レッドブル・ホンダ、2020年は速さと信頼性を両立。打倒メルセデスへの手札は揃った/2020年F1合同テスト総括(1)

 スペイン・バルセロナで行われた2回のプレシーズンテストを終え、いよいよ開幕まで秒読み段階に入った2020年のF1。計6日間のプレシーズンテストでは各チームの勢力図もおぼろげながら見えてきた。今回はシリーズに参戦する10チームからテストで気になったチームを複数ピックアップし、テストの結果を踏まえながらシーズンの展望を予測する。連載第1回は打倒メルセデスに燃えるレッドブル・ホンダだ。

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 おそらく、もう何年もなかった“昂り”を感じつつ、F1の新シーズン開幕を待ちわびていることだろう。新車『RB16』のテストには手応えしかない。そう断じられるほどの充実ぶりだった。

 ふり返れば1年前、同じテスト期間中にチームへ加入したてのピエール・ガスリーが大クラッシュを起こしている。当時は単なるドライバーエラーにもみられたが、のちにこの遠因が明らかとなる。

 2019年シーズンがいざ開幕すると、2019年型のレッドブルF1マシン『RB15』はやたらと高いトップスピードをマークした。だが、このチームが送り出すシャシーの最大の美徳であるはずのコーナリングスピードに際立ったものはなかった。

 フロントウイング新規定を読み間違えたのか、あるいはコンビネーション1年目となるホンダのパワーユニットにまだ全幅の信頼を置けなかったか。最高速は伸びても、とかくスタビリティを欠くクルマで、初期型はとても勝利をうかがえるような代物ではなかった。

 ドライバーにとって扱いづらさがあり、マックス・フェルスタッペンにはどうにかコントロールできても、F1でのキャリアが浅い新任ガスリーには挙動が読めないことが重荷となっていた。それが新車乗り始めのクラッシュを招き、シーズンが始まっても一向にガスリーの成績が上向かない理由ともなった。

 いずれにせよ、シリーズチャンピオン争いを意識できるようなクルマではなかったということだ。ガスリーが悪いドライバーでないことは、トロロッソ復帰後のパフォーマンスぶりに証明されている。

 チームはRB15初期型の非を認め、またホンダ製パワーユニットへの理解も深まったことから、クルマの開発を得意とするダウンフォース方向に振った。だが、時間は要した。

 結果、フェルスタッペンによる初勝利がもうシーズン半ばの第9戦時点となってしまい、計3勝で1年をフィニッシュした。だがラスト3戦に絞れば、フェルスタッペンは1勝を含めてオール表彰台。この3戦に限れば、獲得ポイントはメルセデスの両ドライバーよりも上だった。(フェルスタッペン:58点、ハミルトン:50点、ボッタス:37点)

 2020年は、これを起点にスタートできる。前年のように未知数なところはない。

 F1では1年後、2021年に大規模な規定変更が控えているため、多くの陣営が新車に前年型継承のコンサバなアプローチを選ぶなか、RB16はノーズ設計を一新して攻めの姿勢を採った。

2020年のF1プレシーズンテストに参加したアレクサンダー・アルボン(レッドブル)

 テストの前半3日間は例年と同様、信頼性確認の作業に徹してレースシミュレーションも済ませた。2日目に午前と午後でパワーユニットの載せ換えが行なわれたが、送信データから万全を期したもので、検査結果は異状なしだった。この日、新車初走行だったアレクサンダー・アルボンも好感触を口にしている。前年型の気難しさはない。

 そして、これが開幕前最終となる2回目テストを迎えると、フロントウイングの翼形やサイドディフレクター関連に開発の手が入った。

 3日目午後、最後のドライブ担当はフェルスタッペンだ。結果、この日の2番手タイムだったが、メルセデスのバルテリ・ボッタスに1000分の73秒差まで肉薄した。なおフェルスタッペンが履いたタイヤはピレリの2番目に軟らかい“C4”であり、ボッタスよりもひとつ硬いスペックだった。

 ピレリによれば、ボッタスの履いた“C5”は1周0.45秒速いタイヤだ。すなわち同じタイヤスペックだと仮定するなら、両者の位置関係は逆転する。

 もちろんテストのタイムは、そのまま鵜呑みにできるものではない。だがテスト期間を通じてRB16はロングランペースも良く、ホンダのパワーユニットは一度もコース上でのトラブルを出すことなく、同じホンダユーザーのスクーデリア・アルファタウリ(旧トロロッソ)との合計で1549周ものラップを重ねている。

 1年前とは異なり、これでレッドブルが王座奪回を意識しないはずもあるまい。打倒メルセデスに向け、すべての手札は揃った。

2020年のF1プレシーズンテストに参加したマックス・フェルスタッペン(レッドブル)

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