植松被告は「美しさ」になぜこだわるのか 相模原殺傷、22回接見した記録(上)

 「格好良ければすべてが手に入る」。3月4日午前9時過ぎ、横浜拘置支所の2番面会室。右手に自傷行為防止用の手袋を着け、青いフリースジャケット姿の目の前の男は、相変わらず口元だけをゆがめた笑みを浮かべている。こうも言った。「死刑になるような犯罪とは思っていませんけどね」

 男は植松聖被告(30)。相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者ら45人を殺傷した罪に問われている。横浜地裁での裁判員裁判は2月19日に結審し、判決は3月16日だ。寒気を感じたのは面会室に入り込んだ冷気のせいだけではない。16日間の審理が終わり、死刑求刑されてもなお、独善的な主張に全く変化がなかったからだ。裁判は自説を宣伝する場になったと納得しているようだ。「おかげさまで」。記者の目をまっすぐ見て、頭を下げた。    障害者を狙い19人を殺害するという前代未聞の事件を起こした被告は、どういう感覚の持ち主なのか。記者は2017年から22回、接見取材をした。被告が語ってきたことを、2回に分けて報告する。(共同通信=渡辺夏目)

接見取材に応じる植松聖被告(中央)(イラスト・勝山展年)

 最も印象に残ったのは、容姿へのこだわりと強い劣等感だった。

 初公判の日程が決まった19年4月、あらためて動機や経緯を尋ねた。すると無表情に変わり、機械的な口調に。「重度障害者は不幸を生む」「有意義なことをした」。出てくるのは以前と変わらない回答だった。

 被告は「100人以上と面会した」と説明していた。他の人からも同じことを聞かれているのだろう。同じフレーズを何百回と言葉にしている様子がうかがえた。「事件のことは好きに書いてくれていいです」。投げやりに言い放った。

 質問を続けようとする記者に、じれたように「美容整形の話をしたい」と切り出してきた。そういえば、と思った。時々楽しそうに口にする〝美容ネタ〟であれば、彼の人間性や価値観を探れるかもしれない。会話の続きを促すと笑顔になり、その後の面会でも冗舌になった。

 被告によると、最初に鼻の形を変え、続いて目を二重にする手術や医療脱毛をした。約150万円を借りて受けたという。さらに数百万円かけて小顔手術にしようと思ったが、信用審査に落ちて借金ができずに諦めたらしい。「やりたい整形をすべてやるには3千万円はかかる」と当然のように語った。

 金額に驚くと、あきれた様子でこう言った。「ローンで家を買うより、まずは美しさを手に入れるべきだ」。人間関係が円滑になって金も稼げるようになると力説し、「自分を好きになれる」と強調した。さらに記者の顔を眺め、「目の形はきれいだけど、鼻にボトックス注射を打った方がいい」と〝助言〟。有名クリニックの名を挙げて勧めてきた。ひげの濃い男性記者には脱毛を勧めているという。

事件前、植松聖被告が津久井やまゆり園の家族会誌に寄せた自己紹介文

 被告は園に就職した後、痛切に外見のコンプレックスを感じた経験があった。ハロウィーンの時のことだ。

 パンダの着ぐるみを着て外を歩くと、子供も大人も駆け寄ってきた。「人気者になって楽しかった」と声を上げて笑う。ところが、着ぐるみの頭部を外すとすぐに人だかりは消えた。落胆されたのだと思った。「人は見た目が全てだと分かった。ぼくが羽生結弦だったら違ったのに」

 悩んだ末、容姿の良い友人に勧められたのをきっかけに整形を決意した。その時のことをこう振り返った。

 「整形には抵抗がありました。それまでの自分の否定だと思うんです。勇気がいることだと思った。(勧められた)友人に『自分じゃなくなる』と言ったら『自分じゃなくなってもよくない?』って言われて。それもそうだと思った」

 「美意識」が高いあまり、拘置支所では問題も。食事を受け付けられず、痩せた時期があったのだ。油の質が健康に良くなく、顔がむくむのが嫌だったのだそうだ。

 被告のこの美意識は、事件にどこかでつながるのだろうか。「入所者を醜いと思ったり、嫌悪感が生じたりしたのか」と聞いてみた。被告は少し考えたあと、かぶりを振った。「いや、入所者にもかっこいい人はいたので。他の職員と『もったいない』とよく話していました」と笑った。

 その一方、意思疎通のできない重度障害者を「心失者」と呼び、「心失者は人を不幸にする。美しくない」と主張する。存在自体が美しくないと言わんばかりだった。

 植松被告は事件直後、ツイッターに「世界が平和になりますように。beautiful japan!!!!!!」と投稿している。口元だけが笑顔の自撮り写真と一緒に。彼の考えがとても分かりやすく表れたメッセージだったのだと、接見して分かった。

 19年4月の接見で「死刑は嫌だ」と話していた被告は、4カ月後に一変した。裁判に臨む心境を聞いたら、「一審だけでいい。死刑判決でも構わない」とつまらなさそうに時計に目をやり、美容整形の話に強引に戻した。「でも、もしここを出られたら…」と急に声を弾ませ、「身長を伸ばす手術をしたいんですよ」。「他の人になりたい。人生はあっという間です」(続く)

事件当時の津久井やまゆり園

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