食用コオロギはエビの味? 世界が熱視線  昆虫食普及に大学生がベンチャー 「おいしく、貴重なタンパク源」

 昆虫食で将来の食料難を救う―。そんな理想を掲げ、群馬県高崎市立高崎経済大4年の桜井蓮(さくらい・れん)さん(22)が、食用コオロギを使った食品を製造販売するベンチャー企業「フューチャーノート」を設立した。まず、昆虫食はゲテモノというイメージを変えたい。抵抗なく食べられるよう、パウダーに加工したコオロギを練り込んだ焼き菓子を開発した。「昆虫は貴重なタンパク源になる。工夫すればおいしく食べられると伝えたい」と意気込む。(共同通信=小林清美)

桜井さんらが開発したコオロギのゴーフレット

 ▽食べてみると…「香ばしい」

 開発したのは「コオロギのゴーフレット」。1枚に食用コオロギ約10匹分のパウダーが練り込まれている。ココナッツクリームとチョコクリームの2種で、食べてみるとコーヒーのような香ばしさがあった。パッケージにかわいらしいコオロギが描かれていなければ、虫が入っているとは気付かないだろう。

 「コオロギはエビに近い風味があり、香ばしいんです」と、会社の共同代表の同大地域政策学部飯島明宏(いいじま・あきひろ)教授(42)。桜井さんはもともと、飯島教授のゼミで環境問題や地域政策を学んでいた。群馬県の川に住む昆虫を調査していたとき「食べられるのかな」と興味を持ち、昆虫食の研究を始めた。

タイのコオロギ養殖農家の女性とタイのコオロギ養殖農家の女性と桜井さん(中央のめがねを掛けた男性)と飯島教授(桜井さんの右隣)

 ▽世界の商社、コオロギ養殖に熱視線

 会社設立のきっかけは2019年2月。研究で訪れたタイで、コオロギの養殖現場やパウダーにする加工工場を視察した。欧米や日本の商社が多数買い付けに来ているのを見て確信した。「日本で昆虫食が普及すればビジネスになる」

 背景には世界的な人口増加と食糧不足の予測がある。国連食糧農業機関(FAO)の報告書は、従来の家畜に代わり昆虫食を新たなタンパク源として推奨する。昆虫は牛や豚と比べ飼料が少なくて済み、環境負荷が小さいという。

 桜井さんによると、タイの農村では、多額の設備投資がいらず、卵がふ化してから約45日間で出荷できるコオロギの養殖が農家の副収入源として重宝されている。コオロギを輸入することでタイの地方が潤い、昆虫養殖の技術がさまざまな国の地域づくりにも役立つ。学んできた地域政策に生かせるとの思いもあり、19年7月、会社を設立した。

養殖しているコオロギ

 ▽第1作は1か月で完売

 ただ、実は桜井さんは虫が苦手だった。出身は新潟県で、虫を食べた経験はなかった。そこで、まずはコオロギパウダーを使い臭みや苦みを抑えるためのレシピをいくつも試作してみた。天ぷらやお好み焼き、ピザの生地…。いろいろな料理に使ってみる中で、甘い焼き菓子と相性がいいことに気づいた。

 そして販売にこぎ着けた第1作目は「コオロギのビスコッティ」。生地にコオロギパウダーを練り込んだものと、一匹丸ごと入れたものの2種類を開発した。原料の調達から菓子に加工するまですべてをタイで行った。同10月に日本国内で発売すると、1カ月ほどで売り切れた。「いける」。手応えをつかんだ。

 ▽開発のゴーフレット、国内で販売へ

 次の製品開発に向け、今度は国内で製造を委託する工場を探した。が、ことごとく断られた。

 「虫が混入するのは食品業界では御法度。虫を原料に使ってもいいなんていう業者はいなかった」と桜井さん。

 なんとか最終的に群馬県安中市の田村製菓が受け入れてくれた。そして19年12月、筆者も試食したゴーフレットが完成した。コオロギパウダーを練り込んだ生地で甘いクリームを挟み、軽い食感に仕上げた。

 ゴーフレットは3枚入り650円、8枚入り1520円。インターネットや国立科学博物館、大阪府伊丹市昆虫館などで買える。20年3月現在、約1万5千枚を売り上げた。

 桜井さんは4月から同大大学院に進み、昆虫食の研究をしながらさらなる普及を目指す。

 「昆虫食はゲテモノというイメージを変えたい。牛や豚を食肉に加工するように、虫も丸ごとではなくおいしい食べ方ができる。まず食べてもらい、今後の食事の選択肢に加えてほしい」

コオロギのゴーフレットを手にする桜井蓮(さくらい・れん)さん

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