岩井秀人のショウ『いきなり本読み!』誕生背景が要記録 皆川猿時、神木隆之介ら参戦

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『振り返れ!「いきなり本読み!」あの時なにかが起こったね』で、皆川猿時(映写画面左)、岸井ゆきの(同右)らの本読み映像を流しながら、コメントする岩井秀人(右端)=東京・渋谷

 記録しておかねばもったいない新しいショウが誕生した。筆者がそれなりに長く見てきた岩井秀人が生みおとした。

【★いきなり本読み!とは★】

▼「出来上がった舞台より、稽古場のほうが面白い」。だったら、1日だけ俳優を集めて客前で本読みをしてみよう。劇団ハイバイ主宰、岩井秀人が思いついた。

▼2020年2月3日、第1回『いきなり本読み!』が、東京・浅草の東洋館で開催。何を読まされるや知らずとも、企画に賛同して集まったのが、皆川猿時、岸井ゆきの、今井隆文、後藤剛範、神木隆之介の俳優陣。指示を出し、ツッコミを入れるのが岩井。

▼岩井が配った台本は、自身の傑作の一つ『おとこたち』。頭から読ませるのではなく、いきなり第14場から。岸井はその舞台を見たことがあるが台本を手にするのは初めて。ほぼ全員が、この作品は、場面は、シリアスなのかコメディーなのか、自分の役はどんな人物か、関係性は? 全然分からず読んでみる。

▼いきなり読むのだから、うまくいかずとも何ら問題ないはずだが、そこは客前、俳優たちはえらく必死で、五里霧中でもフルスイング! おかしみ最上級。

▼「おとこたち」を見たことがある客も、ない客も笑わされる。作品世界をつかさどる岩井も、想像を超えた読みに噴き出す。少し指示を与え、同じ場面を繰り返す。一気に変化を遂げる俳優たち。できてしまうことに驚く岩井。配役を入れ替えてやってみる。次の場に進む。

▼好評につき後日、『振り返れ!「いきなり本読み!」あの時なにかが起こったね』が渋谷で開かれた。浅草の収録映像を流しながら、岩井がコメントしていく。筆者の私はこの振り返りイベントを取材できた。

▼ちなみに神木隆之介は、岩井がオファーした当初から乗り気だったが、「(事前に自分の)名前は出さないでください。この企画に純粋に興味があるお客さんの前でやりたいです」と言ったそうだ。うれしい一言。

【★岩井が明かした動機・背景が、赤裸々で貴重なので列記します★】

▼「演劇は何度もやっていると飽きてくる」

▼「舞台で自分が何をやっているのか分からなくなってくる。80回とかやったら、おかしくなってくる。精神的、肉体的に。経済的にだけはいいけれど。俳優さんって内側で確実に疲れている」

▼「こないだも、自分がつけ髭を忘れて舞台に出て、20分ぐらい、そのことばかりが頭にある状態ということがあった」

▼「本番では、稽古でどのくらい苦労したのかが、見えずらい。埋まっていっちゃう」

▼「演劇は1時間半とかやって、アフタートークがあってという構造が出来上がっちゃってますけど、今の形でなくても許容してもらえたら」

▼「俳優が台本をもらって、『こうしてみよう』と、それぞれが武器を出してくるときが一番面白いんじゃないか」

▼ 「稽古してないものを見せる、というのではなく、このキャスティングで初めて本読みをするのを見せるって、1回しかできないこと」

▼「演劇の一番面白いところを集めて見せられるんじゃないか。皆川さんみたいに、その場でなんとかしてみる、というのが演劇的で面白い。なんとかして相手との関係でやってみる、これが台本の構造にもつながるのがいい」

▼「商業(演劇)の実際の本読みは、関係者、マネージャーまで含めて全部で100人ぐらいいて、地獄です(笑)。映画の初号(試写)も同じですが、純粋に作品を楽しもうという人がいない場なので。みんな『自分』の仕事を見ているし、マネージャーは自分のタレントの仕事を見ている」

▼筆者補足:ちなみに、2012年、ミュージカル『ミス・サイゴン』を日本で演出したダレン・ヤップは「この悲劇を繰り返し演じる中で、主人公のキム役の俳優にかかる精神的な負荷は著しく、俳優のメンタルのケアは大切だ」と話していた。

▼筆者補足:ちなみに、『アナと雪の女王』のブロードウェイ・オリジナルキャストで女王エルサを演じていたケイシー・レヴィ(Caissie Levy)は昨年7月、ミュージカル俳優の声帯への負荷についてツイートし、俳優らから反響を得て、こう記した。

「10年前に摘出した声帯嚢腫についての私のツイートに大きな反応を頂いた。声の健康と怪我についてもっと話すべきだと思います! ブロードウェイの歌手は本当にアスリートです。汚名を終わらせ、話し合いましょう」

▼筆者補足:本読みの2周目にして、皆川猿時は既に飽き始めている?という気配がちょこちょことうかがわれたことを、岩井が振り返りイベントで指摘した。

【本読み中の発言で筆者が気になったもの】

▼本読み2周目の盛り上がりに、岩井は「こんなんで1時間半たつなら、台本全然書かなくていいじゃん! そういうことなんじゃないの、演劇って」と言った。すると岸井ゆきのが、すかさず「いや(新作)書いてください」。岩井「ありがとう」。

そもそも岩井は新作主義ではなく、昨年には「一生のうちに書けるいい作品を、自分の場合はもう書いてしまった気がする」と話していた。岩井と岸井の短いやりとりに感じ入る。

▼神木「僕はあまり心でやってないです。音でやってます」。

 神木の本読みを聞いていると、そのことに気づく。声優としても評価が高い神木。技の引き出しが多く、細部、細部にニヤリとさせられる。

【★次回『いきなり本読み!』への岩井展望★】

▼「俳優さんがみんな、すぐにできちゃって、目論見がはずれた。もうちょい下手な人を呼ばないと(笑)」

▼「他の俳優への(演出家の)オーダーを聞かない人を連れてこようと思ってます(笑)」

▼「後から考えると、何人か代わる代わるやった結果、役人物が観客の頭の中にも単独で生まれだした。俳優が入れ替わると、普段俳優を見る時に僕は違う視点を持てる」

▼「いろんな人が『いきなり本読み!』をやってみればいいけど、僕は(演劇界で)独特なポジションなようで・・・。いろんな人がやることでつまらなくなることもあるので、バランスを考えたい」

▼「もっと訳が分からないのをやりましょうか。ブルー&スカイさんの台本とかどうかと。ブルー&スカイさんの演出でいいと思う。よく出ている人と、出たことない人というのも面白い」

▼「ゆくゆくは本多劇場(下北沢)、それと、パルコ劇場(渋谷)でやってみたい」

▼「いつか、阿部サダヲさんを連れて来るところまでやりたい」

【★岩井と筆者、ちょっと立ち話★】

▼海外の俳優でも成り立つと思いますか?

岩井:「フランスで演出をしたことがあるけど、フランス人はこっちが5言ったら、20質問が返ってくる感じだから、『いきなり本読み!』を見ながら、それを説明する人が必要かも(笑)」

▼即興劇と違って、既に在る舞台の台本があって読む、書いた人間が作品世界をつかさどる支配者として居て、その人が演出するから面白い?

岩井:「そうですね。インプロとはまた違って、ある作家の作家性に俳優さんたちが合わせていく感じが面白いかなと思うんですよね」

▼いきなり本読みなのに、進行していくうちに、演出家を脅かす俳優さんが出てくるなんてことも起こりえますか?

岩井:「古舘寛治さんがいたら、起きるかもしれないなぁ。」

【★おわりに★】

▼岩井秀人は人間の<飽きる>機能にプルプル震え、しかし利用し、<忘れる>機能にもチラチラ目配りしながら、俳優も観客も「こういうステージがあってもいいよね」と肩の力を抜けるショウを生み出した。コロナには困ったものだが2回目が待ち遠しい。(敬称略)

(宮崎晃の『瀕死に効くエンタメ』第133回=共同通信記者)