異常な男女役割「刷り込み」が日本をだめにする 「女性、何でもできると信じて」 国連・中満事務次長インタビュー 

 国連日本人職員の最高位である事務次長の中満泉・軍縮担当上級代表(56)は、20代で国連入りし、スウェーデン人外交官と結婚した。海外暮らしが長いが、日本生まれの日本育ちで帰国子女でもない「普通の女性」という中満氏に、男女間格差が根強く残る日本の現状をどうみているのか語ってもらった。(聞き手、共同通信=山口弦二)

インタビューに応じる国連の中満泉事務次長=2月、米ニューヨークの国連本部(共同)

 ▽スウェーデンの議会はどうして男女同数か

 ―国連や北欧など欧米先進国では男女同権が進んでいる。日本とは何が違うのか。

 中満 いろいろなことが違う。これだけを変えれば男女同権が進むかというと、残念ながらそうではなくて、いろいろなことを同時進行で変えていかないといけない。日本は、法律上は平等があって育児休業があってと制度は整っているが、国会の女性議員の比率を上げるとか、そういうところはまだ全然整っていない。

 例えばスウェーデンの議会がどうして男女同数になったか。向こうの選挙制度は比例代表制で、政党の候補者リストの載せ方を上から男女交互に入れている。そうしないといけないと法律上決まっているわけでなく、女性の有権者に投票してもらいたいので、どの政党もそうしている。保守的な党も含めて。当然のことながら当選者も男女同数になる。そのように、意識的に「こうしないといけない」という制度になっていて、しかもそうでないと女性の有権者が投票しないので、しっかり社会全体の文化として定着している。

 ▽目標だけ、制度設計が中途半端な日本

各国の女性駐日大使を招いた昼食会で「女性の力を最大限発揮できる社会の構築が、安倍政権の大きな柱だ」と述べたあとの記念撮影=14年9月

 日本政府は、今年までに指導的地位の女性比率を30%程度に引き上げるとしているが、罰則がなかったり、努力目標だけで義務ではなかったりする。こういうことは制度設計をしていく上で数値目標をきちっと立て、しかも期限を切って、何年までにここまで進めるというプランを立てないといけない。さらに、プランを立てたら進捗状況をきちっとモニタリングし、全てのシステムを総動員して説明責任を付けて実施していくようにしなければいけない。そうすれば、否応なく変わっていく。そういうところが日本はまだ足りていない。安倍晋三首相が「女性が輝く」という目標を立てたことで意識が高まり、注目が集まったことは非常に良かったと評価しているが、(それだけでは)足りないと思う。

 きちっと数値目標を立てて、期限を切って、説明責任を付けて、それが達成されない場合には何かしらの罰則があるようにしないと変わらない。日本という国はとにかく保守勢力というか抵抗勢力がものすごく強い国なので、その抵抗勢力を説得することができずに中途半端な制度設計になっているのかなと思う。

 国連の場合、2028年までに全てのレベルで職員の男女同率を達成するというプランがある。私たちの軍縮局にもそれを実施するための期限を切ったプランがあり、常時監視されている。年に2回、チーフ・エグゼクティブ・ボードという国連システム全体の幹部会議があり、そこで必ずジェンダー同率のモニターの成績表が出る。成果が出ていないところは成績が悪いということで、皆の前で発表される。軍縮や安全保障の分野は特に女性がこれまで少なかった分野なので、軍縮局はワースト5に入っている。ただし、改善しているところも出してくれて、そこでは軍縮局は国連のシステムのトップ3に入っている。

NPTに関する会合で発言する国連の中満泉・軍縮担当上級代表=2月、米ニューヨークの国連本部(共同)

 これまでの状況は悪いけれども、先は長いが一生懸命頑張ってというように、アメとムチの両方でインセンティブを付けながら、常時監視されている。採用のところにもこれは非常に厳しく入っていて、女性の候補者が入っていないと人事部から突き返される。ちゃんと女性に均等な機会を与えていないということで。私もこれらを実施していないと自分のコントラクト(雇用契約)が危うくなるということになっている。私と事務総長の間の契約にも必ずジェンダー目標が入っていて、ちゃんと成績が上がっていないと、評価に関わってくる。全ての制度を総動員して変えていかないと、こういうことはなかなか変わらない。そのやり方が日本はまだ全然緩いんだと思う。

 ▽損しているのは日本

 ―日本の省庁でもそういった制度を導入することは可能だと。

 中満 可能だと思うし、それをしなければいけないと思う。そうしないと変わらないと思う。むしろこれはよく言われる話だが、公務員試験を成績だけで取ると女性ばかりになってしまうからダメだと。私は女性ばかりになって何が悪いんですかって言い返すんだが、男性が実は下駄を履かせてもらっている。

 大学医学部の入試(の男女差別問題)なんてまさにそうだ。そういう状況にあることで一番損をしているのは日本。日本の会社、省庁、国全体が本来活用するべき人材をきちっと活用し切れていない。ある企業調査で、トップの幹部に女性が入っている会社と入っていない会社の業績表を詳しく調べたところ、入っていない会社よりも入っている会社の方が格段に収益が上だったというデータもある。女性を活用することによってプラスがあるというデータはほかにも出ている。それに目をつぶっているのが日本だ。

 ▽小泉環境相の育休取得は良いこと

 ―今おっしゃったのが制度面。

環境省内で開かれた会合で、自身の「育児休業」取得を表明する小泉環境相=1月

 中満 そう。2点目は文化。育休もそうだが、一応制度は整っているが、なかなか男性が取りにくいということがある。小泉進次郎環境相がいろいろ叩かれたりもしているが、上に立つ人がそういうことをするというのは、私は非常に良いことだと思う。だからサポートのツイートをした。

 1990年代の終わりだから、20年以上前、スウェーデンの国連大使が育休だけでなく時短勤務をやった。午後4時で仕事を終えて、自分が保育園に子どもを迎えていくと。大使の秘書は誇らしげに「うちの大使は4時以降の会合は受け付けません」と言っていた。「保育園に子どもを迎えに行かないといけないから」だと。そういう意味で、組織文化を変えていく上でリーダーシップというか、上に立つ人の行動というのはすごく重要だと思う。

 女性のためになるというだけではなく、こういうことを進めていくことによって男性にもプラス、メリットがある。子どもはあっという間に育ってしまって、楽しい時代は瞬く間に過ぎてしまう。そういうことも男性に理解してもらいたい。これは皆が幸せになるために組織文化を変えていくことであり、制度改革であり、もうちょっと人間らしい生活を皆ができるようにすることでもあり、かつ女性のエンパワーメントや男女平等を達成することでもある。それが理解されなければいけない。

 ▽根深い男女役割の刷り込み

 3点目は、日本の社会にはものすごく刷り込みがある。気がついていない刷り込みが、生活のありとあらゆるところにあって、男性はこうであり、女性はこうでありと、ジェンダーロール(男女の役割分担)に関して常時刷り込まれている。

 日本のニュース討論番組を見ていると、専門家で難しいことを言っている人はほとんど男性。で、メインのキャスターがいて、お飾りのようにサブのキャスターで女性が付いている。それが毎日毎日あるから、難しい専門的なことを話すのは男性で、ちょっとお飾り的に女性がいると刷り込まれる。映画とかテレビドラマを見ていても、会社の執行理事会とか幹部会とかで座って会議をしているのは全てほとんど男性で、制服を着た女の人が書類を持って入ってきたりお茶を持って入ってきたり。そういうシーンがもういつも繰り返されていて、子どもたちは小さい頃からそういうのを見て育つので、社会ってこういうものなんだ、それが自然なんだと刷り込まれている。

 でも実はそれはものすごく異常なこと。異常だということにすら気がついていないほど日常的に刷り込まれている。そういうところから変えていかないといけないんだろうなと思う。常に疑問を持って、これでいいのか、これはおかしいんじゃないのかと思ったら、家庭の場でもそれを議論していき、疑問の声を上げていくということも始めないといけない。制度改革だけではダメ、保育所を作るだけではダメ、いろいろなことを同時進行で変えていかないと、根が深いのでなかなか変わらないと思う。

 ―一方で、自分は、男性ばかりの仕事の世界に行くものじゃないと思い込んでいる女性もいる。

 中満 そう。それはある。女の子も女の子だからできないということは何一つないということを信じないといけない。実際、女の子だからできないことなど一つもないし、女性の側もそのように意識改革をしていく必要があると思う。サークルの話もあった。東大女子は入れないサークルとか。私は早稲田だったが、早稲田でも早稲田女子が入れないサークルが一杯あった。今もあるのかどうか分からないが、少なくとも私の時代はあった。別に入れなければ、こちらから願い下げでそんなところに入らなければ良い。そういういろいろなところで問題がある社会なので、変えていくには、これだけ一つやれば変わるということではない、残念ながら。

男女格差について語る中満泉国連事務次長=2月、国連本部(共同)

 ▽社会全体で創造的な視点組み入れを

 ―現在の労働環境や教育環境で、日本と欧米先進国では何が違うか。

 中満 大学医学部の入試差別というのは本当にびっくりしたが、少なくとも教育の機会ということでは基本的には平等なんだろうと思う。社会に出てからの、社会の中での男女の役割の棲み分けというのがものすごくきっちりできていて、それをなかなか変えていくことができないのかなと思う。どうしてなのか。保守的な社会なのか。家父長制というか。

 ―企業側としては、女性を採用すると結婚して出産して寿退社するのではないかとか、産休や育休を取るんじゃないかとかというような発想が根強い。現実に寿退社してしまう女性もそこそこいる。

 中満 そう。簡単なことではない。日本社会全体で、ジェンダーの問題だけではなくて、若い人ももっと活用していく、創造的で新しい視点を組み入れていかないと、これだけのグローバル化の世界の中で競争できないことは確かだ。ジェンダーの部分だけでなく、社会制度の大きな見直しが必要なのかなと思う。

 スウェーデンで言うと、育休も有給だが、その部分は社会保障費から出るので、税金からまかなわれる。そういう風に社会の制度をスウェーデンという国は結構長い時間をかけて全て作り替えてきた。日本も多分分岐点にあるんじゃないかなと思う。いろいろなことを見直さないといけないときにきているのかなというのが一つ。二つ目は女性の側の責任というのもあって、産休や育休を取っても自分を雇用していることがプラスだよと思われるだけの貢献ができる実力を持ってないといけない。

 ▽女性の側の意識改革も必要

 全体的に日本はもっと良い意味で競争社会になって良いと思う。女性だから手厚く保護されるだけではない。ある調査でも、消費者の半分は女性なので、視点をしっかり理解できる女性が企業にいることによってもたらされる収益や、女性が労働市場に入っていくことによって本来であれば生み出せるだけの富というのは随分あると数値で出ている。そういうことを全て考えて、保護されるべきと言っているのではなくて、それをしてもなおかつ自分たちは貢献できるというだけのものを持たなければいけないのは確かだ。

国連本部=ニューヨーク、2019年

 国連でも、できる人でなければ取らない。男性でも女性でもできる人とできない人がいる。両方同じであれば女性をなるべく取って比率を上げていきましょうということであって、軍縮局だけではないが、子育て期間の女性は成果を見せなきゃいけないという良い意味でのプレッシャーがあるのか、特に成績が良いという印象だ。テレワークなどももちろん採用しているが、ともかく成果を見せるという、女性の側の意気込みや意識改革というのも多分必要であり、それを正当に評価することが必要なのかなと思う。

 ▽身の回りのこと、シェアするのが当然

 ―中満さんはスウェーデン人と結婚し、外国暮らしが長い。仕事や育児、家事の役割分担に関して日本との違いは。

 中満 夫は何でも基本的にやってくれる。シェアするのが当然。両方働いているし、両方忙しいし。料理を作るのは私の方が格段に腕が上なので私がやるが、片付けとか掃除とかは彼の方が得意。家事の中で私が唯一嫌なのがアイロンかけなのだが、彼は自分のシャツとか自分でアイロンかけしている。夫はスウェーデン人ということもあり、基本的に私よりも彼の方が休暇を取りやすい。ただ、気がついて自分で積極的にやるかと言えば、気がつかないことも多いが、大体何でもできる。それは当然のことだと思っているし、家事は義務というより、自分たちが生活していく上での身の回りのことであって、それをやるのは当たり前のこと。子育て時代も、子どもたちが赤ちゃんの時は4カ月ぐらい育休も取った。

 彼とはニューヨークで知り合って、彼は本省に戻らないといけなかったのでスウェーデンに引っ越して、私はスウェーデンにある国際機関に国連から出向して、政府間組織「International IDEA」(民主主義・選挙支援国際研究所)に5年間務めていた。1人目はそこで産んだ。私の産休4カ月が終わった後、私は復職して、彼が4カ月育休を取って、毎日、午前と午後に1回ずつ、授乳するために乳母車を押して私のオフィスに連れてきていた。それもごく普通。別に特別でなく、みんなやっている。子どもの身の回りのことも、人間はそれをやらないと暮らしていけない。日本はそういう風に意識を改革することが必要なんだろうと思う。

 ▽信じることと仲間を作ること

―日本の特に若い女性にメッセージを。

 中満 まず一つは、何でもできると言うことをともかく信じてほしい。信念を持って信じて、あとは努力すること。努力しないで、近道というのは何事にもないので、努力していくことが必要。ただ努力するときに心が折れちゃったりしそうなときに重要なのは、頑張れば何かできると信じることと仲間と味方を作ること。日本の状況が嫌だったら、外に出てチャレンジすればいい。そうやって損をするのは日本だが、仕方ない。あとは、不必要に攻撃的になる必要はない。これは女性の闘いというよりは、男性も女性もみんながもっと人間らしい幸せな生活ができるようにすることなので。

 ―女性が信じて努力しても、会社が受け入れるかどうかは別問題だが。

 中満 そうだ。ただ、ツイッターなどを見ていて近ごろなんとなく感じているのは、あまりにもそういう状況だから、今の若い人はどんどん会社を辞めて起業したりしているような気がする。それはそれでいいと思う。大きな組織に属するとか官僚機構に行くとかいうことが女性の選択肢の全てではなくて、もっと自分の才能を自由に使って、やりたいことをやっちゃえという若い女性が増えてきているのかなという印象がある。それは彼女たちだけに良いことではなくて、多分日本の社会全体にも良いことなのかなと思う。新しい創造的なアイデアやアプローチを自由に試せる。そういうことが多分日本の社会で一番必要なのかなと思う。大きな組織や官僚機構が思い切った制度改革をできなければ、優秀な人材を採れずに、ますます硬直化して非効率になっていくだろう。

インタビューに答える中満氏

 ▽私がツイートする理由

 メディアの責任も大きい。メディアにも多分そろそろ競争原理が働いてくる。大きい組織のものを読むよりも、フリーランスで書いている人の記事を読んでいる方が全然面白い。良い意味での競争原理が働かないと、日本という国全体が沈没してしまうようなところにきているのかなと思う。

―最近の日本ニュースで、日本のジェンダー問題を象徴するなと思ったものはあるか。

中満 日本のジェンダー問題はいつも毎日ほぼ感じている。最近、新型コロナウイルスの専門家会議が立ち上がったということでリストを見たら、12人中女性が2人だった。これから新型ウイルスにかかっていく人の半分は女性。生物的なところなので、女性と男性の間の色んな違いがある。どうしてそういう配慮がないんだろう。外から見ていると、そういうことが毎日のようにあって、でも多分誰も気づいていないし、気にしていないし、気にしないから、これからも気がつかないのかなと思う。一日本人女性として、変わってほしいと思うので、日本語でツイートするときは軍縮以外のことも発信するようにしている。子供のお弁当のこととか個人的なこともツイッターに載せるようになったのは1年半ぐらい前からだが、普通の女性なんだよと、いつも軍縮とか難しいことを考えているわけではなくて、普通の人間で、普通に家庭を持って、普通に家庭のこともやりながら仕事ができるんですよ、これが普通なんですよということをメッセージとして日本の人に出したくて、個人的なこともツイートするようになった。これは日本の女性に分かってほしい。頑張ってほしい。

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