政権末期の様相…。新型コロナウイルスへの対応は「消えた年金」の再来か? 衆院予算委 傍聴記

はじめに

国会は、先月28 日、一般会計の総額が過去最大の 102 兆 6580 億円となる 20 年度予算案が、衆院を通過し論戦の舞台は参院に移った。
筆者は、衆院予算委員会の質疑をすべて傍聴した。筆者が知るこの 32 年間の国会において「最低最悪の論戦」が展開された。国の公文書でさえ平気で書き換えや廃棄される社会に堕ちてしまった今、「最低最悪の衆院予算委」について記録に残したい。

予算委員長は職責を果たしているのか

原因のひとつは、棚橋泰文委員長の運営だ。予算委に関わらず、国会での質疑で、閣僚が答弁に窮したり不明確で内容を整理する場合、委員長は「速記を止めて下さい」と宣言し、質問者の時間にはカウントしない。

しかし、棚橋委員長は「速記を止め」ず、いたずらに野党議員の質問時間を消費させていた。公文書の扱いを巡り珍妙な答弁を繰り返す北村誠吾大臣に対しては、「国、務、大、臣、北、村、誠、吾、君、答、弁、願、い、ま、す」と一言と言うよりも一文字一文字区切って、時間稼ぎを行い、質問者の時間を削り、秘書官が北村大臣に答弁内容を耳打ちする時間を与えていた。

極めつけは、質問を終えた野党議員の背中に向けて安倍首相が発した「意味のない質問だよ」という不規則発言=野次が、聞こえなかったと対応したことだ。

委員長席は、安倍首相の答弁席の左 1 メートル弱だ。約 20 メートル離れた記者席で傍聴していた筆者もはっきり聞き取れた不規則発言が聞こえなかったのならば、委員長自身が、委員会質疑に集中していないことになる。
政府与党寄りの運営というよりも委員長としての職責を果たしていないことは明らかだ。

自民党 予算委筆頭理事の 職務放棄

次に、自民党筆頭理事の坂本哲志氏が全く機能していない。質問者の意図に沿わない答弁や激しい不規則発言が飛び交い委員会運営に支障が出た時、委員長は、与野党双方の理事を委員長席に呼んで協議を行い議事を整理する。

ところが、坂本氏は、委員会が紛糾し議事整理のために、他党筆頭理事が委員長席に来て欲しいと要請しても、その呼び掛けに応じないことが頻繁にあった。

テレビ中継が行われた時などは、チョロチョロと委員長席に近寄りテレビに映りこんでいたが、テレビ中継がない時は、呼び掛けがあっても自席に座ったままで、筆頭理事としての職務を放棄していたに等しい。

坂本氏は、党災害対策本部で事務局長をしているが、二階俊博幹事長が出席する会議で見せるテキパキとした言動とは「全くの別人」だった。委員会運営の障害となっていた。

坂本氏は、当選 6回ながら大臣経験がない。しかし、自民党へは「中途入社組」(党幹部)のため、政府に利する委員会運営を行い、その論功行賞狙いで次の党人事・内閣改造でなにがしかのポストを狙っているようにしか見えなかった。ちなみに、直近では、田中和徳氏や菅原一秀氏が、予算委 筆頭理事を経て入閣している。

安倍首相の答弁内容と姿勢

そして、安倍首相自身の答弁内容及び姿勢も酷かった。「桜を見る会」前夜祭の出席者の募集は安倍事務所で行っている。政治家の活動で金銭の出納が伴えば、政治資金収支報告書に記載し届け出なければならない。

ところが、安倍首相の答弁は、「出席者が一人ひとりが会場のホテルと契約したので政治資金収支報告書に届け出る必要はない」という論理だ。

安倍首相の答弁が通用するならば、政治家(及び予定候補者)は、今後、飲食を伴う会合・活動を行っても、収支報告書に記載しなくてもよいことになる。公職選挙法で禁止されている「買収」を疑われる行為を行っても良いと、内閣総理大臣が堂々と国会答弁したことになる。

「意味のない質問だよ」という安倍首相の不規則発言の最も深刻な点は、安倍首相が立法府と行政府の関係を理解していないことが明らかになったことだ。

政府側=行政府は、予算案審議を、国権の最高機関である国会=立法府にお願いをしている立場、予算案を吟味してもらう立場であることを理解していないことが露呈した。

質問者への反論は答弁で行うべきだし、少なくとも筆者が見てきた国会論戦~平成の竹下内閣以降~で、審議をお願いする側から不規則発言が連発される事態は、安倍内閣以外に存在しない。

過去の政権退陣の事例

【政治資金集め】を得意とした田中角栄、竹下登氏の内閣は、【田中金脈事件】、【リクルート事件】で倒れている。

党内一の【政策通】と言われた橋本龍太郎氏は、98 年参院選最中に【減税政策】をめぐる発言のブレを指摘され選挙に敗北し、退陣を余儀なくされた。

党内融和のため【気配り】がモットーだった小渕恵三氏は、99 年総裁選で対立した加藤紘一氏、山崎拓氏に対しての激しい【憎悪】のため、翌年、病に倒れ辞任した。

過去の退陣例を見ていくと、【首相自身の得意分野】が原因で退陣に追い込まれている。

 

新型コロナウイルスへの対応は「消えた年金」の再来か?

新型コロナウイルスの感染拡大への対応が緊急の事態となった。安倍首相は、自民党社会労働部会長を経験する等、厚生労働行政とつながりが深いいわゆる【社労族】の一人に数えられている。

今回は、厚生労働省の後手後手の対応が批判にさらされている。

第 1 次安倍内閣は、【消えた年金】への対応ができなかったことが退陣へ追い込まれた理由のひとつだ。【厚生労働省の対応】=安倍首相の「悪夢」が蘇りつつある。

 

人事への批判

第2次内閣では、日銀総裁、NHK 会長、内閣人事局長、内閣法制局長官と自らの政策や思いを実現する目的で、周辺が「忖度」し、安倍首相の意にかなう人事を行ってきたとの指摘がある。

検察庁法で定められた 63 歳という検事の定年年齢を超え、国家公務員の定年についての国会答弁を無視する形で、黒川弘務 東京高検検事長の定年延長が閣議決定され、その手続きも含め激しい反発を受けている。

政権末期の様相

【厚生労働行政】、政権維持のために機能してきた【人事】。安倍首相が得意としてきた分野、周辺が政権維持のために忖度してきた分野で、綻びが生じ、世論の激しい反発を受けている。

前回 2017 年の衆議院選挙は「国難危機突破」を理由に行われた。

新型コロナウイルスの感染拡大が緊急事態という「国難」であるならば、必要最低限の対策を講じた上で、国民に信を問わなければ、安倍首相の言動の整合性がとれなくなる。

政権はその得意分野で倒れる

衆院予算委の質疑を総括すれば、新型コロナウイルスの感染拡大防止の【唯一・最大の対策】は、人心一新=「意味のない」存在となった安倍内閣の退陣しかないという世論は、必ず高まってくるに違いないということだ。

 

今後の主な日程

○ 3 月 2 日(月)  ~参院予算委
○ 5 日(木)    熊本県知事選挙告示
○ 6 日(金)    参本会議
○ 10 日(火)     新型コロナウイルス感染拡大防止策の公表
○ 11 日(水)               東日本大震災 9 周年追悼式
同                   春闘大手集中回答日
○ 12 日(木)               安倍首相在職 3000 日
○ 18 日(水)               2 月訪日外国人数の発表
○ 19 日(木)     日銀総裁会見
○ 20 日(金)    地下鉄サリン事件 25 周年
○ 22 日(日)    熊本県知事選挙投・開票
○ 26 日(木)    東京五輪・パラリンピックの聖火リレー開始
○ 30 日(月)    国松警察庁長官狙撃事件 25 周年

 

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