マッコウクジラ 謎が多いオスの生態

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九州西部でマッコウクジラが確認された場所

 小林さんが所属している長崎大学水産学部海棲哺乳類研究室では、マッコウクジラのオスについて研究しています。暖かい海域でメスと一緒に家族をつくっても、そこから離れていくため、その行動や生態について詳しいことが分かっていないからです。中でも小林さんは、どの個体同士が一緒に行動しているのかを基に、オスの社会性などについて調べています。
 
 研究室のメンバーは2006年から毎年8、9月の2カ月間、北海道の根室海峡で、オスの調査をしています。調査期間中は毎日、息つぎのために海面に浮上してきた地点を陸上から観測。個体を見分けるために船の上から写真も撮っています。
 佐世保市の九十九島水族館「海きらら」からも「五島列島沖にマッコウクジラらしきものがいる」との情報が入り、14年に調査したところ、「長崎にも本当にいたので驚いた」そうです。場所は五島列島の福江島と男女群島の真ん中付近。海底が溝のように深くなっている「五島海底谷」と呼ばれているところです。水深は最も深いところで約800メートル、溝の幅は約10キロもあります。
 以来、研究室はこの海域で毎年5、6月に調査し、5年間で24頭を確認することができました。頻繁に登場する5頭に愛称もつけ、『ロガ蔵』と『タグ蔵』がよく一緒にいることも分かりました。
 この2頭の尾びれと背びれを見比べてみましょう。タグ蔵の尾びれはガタガタで、ロガ蔵の背びれ付近には白い模様があります。このように体の特徴を基に個体を見分けていきます。

ロガ蔵とタグ蔵のひれの特徴(提供・長崎大学海棲哺乳類研究室)

 専用の測定機でクジラの体長も測ります。ロガ蔵は約12メートル、タグ蔵は約12.6メートル。根室海峡の個体に比べ、五島沖のクジラは一回り小さく、大人になる前の若いオスだということも判明しました。世界的には大人のオスを対象にした研究が多いため、若いオスがいる五島沖は貴重な研究の場になっています。
 18年には小型無人機ドローンで調査することが可能になりました。上空から撮影することにより、今まで以上に多くの情報が得られるようになりました。
 これまでの調査研究で、若いオスは大人のオスに比べ、群れをつくる傾向が強いということが分かりました。「潜水や浮上のタイミングが同じなど、社会性が高い」そうです。人間でいうと、男子の仲良しグループみたいな感じでしょうか。
 五島沖のクジラは3月にやって来て、8月ぐらいにいなくなるそうです。どこからやって来て、どこへ行くのか。東京大学と協力し、衛星発信機を個体に付けて調べる計画もあります。
 小林さんは「8月以降、南下しているのでは」と考えていましたが、昨年は9月下旬に長崎半島の野母崎沖約50キロの海上でマッコウクジラを観測。11月中旬にも同じ海域で、マッコウクジラが発したとみられる音を水中マイクで確認しました。「もしかしたら1年を通してここ(長崎の海域)にいるのか」。謎多きオスの魅力に取りつかれ、研究にますます夢中です。
 「長崎の近くにも大きな生き物がいる。まだ分かっていないことも多く、それを調べるのは楽しい」と小林さん。「調べて分かったことは、しっかりお知らせしていきたい」と話しています。