NPT発効50年

 もう滅びたはずなのに、よみがえったように思えるものを「亡霊」と呼ぶ。軍縮を担当する国連事務次長の中満泉さんが「際限のない核競争の亡霊が現れている」と国連安全保障理事会の会合で発言した、と先日の紙面にある▲核保有国の間に「分断」が生じ、米国とロシアはいま再び核軍拡競争に傾いている。中満さんはそれを「亡霊」と呼ぶ▲米ロなど5カ国に限り核兵器の保有を認める核拡散防止条約(NPT)はきのう、発効50年となった。他国には核保有させず、核軍縮の交渉を義務と定める条約だが、核拡散を防ぐのも、核を減らすのも、うまくいったと果たして言えるか▲インド、パキスタンの核保有を防げなかった。大国は核軍縮の逆をいく。核保有国と非保有国の間にも「分断」がある。5年ごとのNPT再検討会議が4月に始まるが、前進は見通せない▲2010年の会議では、オバマ米大統領が唱えた「核なき世界」に呼応して核軍縮の機運が高まったのに、5年後には決裂した。このように、再検討会議は期待と落胆を行き来してきた歴史がある。いま「期待」につながる何かが思い浮かばない▲NPT体制は崖っぷちに立つが、核競争の亡霊に惑わされている場合ではない。心から「一歩でも前進」を願う人々が被爆75年のこの国に、世界中にいる。(徹)

 


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