F1オーストラリアGP木曜会見:異様な雰囲気で始まった会見。王者ハミルトン「みんながここにいることに驚き」

 今年のFIA会見は、いつもと違う雰囲気で始まった。その理由のひとつは、昨年まで使用されていたテーブルがなくなり、出席者はソファに座りながら会見を行うスタイルに変わったからだ。このスタイルはすでにプレシーズンテストから試験的に導入され、今後も同様のスタイルが取られると考えられる。

 もうひとついつもと異なるのは、新型コロナウイルスの世界中に蔓延するなか開幕しようとしている少し異様な雰囲気だ。

 記者席からの質問でも、最も多かったものは、新型コロナに関するものだった。

 もし、中国GP以外にも序盤の数レースが延期されたり、中止になった場合、どう考えているかと聞かれたセバスチャン・ベッテル(フェラーリ)はこう答えた。

「僕たちはFIAとF1が懸命な判断をし、正しい決定を下すことを期待している。現在の僕たちはおそらく幸運な状況にあるんだろうと思う。なぜなら、僕たちが乗るマシンには、一緒に乗る乗客がいないからね。僕たちは、自分自身で状況をコントロールできる立場にある」

「それはちょっと利己的に聞こえるかもしれないけど、人間というのは誰もが多かれ少なかれ、利己的でしょ。握手する人もいれば、そうでない人もいる。笑う人もいれば、いつもシリアスな人もいる」

「僕が言いたいのは、現時点で今後の状況を整理して語ることは非常に難しいということ。しかも、僕たちはそれを判断し決定する立場にはない。僕たちはFIAとF1の決定を信頼して待つだけ。少なくとも、僕たちの飛行機はキャンセルされず、オーストラリアに全員が入国でき、ここでみんなの前で座って、記者会見を行っている。多くのメディアが、それ(F1の今後)を質問してくるけど、現時点ではそれに答えるのは非常に難しいよ」

セバスチャン・ベッテル(右)とデビュー戦を迎えるニコラス・ラティフィ(左)

 これをベッテルの隣で隣で聞いていたニコラス・ラティフィ(ウイリアムズ)は少し戸惑いの表情を浮かべていた。なぜなら、ルーキーのラティフィにとって、今年の開幕戦はF1デビューレースになるからだ。

「F1のデビューをこのような雰囲気のなかで迎えるのは、正直少し複雑な心境だね。開幕戦をこのまま開催していいかどうか。また、開幕戦以降もそのまま続けるのかどうか。僕には、正直判断はできない。だから専門家のアドバイスに従うしかない」

■「自分の意見をはっきり言うべき」王者ハミルトンは驚きを隠さず

 開幕戦が母国グランプリのダニエル・リカルド(ルノー)にとっても、複雑な問題だ。

「正直、僕たちはFIAを信用するしかない。いろんな意見があるかもしれないけど、僕はここにレースをするために来ている。それ以上のことはできない。多くの人たちがさまざまな準備をして、そのガイドラインに従っている」

「セブが言ったように、ウイルスがいるかどうかなんて僕たちにはわからない。でもちょっと変な言い方だけど、レーシングドライバーとしてサーキットにいることはハッピーだよ」

 そんななか、6度のワールドチャンピオンに輝いた現役最強のドライバー、ルイス・ハミルトンは、声に出せないドライバーたちの気持ちを代弁するかのように、強いメッセージを発信した。

ルイス・ハミルトン(左)と母国レースを迎えたダニエル・リカルド(右)

「正直、僕はみんながここにいることにすごく驚いている。今朝もトランプ大統領がヨーロッパからのアメリカへの入国を止め、NBA(全米プロバスケットボール)が試合を見合わせたというのに、F1は続行しようとしている。F1はまるで普通の1日みたいにみんな過ごしているけど、本当はそうじゃないはずだ。今日も大勢のファンが来ていた。ここ以外の世界はみんな(新型コロナに)対応しているのにね」

「今朝、ジャッキー・スチュワートに会った。彼は健康で元気なように見えた。ほかにもパドックには多くの高齢な方もいた。だから心配なんだ」

「僕はこの問題に対しては、自分の意見をはっきり言うべきだと思う。結果がわかるまでに5日ぐらい(つまりレース後まで)かかると聞いた。偶然にしても、ちょっとあり得ないよね。やっばり、お金かなあ。僕にはわからない。とにかく、この週末が感染者が出ることなく終わることを本当に望んでいる」

 これを横で聞いていたベッテルは、ハミルトンの意見を尊重し、ドライバーが団結することが大切だと説いた。

「これだけ多くのスポーツが延期や中止になっているんだから、ルイスのように僕たちが意見を述べるのは当然の権利だと思う。ただ僕は、これはみんなも同意してくれるといいんだけど、そこまで深刻な事態にならないことを願っている。でも、もしそうなってしまったら、僕たちはハンドブレーキを引かなければいけないだろう」

「僕たちドライバーは20人のグループで、いつもさまざまな状況、課題について団結してきた。だからこの問題も、必要なときが来れば、意見を共有して力強いメッセージを送ることができると信じている」

 F1オーストラリアGP開幕前夜、3月12日の夜はオーストラリアGPだけでなく、F1の未来がかかった長い夜になりそうだ。

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