8代続く看板モデル「ポルシェ911」を“終の1台”にしたいと思えるワケ

もし経済的なゆとりがあり、購入が許されるならば“終の車”はポルシェ911にしたい。これは偽らざる気持ちです。

根っからのポルシェフリークでもありますから、こんな気持ちになるのは当然なのですが、最新の992と呼ばれるモデルに乗っても、その気持ちは一切ブレませんでした。


劇的な変化はないが、確実に進化している

雑誌の企画や試乗テストも兼ねて3日ほど911カレラ4Sに乗ることになりました。2018年11月に8代目として登場した最新の911で、992という開発コードで呼ばれるモデルです。900番台の3桁の数字ばかりで、ちょっとややこしいですが「911」とは、1963年以来ずっと受け継がれてきた車名です。一方の「992」というのは開発コードのことで、それぞれの世代ごとにこの数字は違い、現行モデルは992なのです。

どの年代の911なのか、をはっきりさせるとき“何代目の911は”というより“930は”とか“964は”とか、3桁の開発コードで呼ぶことが多いのです。まぁ、この辺のマニアックな話は少し、置いておきます。

さっそく911カレラ4Sのキーを受け取り、駐車場に佇むクルマとご対面。先代モデルと全体のフォルムは大きく変わっていませんが、フロント部分は4点式のLEDヘッドライトを装備し、表情がより未来的に見えます。

シャープな印象のリアランプは横長で細め。

さらにテールランプは先代に比べ細長く、よりシャープな印象の表情になりました。ボディサイズや細かいところではかなり変わっているのですが、全体の基本フォルムは初代からずっと大きな変化がないのです。真横から見たときですが、スポーツカーとしては少し直立したフロントガラス。そしてリアエンドに向かってなだらかに降りていくルーフラインのフォルムなど、その基本は変わっていません。

さらにグラスエリアの基本形も変わっていません。サイドガラスの水滴型デザイン、台形のフロントガラスやリアガラスの基本デザインも変わりません。この普遍とも言える全体のフォルムとグラスエリアが歴代の911デザインの基本にあり、唯一無二の風景、佇まいを創り出しています。よく「いつ見ても911そのもの、と誰もが分かる」などと言われますが、その最大の要因がここにあります。普遍であることが銘品としての歴史を作り上げるのです。もちろん細部のブラッシュアップやデザインの変更は必要ですが、それでも「911はこれからもずっと基本はそのままに!」と思い、そして強く願います。

運転感覚も変わらないので一瞬にして体の一部に

さっそくドアを開けて乗り込むのですが、ここでも普遍の利点を見つけられます。ドアの前後の長さが2ドアのスポーツカーとしては短めで、乗降性がいいのです。ボディ脇のスペースが不足気味でもドアが短いため、大きく開けるのです。

さっそくシートに座ります。ここからはどの年代の911に乗っても同じ風景なんです。もちろん各部のデザインは時代と共に大きく変化してきましたが、基本レイアウトがほとんど変わらないのです。

実は私も930時代と964時代の911と通算で16年ほど付き合った経験がありますが、その後、どの年代の911に乗っても、すぐに体に馴染みます。極端かも知れませんが5分も走れば、自分の体の一部のようになります。「そんだけ乗り続けていたらすぐに馴染むのは当たり前だろ」と言う人もいるかもしれません。でも半世紀にわたって基本的なポジションが変わらずに守られていることが凄いと感じます。目線の高さ、シートのホールド感、フロントガラスから見える風景など、どれをとっても同じで、911を乗り継いだ人にとっては、あっと言う間に慣れ親しんだ感覚で新しいモデルを走らせる事が出来ます。

もちろん最新の992も変わりませんでした。すでに964と別れてから10年以上経ちましたが、走り出した途端に体にフィットするのです。本当に不思議ですが、一方でポルシェは半世紀以上前に、自分たちが理想と考える運転感覚を掴んでいたことにもなります。

右ハンドルで左側のフロントフェンダーの稜線が確認でき、車両感覚が掴みやすい。

では初めての人にとってはどうか? もちろん最初は慣れるまで、それなりに時間もかかると思いますが、ポルシェのドライビングポジションは車両感覚を掴むには適していると思います。目線が高めで、グラスエリアも広いということがストレスを軽減してくれます。例えばフロントガラスから左右のフロントフェンダーの稜線が見えるのです。これが見えるだけでも左右の車幅感覚がスッと把握できて運転がとても楽になるのです。

車両感覚が掴みやすく、運転のストレスが軽減されるとスポーティな走りもさらに楽に行えますから、スポーツカーとしての能力をより高いレベルで引き出すことも出すことにもなります。

切れ味、乗り心地など走りの味は格段に進化

走り出してすぐに自分の体の一部となった最新911。混雑した市街地でもすでに慣れ親しんだクルマになっていますから、スイスイと走ります。相変わらず乗り心地がよく、快適です。「良く出来たスポーツカーほど低速が快適」という私の判断基準は、ポルシェと付き合ったことで培われました。

ただ、エンジンが450馬力ものパワーであっても、ポルシェ独特の4WDシステムによって安定的な走りを実現したカレラ4Sは、相当に走りの限界地点が高いのです。当然のように一般路では切れ味鋭く、ガッチリと路面を掴んで高いレベルで走れます。一方で少し前に試した伝統的なRR(リアエンジン、リア駆動)の911カレラの運転感覚や走りの味の方が個人的にはより“ポルシェらしい”と感じました。もちろんベーシックなカレラの方が価格的にもリーズナブルです。

制動初期はソフトだが、踏み込み量に応じて強烈に制動力を発揮する

ここでひとつ注意して欲しいことがあります。高度な仕上げのサスペンションやガッチリとしたボディ骨格によってコーナリング速度も高いレベルにあるし、驚くほど快適な乗り心地を実現してくれるわけですが、911は無茶をするとあっと言う間に裏切ることがあります。調子に乗って飛ばしていると、一気にスピン、なんてことがけっこうあります。まぁ、そこまでのレベルにまで走り込める人は本当に少ないでしょうが、もし幸運にもオーナーの権利を得ることができたらご注意下さい。

それにしても強烈なトラクションを生かした加速、極上のブレーキ、一体感のある操縦性など、なにをとっても上質な味わい。前回のランボルギーニ・ウラカンに乗ったときはまさにアドレナリン出まくりでした。クルマがいつも「もっと走れ走れ」と言ってきます。ところがこの911は「イザとなったらいくらでも速く走れるんだから普段はゆっくりと」と言われているようで、本当に気持ちの上で抑制が効いてくるんです。まさに日だまりのようなスポーツカーなんです。

こうして大満足の3日間が終わりに近づいてきました。いつも「返したくないな」と思う試乗車の筆頭に来ます。そこで恐る恐る車内にあった装備表を見てみました。車両価格1,804万8,100円。いやオプション価格を入れると「2,100万円オーバー也」。先ほどうかつにもお安いなどと言ってしまったベーシックなカレラでも1,359万7,222円です。私が1年落ちの中古の964を購入した時ですら、子供の教育資金にまで手を付けてしまって大騒ぎになったほどなのに、これはやはり夢の世界ですね。いつもポルシェ911に乗ってから「乗らなきゃ良かった」と後悔しますが、一方で「絶対に買ってやる!」と生きる糧になるのです。取り急ぎ宝くじだけは買おうと思います。

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