【インタビュー】防ぐより「どう加害を生まないか」 NPO法人「しあわせなみだ」中野理事長

「どう身を守るのかよりも、どう犯罪を生まないかについて考えていく必要がある」と話す中野理事長=東京都内

 性暴力被害撲滅に取り組むNPO法人「しあわせなみだ」(東京)の中野宏美理事長に、障害者への性犯罪の実態や課題を聞いた。

 -障害者が狙われる理由は。
 「障害の種類により被害リスクは異なる。知的障害者は恐怖や不信を察知することが苦手。聴覚障害は音で危険を察知するのが困難で、足が不自由な人は逃げるのに時間がかかる。視覚障害は、声やにおいなどで相手を判断する人も少なくないが、『目で確認できていない』ことにより、犯人特定の手段として理解されにくい。こうした背景を加害者は知っている」

 -被害立証の難しさは。
 「今回、長崎で起こった事件は物証が残っていたことが大きい。障害者だけの証言では、警察も事件化が難しいと判断することが多い。物的証拠と加害者が犯行を認めていることの2点がないと厳しい」

 -障害者への性犯罪は潜在化する傾向が強い。
 「被害者本人が訴えたいのかどうかよりも、周囲が『本人のためを思ってそっとしておこう』と判断してしまう特徴がある。健常者は自ら声を上げられるが、障害者は支援者がいなければ自分で声を上げることが困難であり、相談先が少ない現状がある」

 -周囲の人はどうすれば被害に気付けるのか。
 「これまでになかった言動、例えば急に大声を上げて泣きわめくなどの行為が現れたとき、周囲が被害の可能性を想像できることが必要」

 -被害傾向はあるか。
 「『施設職員と利用者』『教員と生徒』などの上下関係に基づく被害が多いことが推測される。ただ、包括的な統計がなく、全体的な傾向は分からない。被害傾向や統計がない状況こそが、障害者への性犯罪を取り巻く実態の厳しさを物語っていると思う」

 -被害を防ぐにはどうすればいいのか。
 「障害者は健常者以上に性教育から隔離されている現状がある。教育現場で障害者にも正しい知識を教えることが必要。一方で『被害をどう防ぐのか』よりも、『どう加害を生まないか』の問い掛けに全体の流れを変えていかないといけない。環境整備で性犯罪を抑止することは可能」

 -今後の課題は。
 「現在、国内では虐待を受けた子どもに児童相談所と警察、検察が連携して被害内容を確認する協同面接が実施されている。これは心理的負担の軽減や、証言の信用性確保を目的としており、海外では障害者や認知症の高齢者など弱い立場の被害者にも適用されている。日本でも取り入れることを検討すべきだ。また障害者であることに乗じた性犯罪に対する処罰規定を、明確に法律で定義することが必要」


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