第2週は年度内最後の先物・オプションSQ算出を控える週で、例年、国内外からさまざまな売り買いが交錯・集中します。株式需給的にもアク抜けしやすいタイミングといえます。

また、そこから3月期末にかけては例年、配当取りの動きが活発化します。株価水準が下がっていることで表面的な利回りは上昇し、配当に着目した戦略には投資妙味が高まりそうです。

<写真:ロイター/アフロ>

注目は3月中旬のFOMC

さらに、翌週の3月17~18日には米FOMC(連邦公開市場委員会)が予定されます。ここが1つのターニング・ポイントになるかどうか、注目です。

米FRB(連邦準備制度理事会)は2月28日、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、緊急声明を発表しました。その内容は当局が経済を下支えするために適切に行動することを表明したもので、3月の会合で利下げに踏み切る用意があることを示唆したものといえます。市場では、利下げ幅が0.50%に達するとの観測も高まっています。

米国では、長期債の利回りがすでに1.1%台という史上最低レベルに低下していることから、利下げの効果は限定的とする見方もあります。しかし、当局から改めて金融政策面での積極的なサポート体制が示されれば、安心感の高まりとともに市場のモメンタム(勢い)は改善に向かうことが期待されます。

実際、週明けの3月2日には日本銀行が市場の安定を確保するために、潤沢な資金を供給する用意があることを明らかにしました。日米が協調的な金融緩和姿勢を示したことで、同日の日本株は反発に転じています。やはり、非常時の金融緩和策は株価の下支えに一定の効果を発揮するようです。

重要なのは“水準”よりも“時間軸”

とはいえ、株価の急激な下落局面では、下値のメドの判断も困難を極めます。一時的に株価が下方にオーバーシュートする可能性は否定できず、引き続き注意が必要です。

しかし、こういった状況下では、株価がいくらで下げ止まるかという水準感もさることながら、いつまでに落ち着きを取り戻すかといった時間軸が有効な局面ともいえます。

すなわち、2月29日の記者会見で安倍晋三首相が語ったように、今後1~2週間が急速な感染拡大に進むか、収束するかの瀬戸際であり、マーケットの方向性を見極めるうえでも同様です。ここを期待通りの結果で乗り切れば、その後の株価回復に向けた道筋もはっきりしてくることでしょう。

株価の大底をピンポイントで当てることは難しいとしても、大底近辺に近づきつつあることは確かだと感じられます。投資のパフォーマンスを最大化するためにも、そろそろ本格的な押し目買いを検討しても良いかもしれません。

<文:投資情報部 チーフ・グローバル・ストラテジスト 壁谷洋和>

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