ワクワク小旅行 社寺を訪ねて湯前町 悠久の時、心洗われて

 人吉球磨地方は貴重な社寺建築の宝庫だ。国宝の青井阿蘇神社(人吉市)を筆頭に多くの国指定重要文化財がある。今回は宮崎と県境を接する奥球磨の湯前町を訪ねて、歴史ある社寺を巡った。(津留三郎)

 旅は想定外の事態から始まった。大雪の予報だったが、そうした様子はなく気にもせずに桜町バスターミナルへ。宮崎行きの高速バスのチケットを買おうとすると、まさかの運休。人吉で降りるので鹿児島行きでもよかったのだが、こちらも運休。雪で高速道路が通れないためという。

山々に囲まれた湯前町

 いきなりつまずいたが、途方に暮れたということはなく、スマホで時刻表を調べてJR熊本駅へ。特急「いさぶろう1号」に乗れば、その後のスケジュールは予定通りだ。人吉駅で降り、くま川鉄道に乗り換える。同じ構内にあるが、こちらは人吉温泉駅。終点の湯前駅まで、気持ちいいほどまっすぐ延びる線路を進む。快晴で周囲の山々の雪景色がまぶしい。

屋根に雪をかぶった八勝寺阿弥陀堂

 何度か食べたことがある湯前駅前のレストランに入り、人気メニューのチャンポンとカツ丼のセットで腹ごしらえ。最初の目的地の八勝寺[はっしょうじ]までは歩けば1時間以上かかりそうだったので、その後の歩きも考えてタクシーにした。

 森閑とした山里に八勝寺阿弥陀堂はあった。15世紀後半に建てられたとされ、国の重要文化財に指定されている。いったん瓦ぶきになったが、数年前の修復工事でかやぶきに戻った。屋根に残った雪が、静けさをいっそう際立たせていた。

相良三十三観音巡り第27番札所の宝陀寺観音

 地域に根差した信仰心がずっと保たれ、各所にお堂などが点在している人吉球磨地方。それを象徴するのが春と秋に行われる相良三十三観音の一斉開帳だ。参拝者を地元の人が手作りの料理やお茶でもてなす。その第27番札所宝陀寺[ほうだじ]観音に行くと、ウメだろうか、お堂の前にかれんな花が咲いていた。

木造建築としては県内最古の城泉寺

 お寺や神社を訪ねると心が洗われる思いがするが、次の城泉寺[じょうせんじ]阿弥陀堂では特にそう感じる。これまでも何度か訪れていて、周囲を包み込む静寂さは、いつも悠久の時の流れを感じさせる。鎌倉時代に建立された県内最古の木造建築で国指定重要文化財だ。

 この3カ所は近接しているが、次の目的地潮[うしお]神社と塞[さい]神社までは山裾の道を歩いて約40分。周囲を山に囲まれた風景が、どことなく自分の生まれ故郷と似ていて、懐かしさを感じながら進む。潮神社は「おっぱい神社」の名で知られる女の神様。男の神様の塞神社と合わせて参拝すると、夫婦円満や子孫繁栄に御利益があるといわれている。

 さて、冷えた体を温めようと、お待ちかねの「ゆのまえ温泉湯楽里[ゆらり]」へ。しかし、待っていたのは、この日2度目の想定外の事態。改修工事中で休館だった。バスの運休よりこちらのショックが大きかった。湯上がりで寒風に吹かれていると風邪でも引きかねない、温泉に入らないでよかったと負け惜しみを言いながら、駅まで約40分の道のりを足取り重くたどった。

熊本日日新聞 2020年3月6日掲載

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