2020シーズンの開幕を迎えた明治安田生命Jリーグ。新型コロナウイルスの影響により現在中断されているが、今年もJ1の18チームが日本サッカーの頂点を目指して競い合う。
セレッソ大阪は昨シーズン5位。新たに就任したミゲル・アンヘル・ロティーナ監督のもと中盤戦から徐々に順位を上げ、最終的には4位川崎フロンターレと勝点1差にまで迫った。
その終盤戦、レギュラーとして好調なチームを支えた一人が柿谷曜一朗。セレッソのエースナンバー8番を背負う男の復活に胸を躍らせたファンは少なくないはずだ。
そこでQolyは2020シーズンの開幕に合わせ、今年1月に30歳となった柿谷を直撃!いろいろ聞いたぞ。
(取材日:2020年2月14日)
苦しい時を経ての“変化”
――2月12日、サンガスタジアム by KYOCERAのこけら落としで京都サンガF.C.戦と対戦しました。新しいスタジアムはどうでしたか?
うらやましかったですね。同じ関西のチームで、ガンバ大阪のパナソニックスタジアム吹田に続き、これだけ専用の良いスタジアムができたんだなぁと。J1に上がってくるまで貸してほしいくらいです(笑)。
サッカー専用スタジアムというのは僕たちのテンションも上がりますし、見に来てくれるお客さんも楽しいと思います。
――セレッソ大阪も2021年には長居球技場が「桜スタジアム」となって帰ってきます。
当初狙っていた規模になるかはまだ決まっていないですが、専用スタジアムはやっぱりいいですね。楽しみです。
――2019年は新しく就任したミゲル・アンヘル・ロティーナ監督のもとでのシーズンでした。どんな一年でしたか?
まぁ、苦しいというか、いろんな移籍の話があったり、まったく試合に出られない時期があったり…。
昨シーズンだけのことではなく、ここ2、3年は自分の中で不甲斐ない、サッカーをしていなかったというか他のところに“やじるし”が向きすぎていた印象があります。伝えたいことややりたいことを言えないまま、時間だけが過ぎてしまった、という感じですかね。
ただ、昨年の夏以降は、「もう一回自分はこのクラブで絶対的な存在になりたい」と思うようになって。プレーヤーとしてももちろんです。もう一度そう考え直したところからある程度落ち着いてプレーできるようになりました。
――誰にどんなことを伝えたかったんですか?
自分がなぜこういう態度を取ったのかとか。あるじゃないですか、言えないこと。引退してからは山ほど言いますけど(笑)。
それを我慢するのが大人ならば、僕は我慢できない、大人にならなくていいと思っています。
誰かのために犠牲になったりとかは当たり前の話ですが、誰かのためにサッカーをやるのは違うというのが自分の中にあって。もちろん「家族のため」は良いと思うんですけど。
クラブとしてというか、人間的にもいろいろな付き合いがあるなか、チームというのは決して一人ではないですが、でも最後は個人。一人のスポーツ選手ですから。
そこの難しさは一番、この2、3年で感じたかなと思いますね。
――その辺りの考え方が、昨年夏ごろから変わった?
そういうことって、もうサッカーはあまり関係ないじゃないですか。
でも、僕の中ではそれがサッカーにすごく関係があったので、もう考えるのはやめよう、サッカーだけをやろう、と。それによって気持ちやプレーに余裕が出たというのはあります。
――昨シーズンは9月以降先発に定着し、レギュラーとして最後までプレーしました。ロティーナ監督のサッカーに対する慣れもあったんでしょうか?
出場は当時怪我人が重なっていたこともありました。
サッカーに関しては慣れたというよりも、「元々理解していたけどやらなかった」というのが正解だと思います。チームで協力してプレーすることはもちろん大事ですが、一瞬一瞬で自分の判断のほうが正しいと感じたら、どうしてもそちらを取ってしまう。たとえそれがチームのルールではなくても。
そのくせがどうしても直らなかったですし、直そうとも思っていませんでした。正直な話、今でもそうです。
ただ、試合に出場しなければ何も口にすることができません。だから、まずは試合に出てみようと。そこからまた感じることもあるだろう、という感じでしたね。
――ロティーナ監督になって、チームとして変わった部分はどこだと感じていますか?
より戦術的になりましたね。監督によって本当にサッカーって変わるじゃないですか。その中でやはりその監督に合った選手も大事ですし、その監督の理想に近付ける選手も大事です。
誰がどこまで戦術的な部分を理解しているか僕には分かりませんが、1年間やった選手と新しく入ってきた選手ではやはりそこに“差”があります。
個人的にロティーナ監督は、熟成されていることを好む監督だと思っています。「このメンバーでやれば勝つ」というベースを自分の中でしっかり持っているタイプだと思うので、そこに割って入ってくることは簡単ではないとキャンプでも感じました。
――イバンコーチの存在もやはり大きいですか?
2人がどこまで信頼し合っているのか、そばにいる僕らもよくは分かりません(笑)。必ずしも監督が言っていることすべてをイバンが言っているわけではないというか。
だから僕らもよく分かってないのですが、とりあえず攻撃はイバン、守備はロティーナ監督という感じです。
――昨年は主に左サイドでの出場でしたが、トップに入ることもありました。それぞれどういったところに注意してプレーしていましたか?
ロティーナ監督のサッカーはサイドハーフがサイドハーフではないんです。4-4-2だとしたら、中盤の4人が全員セントラルMFみたいな感じですね。だから頭を使います。
それと、相手の嫌なところを消しつつ、自分たちの良いところを出す。つまり相手の嫌なところを消すほうが先になんです。だから押し込まれる時間があって、守備的なチームと思われがちなんですが、ロティーナ監督的には「攻撃をする前の組織」という感じですね。
トップに入る時はあまり決まり事もなく、自由にやっていました。
――そうなると、開始から相手をよく観察してプレーすることが大事?
ミーティングからそうですね。「ここはこうだからここをこうやって守る」といった感じで。試合中も修正の指示がすぐに飛んできます。
――柿谷選手自身は左サイドとトップ、どちらがプレーしやすいですか?
もちろん、前です。点を取りたいので。
※昨季はリーグ戦3ゴールに終わった柿谷。ただ、ホーム最終戦となった清水エスパルス戦の決勝弾を見ても(動画2:08~)、得点感覚はやはり特別なものがある。
――ゴールを多く決めていた時はトップでしたし、その後は一つ後ろでプレーすることが多いです。その中で、技術を発揮する判断の基準なども変わってきましたか?
やっぱり監督によって変わりますね。そしてそこで“優先順位”が決まってしまう。
それは本当にこの2、3年、一番悩んでいるところです。自分の優先順位が低いものが上に来た時に、素直に受け入れられないというか。今でももちろんそうですし。
監督によってうまいこと変えられる選手が良いのかどうか、僕は正直分からないです。変えられるのが「正解」ですよ、絶対。たとえば会社で上司に言われて、自分の考えを変える。それが「正解」です。
でも、自分のやり方を貫いて、その人たちも黙らせてというのも「正解」かもしれないですから。
――今年も新しい選手が入ってきました。昨年から一緒にプレーしているとは思うのですが、西川潤選手に対する印象はどうですか?
どうですかね。まぁ、現状は「まだまだ」という感じじゃないですか。
今は流行っているじゃないですか。若い選手たちがレアル・マドリーやバルセロナへ行くとか、オランダへ行くとか。だから基本的には彼がどうしたいのかによって自分で決めたらいいと思います。
僕が17、18歳の頃もそういう話は周りの選手も含めあったと思いますが、今のように「すぐ行く」という時代ではなかったですからね。今は、海外へ行けば日本代表に入れるみたいなところもあるじゃないですか。
いい時代だなと思いますし、代表に入りたいのであれば海外へ行けばいいと思います。もちろんそれで失敗している選手もいると思うんですけど。
彼がこの先どこを目指すかですよね。僕らの若い頃とは違って、ヨーロッパの組織もクラブもすごく大きくなっています。ただ、Jリーグのレベルも高くなっているので、安易にJリーグで活躍できると考えていたら難しいと思います。
まだまだこれからですし、セレッソが大事に育ててあげないといけないんじゃないかなと。高校生とプロではやはり全然違いますから。彼の中でも今その葛藤があるかなと思います。
――ルヴァンカップも含め、ホーム2連戦で開幕することについては?
いいですね。ホームでの楽しいですし、移動もないから楽なので、めっちゃ楽しみです。
※2月16日のルヴァンカップ松本山雅FC戦は4-1と快勝。柿谷は先発して72分までプレーした。開幕戦となった22日の大分トリニータ戦も63分から出場し1-0勝利に貢献。
――最後に、柿谷選手が今シーズン、何を成し遂げたいか教えてください。
Jリーグ優勝です。すべての集中力をリーグ戦に注ぎ込みたいと思っています。できなかったらできなかったですが、とにかく真剣に狙うところから始めてみたいな、と。
個人の目標は、試合に出ること。怪我なく全試合に出てシーズンを終えること。その上で、チームを勝たせるゴールを多く決めること、ですね。
柿谷 曜一朗
1990年1月3日生まれ(30歳)
セレッソ大阪所属
日本代表18試合出場5得点