大学中退、とび職経てプロ野球へ 飛躍誓う“異色”の巨人・増田大輝内野手

休日を返上し、打撃練習する巨人・増田大輝内野手=那覇

 内に秘めた熱きハングリー精神がにじみ出る。自分の人生を懸け、家族を守るためにプレーする。その思いに強く向き合っているプレーヤーがいる。プロ野球巨人の26歳、増田大輝内野手だ。

 静かな口調と裏腹にぎらぎらとした言葉。取材をする中で「自分で切り開く」そんな精神力の強さを端々から感じた。

 彼の経歴をたどれば、異色であることがよく分かる。徳島の小松島高を卒業後、進学した近大では、体育会系の雰囲気になじめず2年次に中退。その後、地元に戻ってとび職として建設現場に出て食いつないだが、野球への未練を断ち切れず、独立リーグの門をたたいた。

 「NPB(日本野球機構)に絶対に行ってやる。行って給料をいっぱいもらいたいという気持ちはすごくあった」

 武器である足の速さと守備力を磨いて、2016年に育成選手でドラフト指名された。入団時には妻子を徳島に残して寮で単身赴任したことが話題を呼んだ。

 家族を養う責任の大きさ。実力だけがものを言う世界。不安があるからこそ、常に自分にプレッシャーをかけ続けてきた。

 「育成で入って2年で支配下になれなかったら、自分からやめて仕事をしよう。ずるずる育成でいっても仕方ない。しっかりとけじめというか決めるところは決めておかないと。2年というのは家族で話し合って決めていましたね」

 NPBの世界でも生きたのが、大学を辞め、建設現場で働いた経験だった。作業員が通る足場が少しでもずれていれば、自分のせいで他人がけがをしてしまう。確認作業を怠らず、細心の注意を払い、次々と降りかかってくる仕事に対し、周りを見て的確に判断をする。

 「メンタル面と周りを見るというのは野球のプレーにつながっている。野球とは違うところで学んだというのは大きかったんじゃないですかね」。冷静沈着に、一瞬の判断力が必要とされる役割。奇しくも地味ながらチームを支えるプレースタイルが、自らの経験とつながっているのではないかと考えさせられた。

 課題だった打撃面を改善して2017年に支配下登録を勝ち取った。

 昨年は1軍デビューを果たし、リーグ優勝を決めた試合で決勝打を放つなど活躍。主に代走や守備固めといった控えとしての出場が目立ったが、今年はそこに甘んじるつもりはない。

 「守備と走塁に関しては自信を持っていけている。あとはバッティング」。決意の表れか、今年2月のキャンプでは全ての休養日を返上してバットを振った。

 同じような境遇の選手に勇気を与えることを自覚しているのだろう。

 「独立リーグには大学を中退した人も多いですし、同じような道を歩んでいる人が多い。自分ができるということを証明できれば、後輩たちもモチベーションが上がると思いますし、自分も独立だったときはNPBに行った人たちを見て自分もできるという気持ちになれた」

 徳島インディゴソックスで一緒にプレーし、中日に育成で入団し支配下になった木下雄介投手も駒大を中退した経歴を持つ。増田は「いつも一緒に頑張ろうぜって言っている」。励まし合い、切磋琢磨している。

 夜勤の方が、日当が良いからと、危険な夜の仕事にたくさん入り、暗闇で作業に当たった日々。もがき苦しんで努力し、その先にあったまばゆいばかりのカクテル光線と大歓声の中で野球ができる環境。猛者が集うプロの世界で、彼の生きざまを感じながら追い掛けたい。

河部 信貴(かわべ・のぶたか)プロフィル

スポーツ新聞社で芸能、社会などを担当後、2011年に共同通信入社。大阪社会部で市政や府警を取材し、岐阜支局を経て、名古屋運動部ではプロ野球中日を受け持った。18年12月から本社運動部で巨人を担当。愛知県出身。

© 一般社団法人共同通信社