「女の子がカッコよくて、男の子が可愛くてもいい」セクマイ美容師・KAHOさん流、LGBTsフレンドリーなヘアサロンをつくるまで!

日本一のヘアサロン激戦区とも言われる原宿・表参道エリアに、多くのLGBTs当事者が足を運ぶ「Hairsalon BREEN Tokyo」がある。性別に囚われない一人ひとりの個性を第一に尊重した、ジェンダーレスなヘアスタイルの提案力・技術力も人気の理由であるが、何といっても徹底したLGBTsフレンドリーな空間づくりが支持される最大の理由であろう。

立役者であるスタイリストのKAHOさんはレズビアン、LGBTs当事者の一人だ。スタイリストデビューを機に自身のインスタグラムにてセクシュアルマイノリティの美容師であることをカミングアウト。それから一年数ヶ月という短い期間ながらも、Hairsalon BREEN Tokyoのイメージを一新し唯一無二のスタイルへと築き上げた。

彼女の行動力の源になっているバックグラウンドやサロンのLGBTs施策、そして次なる目標をお聞きした。

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--「男の子っぽい女の子と思っていて。私みたいに女の子に惹かれる子たちなんていっぱいいると思っていた」

小学校1年生から中学校3年生までの9年間、男の子だらけの中でサッカーをしていました。そのためかは分かりませんが服装もスカートよりパンツスタイル、遊びと言えばおままごとより男の子に混ざって野球やサッカーばかり。小学校に入学する時は、ランドセルはどうしても赤じゃなくて黒が良いと言ったのですがお母さんが許してくれなくて渋々、薄紫で我慢した記憶があります(笑)。

そんな私が「周りと、もしかしたら違うかも…?」と気づいたのは、中学に入学してから。周りの友人が気になる男子の話をする中で、私が興味を惹かれる相手は女子だった。ただ当時は「LGBT」「セクシュアルマイノリティ」といった言葉も知らなかったので、私みたいな感情は誰もが持っている普通なことだと思っていたんです。ただ、その気持ちは何となく言ってはいけないことというのが無意識の中にあって。高校生になってからは周囲に合わせて男子の話で盛り上がったり、とりあえず男子と付き合ってみたりもしたけど自分に嘘をついているのが苦痛で仕方ありませんでした。

将来について真剣に考えるようになった時、昔から興味のあったファッションやヘアメイク関係に進もうと決めました。高校生までサッカー漬けの毎日で服装はジャージか兄のお下がりばかりだったので、もうそろそろ自分が興味のある新しい分野にチャレンジするのも良いなと。考えた末に、選んだのが美容師の道。

こう思えたのは、サッカーをしていた時に髪型ひとつで内面まで変わってしまうほど自信がついた経験をしたから。「女子」というだけでやっぱり、相手チームの男子になめられたりフラットに接してくれないということは常に感じていて、本当に悔しい思いをしました。大事な試合の前にそんな男子たちを見返すつもりで、通っていた美容室のスタイリストさんにお願いをしてショートをさらにバッサリ切り、刈り上げも入れてもらったんです。そうしたら想像以上にしっくりきたというか、男子に負けず劣らないほどの無敵な力を手に入れた気持ちになって。周りから「お前本当に男みたいだな!」と言われたりもしたんですが、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。「これが自分」と強く思えるようになったんです。

またそのような経験とは別に、通っていた美容院以外に足を踏み入れた際、必要以上に女の子扱いされた経験をしたのもあるかもしれません。女の子だからといって要望とは違った、ふんわりとしたシルエットに仕上げられてしまったり、出される雑誌やヘアカタログはどれも女性向け。接客でも「彼氏いるの?」と聞かれることがほとんど。女性であるというだけでこんなにも決めつけられてしまうことがあるんだと正直、落ち込みました。それから私のようなLGBTs当事者が居心地の良いヘアサロンに携わり、自分らしさを引き出すことができる美容師になるべく、東京の美容専門学校へ入学しました。

学校にはガッツリ刈り上げが入った女の子もいれば、ばっちりメイクをした男の子もいる。見るもの全てが新鮮で刺激的、そういう環境も相まって自身のセクシュアリティについての知識や考え方も自然とついていきました。クラスメイトの女の子とも付き合ったりもしましたよ。一緒に登下校をして、青春でしたね(笑)。その頃から新宿二丁目にも足を運んで、新しいコミュニティもできた。その人たちのそばにいる時間が増えるにつれて「東京だったら私を必要としてくれる人がいるかも」と卒業後は、地元である新潟ではなく東京で就職することを決意しました。

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--セクシュアルマイノリティ美容師としてスタイリストデビュー。LGBTsフレンドリーな「Hairsalon BREEN Tokyo」を実現すべく、奮闘の日々

先生に勧められるがままに訪れたHairsalon BREEN Tokyoでのサロンワークがここで働きたいと思った最初のきっかけ。当時はLGBTs施策とかは全くといって良いほど取り組んでいる様子はありませんでしたが、目があった時に笑顔で挨拶をしてくれたスタッフの皆さんが輝いて見えたんです。運動部出身なので、働くならアクティブな環境が良いと思い入社することにしました。

2年間のアシスタントを経て、2018年にスタイリストデビュー。そのタイミングで代表と面談する機会があったのですが、初めて自分がLGBTs当事者であることをカミングアウトしました。「社会的にマイノリティという立場ではあるけど、この立場を強みに変えてサロンに携わっていきたい」と話すと、「良いじゃん、自分が好きなようにやってみなさい」と背中を押してくれたんです。それに伴いスタッフへの意識の共有やサロンのあり方を考えなければと思い、今までできるだけのことは取り組んできました。LGBTsへの理解が進んでいると言われる美容業界ですが、まだまだ知らないことも多いスタッフばかりでしたので、最初はテキストに基礎知識をまとめた上、共有する場を設けました。

それから形に見えるLGBTsフレンドリーな取り組みをスタート。例えば初めてご来店されるお客様に書いていただく新規アンケートの性別欄に関しては、無記入にしていただいたり、2つあるうちの1つのトイレをオールジェンダーにすることで自らを性別で判断する行為をしなくても良いようにしました。トイレに関してはすごく難しく、決してLGBTs当時者だけが訪れるヘアサロンではないのでもう一つは女性専用トイレとして使用していただいています。どちらにも偏らず、広い意味でのダイバーシティなヘアサロンになれば良いなと思っています。

接客という面で言えば、お客様を呼ぶ際は基本的には名字、敬称は「ちゃん」や「君」ではなく「さん」で呼んでいます。LGBTsの方の中には自身の名前と性が合っていないと感じ、名前で呼ばれることが苦痛に感じることも少なくないですし。私自身が経験した雑誌問題に関しては、スタッフとお客さんがお互いに気まずい思いをするのは嫌だったので紙媒体をやめて一つの席に対して一つタブレットを用意。電子書籍で好きな雑誌やヘアカタログを見れるようにしました。こうすることでスタッフがお客様を決めつけるといった行為もなくなるし、何より気疲れすることもありませんよね。

インスタグラムでのカミングアウトやこうしたLGBTsフレンドリーな空間づくりが徐々に口コミなどで広がったのか、今では多くのLGBTs当事者の方がご来店してくれます。ありがたいことにリピーターの方もたくさんご来店してくださって、お手紙やLGBTsに関する研究レポートなんかもいただくことも。その度に感謝の気持ちでいっぱいになりますね。他愛もないLGBTs当事者ならではの世間話や近況報告ができるのも、カミングアウトして自分らしく働いてるからこそだと日々実感しています。そして、何よりスタッフの皆さんが自分ごとのように積極的に取り組んでくれる姿には、いつも励まされています。

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ーー「男の子と結婚して欲しかったと否定的だった母も、今では私が出ている雑誌や記事を両親自ら友人や親戚に見せるほど(笑)」家族をも味方につけた無敵のKAHOさんが目指す、理想の美容師とは?

そうは言うものの、ここまでの道のりは決して平坦なものではありませんでした。スタイリストデビューするタイミングで代表に話した後、自分らしく働く姿を家族にも認めてもらいたくて、自身のセクシュアリティについてカミングアウトを決意。その時は私がセクシュアルマイノリティの美容師としてオープンに働くことを否定されたら、この職業を手放してもいいと言うぐらい強気で向き合いました。ただ、母親には「普通に男の子と結婚して欲しかった。自分がセクシュアルマイノリティと公言しなくとも美容師はできるでしょう?」と完全に理解をしてもらうことはできませんでした。確かに自身のセクシュアリティについてオープンにしなくても美容師として働くことはできる。でも、私はただお客様のヘアスタイルをカッコよくしたり、可愛くしたいわけじゃない。もちろん、髪型から内面を変えていきたいという気持ちもあるのですが、LGBTs当事者の1人としてオープンに働く私を見てもらうことで、自分らしく働くことの楽しさみたいなものを感じ取って欲しいと思っているんです。

そのような姿勢で1年間働き、SNSでも継続的に発信を続けていると業界紙や新聞、TVの取材など、ありがたいことにメディアで取り上げていただく機会も増えて、同時に取り上げていただいた記事やTV番組は両親に全て見てもらいました。すると、以前は否定的だった母も「あなたを必要としてくれる人がこんなにもたくさんいるんだから、やれる事はやり尽くさないとね」と私の働き方を応援してくれるようになりました。今では、母自ら私が雑誌や新聞などに取り上げられるとその記事を両親自ら友達や親戚に見せるほど、認めてくれています。

最近では、LGBTs当事者の美容学生さんが数あるサロンの中から、私たちのお店を選んで体験実習に来て下さることも増えました。面談の時に自身のセクシュアリティについてオープンな学生さんが多く、時折「マイノリティとは?」と思うほど(笑)。若いLGBTs当事者はもちろんなのですが、美容学生さんにとっても自分らしく働ける場所があること、夢や将来像を描く上でお手伝いができればと思っているのでとても嬉しい出来事の一つです。

今の目標は学生だった私が髪型で自信がついたように、自分らしさを表現する一つの手段としてお客様の個性が一番光るヘアスタイルを提案し続けて、見た目だけじゃなく内側からポジティブになれるよう導いていくこと。

そして、ゆくゆくはBREEN Tokyoや首都圏の美容室だけでなく、地方にお住まいのLGBTs当事者の方々が私のような窮屈な思いをしないよう、地方の美容室においてもLGBTsフレンドリーな空間づくりが当たり前になっていけばいいなと心から願っています。

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プロフィル
KAHO/ Hairsalon BREEN Tokyoスタイリスト
2016年4月、原宿のヘアサロン「Hairsalon BREEN Tokyo」にアシスタントスタッフとして入社。 2018年にスタイリストデビュー、同時に自身がレズビアンであることをカミングアウト。以降「セクマイ美容師」、そしてHairsalon BREEN Tokyo店舗リーダーの一人として様々なLGBTs施策に取り組み、当事者に寄り添った空間づくりに努めている。

Hairsalon BREEN Tokyo
Twitter@kaho_anazawa
Instagram@kaho_anazawa
YouTube「7プラKAHOTV」

記事作成/芳賀たかし(newTOKYO)
撮影/新井雄大 Twitter@you591105

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