打球音、ミットの響き…無観客試合だから届けたい中継からの“球音”

野球解説者の野口寿浩氏【写真:編集部】

選手、コーチで無観客試合を経験した野口寿浩氏が今度は解説者で

 NPBは新型コロナウィルスの感染拡大防止のため、オープン戦を無観客で実施している。ヤクルト、日本ハム、阪神、横浜の4球団で捕手としてプレーした野球解説者の野口寿浩氏は選手とコーチの両方で経験しただけでなく、3月10日のDeNA-阪神戦(横浜)ではDAZNの中継で解説としても“無観客試合”に立ち会うことになった。それぞれの観点からテレビやインターネット中継でどのような見方、楽しみ方があるのか、話を聞いた。

 巨人の長嶋茂雄監督(現・終身名誉監督)は2000年6月14日、東京ドームで行われた横浜(現DeNA)戦を「球音を楽しむ日」と提唱し、鳴り物応援の自粛をファンに求めた。打者がボールをとらえる時の音、ベンチからの声など、いつも聞こえない“球音”がスタジアムに響き渡り、野球ファンはその日を楽しんだ。無観客試合と状況は違うが、通常の試合とは「音」の聞こえ方が一番の違いと言える。

「バットにボールが当たる時の音、捕手のミットにボールが収まる時の音、気持ちが入っている人は、叫んだりするかもしれない。ホームランの時、バットから出る音だけでなく、外野スタンドの席にボールが着弾した時の音もすごい。僕らはフリー打撃で聞くことができるのですが、放送を通じてなかなか聞くことができない音が聞こえてくるのは、すごくいいことだと思います」

 他にも、ベンチから出ている声も中継から伝わってくる。これも非常に興味深い。ヤクルトのコーチ時代はベンチから大声で指示を出していた。

「指示の内容は状況によりますが、ベンチからの声はバッターにも聞こえてしまうので、配球などの話はもちろんしません。例えば、相手の攻撃で盗塁してきそうな選手が一塁に出た時、『気を付けろ』とか『(次の塁に)行きそうだぞ!』というようなことをを伝えたりとかです。でも、チームによっては野次を飛ばしているところもありますよ。あとは『この人、声出していたのか!?』みたいに驚くこともあります」

 野口氏は2008年の阪神時代、本拠地・甲子園球場の改修中に行われたオープン戦で、2018年のヤクルトのコーチ時代は巨人との合同練習(試合)という名目で“無観客”の試合を経験。プレーヤーとして、感じるメリットとはどのような点だろうか。

「捕手の時もコーチの時も、指示の声が通りやすかったという印象はあります。通常の試合では、ほぼ聞こえていなかったんだなと感じました。少し、声をいつもより張っただけで、全部通ったので驚きました」

キャッチャーミットに球が収まる音は心地よいが…

 前述したが、キャッチャーミットにボールが収まる心地よい音も、視聴者が楽しめるポイントでもある。捕手経験者の野口氏はその音についても、ファンに知っておいてほしいことがあるという。

「捕手をやっていた立場から言わせていただくと、正直なところ、試合に入れば音ばかりに気を使えません。その状況の中で、いい音を鳴らすことができる捕手はそういう技術が高い選手になるとは思います。ただ、捕手の技術というのはそればかりではありません。例えば、フレーミングの話が最近よく出てきますが、わざとミットの芯を外して、捕球することもあります。音が出ていないから、下手な捕手ではないことをちょっと言っておきたいなと思います」

 選手、コーチに続いて、今度は解説者として無観客試合を経験することになる。「これでコンプリートです」と冗談交じりに語る野口氏だが、解説席に座る気持ちは普段とさほど変わらないという。

「目の前で起こったことを話をするのが仕事なので。ただ、中継を見る方は、断然、増えるのかなと思います。最近の無観客試合の中継を私も見ていますが、選手たちは少し、普段と様子が違うので集中がしにくいのかなと感じます」

 野口氏自身は「どちらかと言うと入り込むタイプだった」ため、一度、集中してしまえば、プレーに専念できたという。だが、選手によっては打席が淡白になっている場面が見受けられるなど、この事態に戸惑いを見せている選手もいるはずと指摘する。

 ただ、選手や観客、球場スタッフらの感染拡大を防ぐためには仕方のない対策だ。来場予定だったファンに一人でも中継を楽しんでもらうために、いつもとは少し違う心構えで解説を届ける。

「選手は当たり前のように感じていた声援に感謝をしながらプレーすると思います。なので、ひたむきな姿も見てもらえたらなと思います。その中で開幕に向けたアピールもしていくので、解説する側の人間としては、前向きなことをたくさん、喋れるような試合になることを期待したいですね」

 一日でも早い事態の終息を願いながら、中継で見るオープン戦。“球音”はまた違った野球の楽しみ方を教えてくれるかもしれない。(Full-Count編集部)

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