5G時代のエンタテインメント牽引者が思考する未来 トークセッション『THINK ENTERTAINMENT』で見えたチャンス

2020/2/3(月)、ラフアウト渋谷にて、『THINK ENTERTAINMENT 〜エンタテインメントの未来を考える「未来会議」〜』が開催された。これは『渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト』を立ち上げた一般社団法人 渋谷未来デザインが主催となり、本イベントのパートナーであるエイベックス株式会社とともに5G時代のエンタテインメントのあり方を考えようというイベントだ。その模様をレポートしたい。

『音楽視聴市場』から『音楽使用市場』へ“720度”ビジネスの現代におけるエイベックスの姿勢

渋谷未来デザイン・金山淳吾氏のファシリテートでイベントはスタート。まずはエイベックス レーベル事業本部 執行役員本部長の猪野丈也より、音楽ビジネスの変遷と現在の状況が語られた。

猪野は、「音楽とは世界で一番短い芸術」というビジョナリーな定義を示しつつ、容量が軽い・複製が許される、心を揺るがすコンテンツという特質から、ビジネス構造が置きかわりやすいと語った。

その意味では、テクノロジーの進化によって真っ先に変化してきたのが音楽ビジネスである。ではどんな変化を経て、いまに至るのか。

猪野「もともとライヴでしかビジネスにならなかったが、蓄音機によって、音源の頒布ビジネスが生まれたり、ウォークマンによって、外で音楽を楽しむことが出来るようになったりと。現在では、CDはファンがアーティストを応援するためのマーチャンダイジングのような意味合いとなり、サブスクリプションによるストリーミングは『音楽そのものやアーティスト自身のストーリーを楽しむ』という意味性を帯びてきた。当然ながらヒットの定義もアルバムやCDの枚数だけではなく、どれだけ接触したかや再生されたかに変わってきたと思う」

猪野「さらには音楽コンテンツにまつわる、いろいろなビジネスが生まれようとしています。これまでタイアップで流れたものを CD で買うという『音楽視聴市場』でのビジネスだったのが、 テクノロジーの進化によってコンテンツがどこで流れているかが全て分かるようになって来るので、通常の音楽を楽しむメディアやデバイスだけでなく、全ての音楽、音源が流れたこと自体がビジネスになる『音楽使用市場』というものができて来ると思う。アーティストに纏わる360度から720度くらいのビジネスに変わって来る可能性があるのではないか」

TikTokやInstagram等のSNSの隆盛によって、音楽を聴くだけではなくて、「音楽を使用して楽しむ」というのがビジネスになり始めているのはその象徴といえるだろう。

猪野「今は、音楽そのものを頒布して楽しむというだけでなく、アーティストの姿勢や生き様こそがオリジナリティあるものなので、その価値をもっと有効活用しようという動きになってきている。売れているアーティストとコラボレーションするだけでなく、一緒にアーティストを育ててカルチャーを作って行くとか、売れているという事象だけでなく、アーティストの想いや努力している様や夢を追いかけている姿そのものに価値が生まれてきており、その価値にユーザーや企業様とアライアンスできたらとエイベックスとしては考えています。カルチャーやブランドの価値でいえば、例えばリアーナの例だと、彼女が崇拝するLVMHと香水を作ったり、同じモチベーションやカルチャーをもった洋服、映画、デジタルメディアなどとコラボしたりするのが世界の潮流になってきている。リアーナだから出来る事もありますが、アーティスト単体だけでなく、レーベルだったりコミュニティーだったり、いかにブランドを作るかというのがこれからのテーマだと思います」

さらにはXRの時代になれば、アーティストの声や楽器の音、ダンスの動きといった音楽の構成要素のひとつひとつが、ビジネスになりうるかもしれない、と猪野は語った。

そうした大きな変化を象徴させるエイベックス発の新しいエンタテインメントの事例として、『DIVE XR FESTIVAL supported by SoftBank』『SARF』『STAR ISLAND』を紹介した。

アニメ・ゲーム・マンガ・インターネットなど、様々な世界で活躍するキャラクターやAIらが集まる、平行世界の科学技術で創り上げるボーダレスイベント『DIVE XR FESTIVAL supported by SoftBank』。

DIVE XR FESTIVAL supported by SoftBank

『SARF』はSound Augmented Reality Factoryの略。これまで「音楽」に限定していた「定額制音楽ストリーミング配信サービス(以下:音楽サブスク)」を、「音声全般」に拡大することで、「音声AR体験」の社会への実装・普及を目指す。

SARF

『STAR ISLAND』はシンガポールのマリーナ・ベイ・サンズを背景に開催したカウントダウン公演でも話題になった、日本製花火とテクノロジーやパフォーマンスを組み合わせた新たなエンタテインメントショーだ。

2020 Star Island Singapore

テクノロジーの進化によって、劇的に変わりつつあるエンタテインメントの数々。会場の参加者も熱心にメモをとる姿が見受けられた。

「エンタテインメントの境界線」「テクノロジーとリアル」トークセッションで浮かぶ未来へのアイデア

続いては、トークセッション。登壇したのは、エイベックスの猪野に加えて、KDDI ∞ Labo ⻑の中馬和彦氏、渋谷未来デザインの⻑田新子氏という3人だ。

まずは3名から、注目しているエンタテインメントやイベントの紹介。

長田氏があげたのは、タイ版のバーニングマンというべき『WONDERFRUIT』。音楽、ダンス、アートなどのカルチャーに加えて、サスティナブルな要素があるのが特徴。そうしたエンタテインメントに注目しているという。

中馬氏は、世界でもっとも難関といわれる「ミネルバ大学」。授業はすべてオンライン、なのに全寮制でその場所は4年間で世界中を移動する、だからキャンパスは「世界」という、このギャップやユニークさこそが大事だと中馬氏は語る。

ファシリテーターの金山氏がついでにと言って挙げた『PY1』も面白い。シルク・ドゥ・ソレイユをつくったギー・ラリベルテが、新たに立ち上げたクリエイティブ・プロジェクトで、街中にピラミッドをつくるというとてつもないエンタテインメントだ。

猪野は『RODEN CRATER』。ジェームズ・タレルがつくった天文台+アートのプロジェクトだ。カニエ・ウェストも寄付していることで知られ、富裕層が非日常に投資をするというトレンドとして紹介をした。

そこからトークは、「エンタテインメントの境界線」「テクノロジーとリアル」などの観点でディスカッションされた。

中馬「昔はアナログだったのでどこか場所に行ったときはハレで、そうじゃないところが日常だったと思うんです。でも今は、テクノロジーによって日常がハレになったり、境界が曖昧になっている。だからマネタイズのポイントがライヴに収斂されてきているのも、人が集まる空間がハレとして際立ってきているからだと思うんです」

猪野「逆に僕は境界線をなくしたいなと思っている立場で。例えば東京ディズニーシーの『タートル・トーク』って、ちょっとVTuberっぽいエンタメだったり、教育にも使えたりするでしょうし。例えばアバター技術を違う業種と掛け合わせることで新しい価値が作れたりするかもしれない」

一方で、これまでスポーツ等でエクストリームエンタテインメントをプロデュースしてきた長田氏は、境界線は保ちつつ非日常感をいかに演出するかが大事だと語る。

長田「日常と非日常は明らかに境界線があって、エンタテインメントはやっぱりワクワクするかどうか。普段の生活にはないものだと思う。以前、浅草寺でF1を走らせるっていうプロジェクトをやったんですよ。それくらいの非日常感だとすごくワクワクしますよね」

ではテクノロジーの進化によって、リアル空間はどう変わっていくのだろうか。

猪野「新しいテクノロジーでエンタテインメントが生まれるだけじゃなくて、今ある技術からでもアイデア次第で非日常=ハレを生むこともあると思う。例えば電力会社と地下で発電をするっていうプランでディスカッションをしたことがあるんですが、発電時に放出される熱エネルギーを地上に送って、冬でも半袖で過ごせる音楽フェスをやるとか、そういうアイデアの可能性はある」

金山「その意味では、やっぱり公園のような公共空間は大事。いまの公園って子供が大きくなると卒業していく場所になってしまっているけど、テクノロジーによって公園ごとにBGMがあったり、ある時間帯にヘッドホンしてると音楽が流れてくるとか、VRやARで海外のコレオグラファーとかパフォーマンスとかが見れるとか。都市空間がエンタテインメントになっていく未来は想像できる」

中馬「フォートナイトのゲーム内で、Marshmelloがライヴフェスをやってましたよね。あれって『Fly』という音楽と一緒にみんなでFlyできて、リアルなフェスでは絶対にできない。だからこそヴァーチャルでやる意味があるんですよ」

長田「そう、テクノロジーでリアルに集まるのもいいんですが、eスポーツのように世界中の人が一緒にバトルできるっていうのがいい。ダイバーシティというか、例えば地方に住んでいて生まれた時から自宅から出れないのでリアルなイベントには参加できないけど、すごくゲームがうまいとか。そういう人も一緒に参加できて認めあう世界って夢があると思う」

イベントではこの後も活発なアイデアがディスカッションされて、質疑応答も含めて大盛況で幕を閉じた。

まさにいまはテクノロジーのティッピングポイントというべき状況だ。いろいろなチャレンジがあるしチャンスもある。またテクノロジーを活用した海外のエンタテインメントの進化も著しい。

だからこそ、こうしたイベントで異なるプレイヤーが同じ場所に集まり、アイデアを交換することに意味がある。今後のイベント開催は要チェックというべきだろう。そしてエイベックスをはじめとしたチャレンジによって見たこともない・想像したこともない新たなエンタテインメントが日本から生まれてくることに期待したい。

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